ショートショート「時転」

 激しい頭痛と共に私は目を覚ました。  

 私は、眠気と頭痛で意識朦朧としながらあることに気づいた。
眠る前の記憶が全く無い。まず、自分の状況を確認した。服は、パンツにワイシャツの前を開けた姿だった。この姿は帰ってきてすぐスーツの呪縛から逃れたのを物語っていた。寒かったので周りに散らばっているスーツを着た。

 私の家は、玄関を入り廊下の突き当たりに8畳一間のリビングがあるだけのこじんまりとした家だ廊下には小規模の台所スペースと風呂とトイレが別々にある独身サラリーマンの家といった感じの家に住んでいる。

 昨日は、仕事に行っただけだったため私は必死に考えた。そこで、最近入手したタイムビューイングを使う事を思いついた。

 タイムビューイングというのは、過去から未来までありとあらゆる時間を30分刻みに映し出せるパソコンソフトだ。しかし、近年では犯罪目的の利用を防止するために未来の視聴と自分以外の人間の時間軸の映像を視聴を禁止するためにプロテクトがかけられている。巷では、非合法版を入手するため
反政府組織が抗争を繰り広げているという噂がある。私には全くもって関係のない話しだ。

 このソフトは、友人から格安で譲り受けたものの過去の自分を見る必要性がなかったために使ってこなかった。今の私にとっては一番必要な道具である。自分の持っているノートパソコンを広げるため机の上の物を腕で退けた。

「イタッ」

思わず声をあげた、机の上に刃が出たカッターで腕を切ったらしい。
私は、仕方なく近くにあったタオルを患部に巻きつけて止血をした。

PCを立ち上げると、タイムビューイングを起動した。
30分前は流石に、まだ寝ていたであろうと考え、1時間前から視聴を開始することにした。

 読み込みにかなりの処理が必要のようで、PCがかなりのうねりをあげていたが30秒ほど待つと映像が再生された。

 いきなり衝撃的な、スタートだった。リビングの出入り口前に立っていた私は何者かによって背後から殴られて倒れた。私は驚いて映像を止めた。

 かなり戸惑ったがこの続きは想像がつくのでまた30分時間を遡った。

 1時間半前の私はヨロヨロと歩いていた。ブツブツと何かをつぶやいていたがタイムビューイングは音声が入ってこないので何を言っているかわからない。しばらく街を彷徨った私は何かから逃げるように歩いていた。そこで、30分が終わった。どうやらこのソフトは綺麗に連続しているわけでは無いようだ。

 また、30分時間を戻した。2時間前の私は、友人の家にいた。このソフトを譲り受けた友人だ、私は友人が何かを言ったのをきっかけに急に激昂し友人に掴みかかった。

そして、友人宅にあったゴルフクラブで後頭部を殴りつけた。友人は動かなくなった。

そこで、映像は止まった。

私は、愕然とした。友人を殺してしまったのだ。私は、自分のしでかした事に頭を抱えた。

人を殺した。この事実が私を苦しめた。後悔の念、罪の意識に押しつぶされそうになりながらじっと手を見た。

ある事に気づいた、止血のためにさっき手に巻いたタオルが映像の自分の手にも巻かれているのである。

ハッと立ち上がった時、私はリビングの入り口に立っていた。

ガツンという音と共に私は倒れた。

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