テレワーク×チームコミュニケーションの書籍を出版した理由
2015年から5年以上に渡り、リモートでの会社経営・チーム運営を続けてきた中で得られた知見や実践例をまとめた書籍『テレワーク環境でも成果を出す チームコミュニケーションの教科書』をマイナビ出版さんから出版します。
■書籍の内容
第1章. テレワークが当たり前の時代
第2章. リモートコミュニケーションでの4つのトラブルパターン
第3章. リモートコミュニケーションに欠かせない8つのサービス
第4章. 信頼関係を高める チームビルディングの4つの取り組み
第5章. 業務をスムーズに進めるための11つのコツ
第6章. オンライン会議の生産性を上げる7つの工夫
第7章. 評価・育成に欠かせない4つの取り組み
「教科書」という僭越なタイトルになっていますが、テレワーク環境で仕事を行う上で一番の課題になる「チームコミュニケーション」について、具体的な仕組み・工夫・Tipsを盛り込み、実務ですぐに活用いただける部分が多く含まれています。
・テレワーク導入を拡大していきたい経営者
・テレワークでのチーム運営を行う必要があるマネージャ・リーダー
・リモートでのコミュニケーションをよりスムーズに進めたいメンバー
の方々には、ぜひご一読いただき、参考になる部分をぜひ取り入れて頂ければ幸いです!
以下、長文になりますが、本書執筆に至った経緯・目的を共有させてください。
そもそも全面テレワークに移行した経緯と結果
私が経営していた株式会社ポップインサイトが全面テレワークに移行したのは、2016年2月でした。
2013年1月に会社を設立し、3年目のあるタイミングで、業績不振でキャッシュが底をつく可能性が高く、苦渋の選択としての全面テレワークでした。(このあたりの具体的な経緯は、以下マガジンの(51)以降になるので、ぜひ興味あらばご覧ください)
その後、どうなったか。
業務自体は全く問題なく進み、テレワークに移行したことで可視化が進みました。当時では珍しいテレワーク体制をとり、全国採用どこでも採用体制にしたことで、東大・京大といった高学歴な候補者の方が自社サイトからの応募してくるようになりました。
メンバーの数は約5倍の50人を超えました。
設立数年の零細企業ながら、「テレワーク先駆者百選」という総務省主催の団体に、ソフトバンク・日本電産・武田薬品・リコーといった大手企業が並ぶ中に名前を連ねました。
東証一部上場のメンバーズからお声がけをいただき、M&Aによってグループ会社になりました。(私自身は、2020年4月からは、ポップインサイトの代表は退任し、メンバーズの執行役員となっています)
テレワーク体制に移行したことが、大きな成長のきっかけになりました。
テレワーク化の最大の障壁はコミュニケーション
しかし、テレワークに全面移行がスムーズに進んだかというと、もちろん問題はありました。環境面、法務面、労務面などにも様々な課題がありましたが、中でも特に問題になったのはコミュニケーション面です。
・採用時にいかに相手の印象を判断するのか。
・入社後、どのようにお互いに理解し、信頼関係を構築するのか。
・全くの未経験者に対し、どうやって業務を伝えるのか。
・モチベーションを持続的に維持するにはどうしたらいいのか。
・仕事結果がいまいちな時、どのように指摘するのか。
オフィスで仕事をしている時にも同じような課題はありましたが、テレワークになると実際に会って話す機会がなくなると、これらの課題がより顕著になりました。
2016年に本格的にテレワークに切り替えてからは、全国採用にしたこともあり、ほとんどのメンバーとは年に2回の全社会議以外に会う機会はありませんでした。入社して3ヶ月たっても1度も直接会ったことがない、というケースもよくありました。
テレワークにおいては、物理的に距離が離れている分、意識しないと心の距離も離れてしまいます。心の距離が離れると、信頼関係を築きにくかったり、損なわれやすかったりします。
テレワーク移行の当初は、コミュニケーション面よりも、業務進行や管理などのより実務的な面を意識してしました。しかしその結果、初期時点のメンバーの多くは退職してしまい、一時期は社員数が3人と激減してしまったこともありました。
この反省を踏まえ、これらを何とか解決するためには、コミュニケーションのあり方や仕組みをテレワークに最適化する必要がありました。
またポップインサイトの当時のミッションは「ユーザ視点を間近にし、コミュニケーションバグをなくすことで、価値が正しく伝わる社会を実現する」というものでした。
コミュニケーションバグとは、コミュニケーションがうまく伝わらない状態やその要因をさす造語です。システムのバグ(プログラムのミス・誤り)という言葉から拝借しました。
仮にも「コミュニケーションのバグをなくそう」と謳っている会社が、コミュニケーションで問題山積みという状況では話になりません。
社内コミュニケーションの考え方や仕組みをしっかりと作り、バグの少ないコミュニケーションができる環境を作る必要があったわけです。
またポップインサイトと平行し、2015年にはもう1社を立ち上げていました。
