見出し画像

小説のプロットってどんなもの? 「うしろむき夕食店」第二話プロットを特別公開!

キリンビール公式noteさんで連載スタートした「うしろむき夕食店」。
第一話はもうお読みになったでしょうか?

キリンビール公式note×ポプラ社一般書通信×新人作家・冬森灯という、業界を超えたコラボで小説をお届けする試み。
いっぷう変わった料理店「うしろむき夕食店」を舞台に、「乾杯の瞬間」「つながる温かな想い」の魅力をお伝えしていきます。

▼企画の経緯はこちら。

第一話から「心温まる」「お酒が飲みたくなる!」と各所で話題ですが、このたび第二話が公開されました。

そんな第二話がもっと楽しめるように、今回は特別に「プロット」を公開しちゃおうと思います。

プロットとは、小説を書き始める前の設計図のようなもの。
おおまかな構成やキーとなるポイントを先に組んでおくことで、道に迷わずに小説を書きあげることができます。

プロットの書き方は人それぞれ。
細かく書き込む人もいれば、ざっくり作る人もいます。プロットを作らない人もいます。
小説の作り方に正解はありませんが、「うしろむき夕食店」がどのように作られているのか、その過程も楽しんでもらえれば幸いです。

プロットで実際に苦労した部分なども冬森さんに語ってもらいましたので、合わせてお楽しみください。

※ネタバレになりますので、ぜひキリンビール公式noteさんで公開中の二話を読んでからご覧くださいませ。

二の皿プロット

二の皿 * 商いよろしマカロニグラタン
宗生(むねお)は、偶然車に乗せた女性からうしろむき夕食店の話を聞き、料理に心惹かれ、後日店をたずねる。道に迷うが、犬のような生き物に導かれて店を見つける。
乗せた女性は希乃香。人を探しに行き道に迷い遭難しかけた。無事の帰着に乾杯し、柚子胡椒唐揚げ、きのこのグリル、里芋のポテトサラダ、煎り銀杏と、冷酒を楽しむ。
宗生は製薬会社のMR。厳しいノルマと気難しい取引先医師達との板挟みになりながらも、売上獲得のためにまい進してきたが、がんばっても売り上げ計画を達成できない地区への転属をきっかけに、仕事のモチベーションに迷う。
同じ部署の先輩・久樹(ひさき)に相談する。久樹は雑談の中で、昔、胡散臭い服装のおじさんに食事をご馳走された思い出を話す。おじさんの服装は町工場を営む父を思い出させた。子どもの頃に格好よく思えた父は成長するにつれてちっぽけに感じ、今の自分の姿とも重なって思える。以前両親を高級レストランに招待した時、父は喜んだが、高級料理の味もわからなかった。宗生は子どもの頃好きだった紙工作で空き時間を紛らしはじめる。
転職も検討するが待遇面から足踏み。学生時代、小麦粉とバターでお好み焼きばかり作っていた暮らしには戻りたくないと思う。久樹のアドバイスで、新規開拓や説明会など新しいことに取り組んでみるものの、うまくいかずに、意欲を失う。父の苦労が分かる。
一息つきたくてうしろむき夕食店を訪れる。
常連客から転職なら希乃香が詳しいとすすめられる。希乃香は過去のへこたれない転職歴を話す。祖父を見つけて店を継ぎたいと話すが、祖父の捜索は難航している。
おみくじを引き、マカロニグラタンが提供される。冷酒を頼もうとするが、希乃香のすすめでぬるめの辛口日本酒と合わせると、うまみが増す。
両親と高級料理を食べたとき、父は気取った食事よりも、ふつうのグラタンを喜んだことを思い出す。グラタンのソースは小麦粉とバターと聞き、材料が限られていても、調理の工夫でおいしいものは生まれると気づく。
希乃香は祖父の好きだった料理を志満から聞く。
宗生は退職も視野にいれ、取引先と率直に接するようになる。相手の話に耳を傾け、自社製品よりもよければ素直に他社製品をすすめる。紙工作に目をとめた医療関係者から講座を頼まれれば無償で応じた。離れていく相手もいたが、信頼してくれる人がそれ以上あらわれ、新たな縁につながり、結果的に売り上げ計画は達成される。
久樹と待ち合わせ、夕食店で乾杯をする。

プロットすごく難しいです<冬森さんコメント>

プロットは、大切だけど、難しいもの、と思います。
書きながらわかっていくことも多いので、物語や登場人物の全貌が見えているわけではない初期段階でのプロットは、物語そのものの流れとともに、「何を書いて」「何を書かないか」が私には難しく感じます。
どのような登場人物になにが起こるのか、暗闇に目を凝らすような中で、無数の可能性からひとつの必然性をもった答えのようなものを見つけるのが、とても難しいと感じます。
小説のつくり方は人それぞれだと思うのですが、プロットが物語の柱、場合によっては命綱にもなるので、大切なものでもあります。

『うしろむき夕食店』は連作短編なので、全体としての流れと各話の流れがあり、その両面から中身を悩みながら探り、編集者さんのご助言をいただきながら何度も練り直して、この形になりました。
その過程で、一番変わっていった登場人物が、2話の登場人物・宗生です。
最初は、中身がないと言われている人物として考えていたのですが、編集者さんとの打ち合わせを通して、すくいあげる視点、なくしてもよい視点などをすりあわせ、仕事のモチベーションを失っている人物、という今の形になりました。

完成したプロットはキリンビール公式noteのご担当者さんにも見ていただき、ご意見を反映しています。プロットではマカロニグラタンにはぬる燗を合わせていますが「多様なお酒の楽しみ方を提案したいので、日本酒以外も登場してもらえると嬉しい」とご要望をいただき、宗生にはワインもおいしく楽しんでもらいました。

全話のプロットを通して、いくつかお酒やお料理を書いてあるので、そのバランスを見ながら、各話でなにを食べようか考える際にも、書きながら何度も立ち戻ります。
また、プロットに書いたことは、物語を書きながら必要に応じて変わることもあります。
2話ではたとえば、主人公・宗生が紙工作で「空き時間を紛らしはじめる」ところが、仕事の現場での子どもとの出会いに変わったり、登場人物の名前「久樹」が央樹に変わったりしています。
プロットでは「町工場を営む」とだけ書いた宗生の父の職業は、物語を書きはじめると「どんなものを作っている、どういうひとで、どこにあるのか」など、より深めていくことになります。その過程で見えてくるものがあるので、プロット段階で書きすぎていないことで、広がりが出る部分もあります。(ちなみに書きながらも変わっていくので、宗生の父が町工場を畳んだあとの職業が最終確定したのは締切前日で、大幅に書き換えて間に合わせました。完成後に見ると他になりようがないと思えるのですが、プロット段階ではわからなかったことでした)

私もまだまだ勉強中ですが、他の人のプロットを見られる機会はあまりないかと思うので、よろしければ本編と合わせて、違いなどもお楽しみいただけたらと思います。

冬森灯

いかがでしたでしょうか。
プロットと実際の小説では違っている部分もあったりして、もう一度読み比べてみるのも面白いかもしれません。

おいしそうな料理がどんどん増えていく「うしろむき夕食店」
第三話もぜひご期待ください!

※「うしろむき夕食店」幻の企画書はこちらで公開中!▲

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?