当時、クラウドソーシングという業態が非常に伸びていました。インターネット上で働きたい人を集め、インターネット経由で行える仕事を受注し、納品するという仕組みです。文章作成、検品、ECサイトの出品、デザイン、システム開発など、様々な仕事がこのクラウドソーシングという仕組みで行われていました。
2014年12月にはクラウドワークスが上場し、またランサーズという会社も同様に成長していました。多くの企業がクラウドソーシングを活用しはじめていました。
この成長市場に目をつけ、「ちょっと難しい単純作業」を専門としたクラウドソーシング事業を行う会社を立ち上げたのです。
「仕事をしたい人(在宅ワーカー)」は増えており、インターネット経由で毎月500人~1,000人程度を集めることができました。
また「インターネットでできる仕事」についても、需要が大きく伸びている時期だったので、いくつかの経由で仕事をもらう流れを構築し、受注が拡大していきました。
そして、ここでも問題になったのがコミュニケーションです。
ポップインサイトでは、コミュニケーションをする対象はほとんどが社員でした。対面と比べると接触頻度が低かったり密度が薄いという課題はありましたが、社員という雇用形態を前提としていたため、一定のコミュニケーションは取れる前提があります。
ところがクラウドソーシング事業では、在宅ワーカーさんとは雇用関係はなく、ある特定の仕事を依頼し、納品してもらうという極めて短期的な関係性です。
また仕事内容も、案件ごとにまちまちです。「AIの教師データとして子供の特定の発話を集める」「Webサイトを巡回し、特定のルールでデータ化する」「PDFデータから、特定の箇所だけピックアップする」「全国の観光スポットの情報を特定フォーマットに入力していく」など千差万別です。
このような「極めて薄い関係性」かつ「案件ごとに異なる仕事内容」という状況で、しっかりと納期と品質を担保して仕事を進めていくために、コミュニケーション方法を相当工夫する必要がありました。
ある案件では、100人体制でスタートしたにも関わらず、こちらの説明方法が分かりづらかったことから半分以上の方が途中でやめてしまい、納期に間に合いませんでした。またある案件では、作業内容が分かりづらく、そもそも応募自体がほとんどこないこともありました。
しかし、コミュニケーションの意識を高め、様々な工夫を行ことで、徐々にこれらを改善することができました。他社と比べて高い品質での納品を行うことができるようになり、クライアントからも信頼を高めていくことができました。
その結果、2016年10月にはM&A会社経由で会社譲渡を行いました。当時のメンバーの1人が、今でも社長を続けています。
「レス時代」だからこそ、コミュニケーションが重要
コロナの影響をうけ、世の中は大きく「レス時代」に動いています。
出社レスや通勤レスになり、その結果としてオフィスレスの動きも加速し、結果的にテレワークとなり対面レスの状況がうまれてきます。また出張レスの動きもあり、社内だけでなく社外においても対面レスが進んでいます。
このようなレスの時代において、重要になるのは信頼関係です。信頼関係があればこそ、実際に会わずとも、お互いに安心感をもって仕事に取り組めます。
そして信頼関係を作る礎はコミュニケーションです。「コミュニケーションレス」になる状況は避けねばなりません。
いま様々なメディアで「テレワークではコミュニケーションがしづらい」ことが課題にあげられています。
しかし、コロナの影響だけに限らず、女性の活躍、介護との両立、配偶者の転勤により場所移動、地域の活性化、海外とのより密な連携など、様々な角度からテレワークができることの重要性は高まっており、この流れを止めることはできないでしょう。
であれば、論点を「テレワークにすべきかどうか」ではなく、「テレワークでどうやって良質なコミュニケーションをとれる環境を作るか」に切り替え、試行錯誤を重ねていくべきでしょう。
テレワークだからこそ実現できること
私が大学を卒業したのは2008年3月末でした。ちょうど、同じ月に発売された本があります。『日本でいちばん大切にしたい会社』という本です。
法政大学教授の坂本光司さんが、日本の企業の中で、事業規模や売上・利益ではなく、あり方や志が優れている会社を紹介するという本です。
その中の1社が日本理化学工業という会社です。
黒板のチョークを製造している社員数100名弱の中小企業です。そして社員の7割が障がい者という会社です。
社員数が10数人だった昭和34年のある日、養護学校の先生から、卒業予定の障がい者の子供を採用してほしいというお願いがありました。
社長の大山さんは「その子たちを雇うのであれば、その一生を幸せにしてあげないといけない」と悩み、一度は断りますが、1週間だけの就業体験ということで2人の少女を受け入れます。
就業体験が終わった前日、10数人の社員が大山さんを取り囲み、「ぜひ正社員で採用してあげてほしい」と懇願されました。
ここから障がい者採用をスタートします。
しかし大山さんは「どう考えても、会社で毎日働くよりも施設でゆっくりのんびり暮らしたほうが幸せなのでは」と疑問に思い、ある禅寺のお坊さんに質問します。するとお坊さんはこう答えました。
「幸福とは、①人に愛されること、②人にほめられること、③人の役に立つこと、④人に必要とされること」「(そのうち②③④の)三つの幸福は働くことによって得られる」
また次に、ファンケルスマイルという会社のエピソードが紹介されます。
化粧品で有名なファンケルの特例子会社で、障がい者を雇用している会社です。その採用の中で、エピソードがあります。
養護学校から「三人の生徒を派遣しますのでそちらで選んでください」と言われ、三人が派遣されました。「A子さんは軽度の障害、B子さんは中度の障害、C子さんは重度の障害」です。
ほとんどの人はA子さんが採用されるだろうと思ったそうです。しかしある社員が言いました。
「私はC子さんを採りたい。なぜなら、A子さんやB子さんは、わが社が採用しなくても、きっとどこかの会社で採用してくれるはずです。しかし、C子さんは、わが者が今日、ここで採用しなければ、働く機会を永遠に失ってしまうかもしれません」
そして、C子さんが採用されました。
この本を読んだのは、私がまだ社会人一年目になった頃です。「会社とはこのようにあるべきだ」と未熟ながらに思いました。
時は流れ、2019年の春。
ポップインサイト社長であった私に、採用担当者から、面談を依頼されます。
その候補者の方は、29歳の男性。
有名な大学を卒業し、ベンチャー企業で営業職としてバリバリと活躍していまた。
すでにご結婚もされ、生まれたばかりのお子さんがいます。
そして、白血病を患っているとのことでした。
1年ほどの闘病の末、寛解状態となり、入院中ではありながら自宅での維持療養に移行し、在宅であれば仕事ができるのではないかということで応募してくれたのです。
面談をしました。
話しぶりも非常にハキハキし、過去の仕事における主体性などもとてもよく、とても高評価でした。
果たして会社として、採用すべきかどうか。正直、すこし悩みました。
でも、気持ちは決まっていました。社会人1年目から何度も読み返した『日本でいちばん大切にしたい会社』の、あのエピソードが頭の中に再び浮かんできます。
入社後、たまに救急車で運ばれることなどもありました。
そんな彼から、2020年8月、以下のようなメールをもらいました(本人にも公開許可をもらっているので、掲載します)。
お久しぶりです。
急なご連絡となりましたが、この度抗がん剤治療が終了しましたので勝手ながら報告させていただきました。
がん患者であり、なおかつ治療中という身でありながらポップインサイトに入社させていただいたことは、本当にうれしかったです!
最初白血病と分かった時は「確実に普通の生活なんてできなくなるだろうな...」と思っていましたが、ポップインサイトに入社して、ほかの人と同じように仕事をするという当たり前の生活が送れるようになったことが奇跡だと思っています。
もちろん経済的にも仕事ができるということはうれしいですが、何より「ずっと寝ているだけ=ただの病人」という状況だった自分が、「働いている=普通の生活を送っている人」という状況になったことで、前向きに生きていられるようになりました。
ずっと寝ているだけだと本当に社会との関わりが一切なくなり、余計自分が病人であることを自覚してしまう毎日でした...。
あの時入社を認めていただいた池田さんはじめ、ほかの役員や人事の方々、またこんな自分でも普通に仕事ができる環境をつくってくれているポップインサイトやメンバーにとても感謝しています。ありがとうございます!!
今まで治療や体調不良などでご迷惑をおかけし、これからも月一で定期検査の通院などがあるため離席の時間を取らせていただきますが、今まで以上に元気に働いていきたいと思います!
これからも宜しくお願いします。
ポップインサイトには、様々なバックグラウンドの方がいました。
命からがらDV夫から逃げ出し、生活を立て直す必要があったシングルマザーの女性。
小さなお子さんを抱え、地方でご両親と過ごすお母さん。
子供に障がいがあり、面倒を見ながら働くお父さん。
旦那さんの転勤の都合で、地域を転々と変えなければならない奥さん。
このような様々な背景がある中でも、会社の一つのチームとして一緒に仕事ができるのは、テレワークという働き方ができるからです。そして、物理的には距離はあっても、コミュニケーションを通じてお互いを知り、自立し尊重しあいながら働く環境があるからです。
テレワークは、働き方の一つのバリエーションに過ぎません。職種によってはテレワークが全くできないこともあります。またテレワークによって、不便を感じたり、制約が出ることも決して少なくありません。
しかし、テレワークという選択肢が広がり、テレワークであっても信頼関係を養うことができるコミュニケーションの土壌があることで、自分らしくやりがいのある仕事を享受できる人が増えることもまた真なりと思っています。
テレワーク環境を広げていく上では、テレワーク理解・業務整理・IT環境・社内規定などの多様なレイヤーでのハードルがありましたが、コロナの影響とともにこれらのハードルは一気に下がりました。しかし、この次にくるコミュニケーションのレイヤーにおいて、多くの組織・チームがまだまだ発展途上ではないかと思っています。
『テレワーク環境でも成果を出す チームコミュニケーションの教科書』で整理した内容が、より良い職場環境を作り、より楽しく幸せに働ける人を増やす一助になればと、心から願っています!