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ショートショート「ライブ」

「ご清聴いただきありがとうございました。」 
 講演者のその一言と共に盛大な拍手が会場を包んだ。
 
 非常に良いトークライブであった、登壇者の人生の苦悩や乗り越えた時の達成感そして登壇者の伝えたい哲学全てが一時間半に詰め込まれていた。

 鳴り止まぬ拍手の中、講演者は壇上を降りていった。

「アンコール」

 拍手の勢いが落ち着き始めた時そんな声が観客席から上った。その声をきっかけに次々と声が上がっていった。

「アンコール!アンコール!」
「「アンコール!アンコール!アンコール!」」 この声が次々と上がっていった・・・

 ・・・あるのか!?アンコール!?? 私はそう感じた。

 これは、トークライブである。バンドのライブでもアイドルのライブでもなければ、お笑いのライブでもない。アンコールなんてあるはずがない。
確かに、私はあまりトークライブというものに参加したことはないが流石にトークライブにアンコールだけはないとなんとなくわかる。

 「「「アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!」」」
                しかし、アンコールの声は全く止まない

 そもそも、アンコールしてきて何をするのか?もう一度同じ話をするのか!?講演者が出ててきても感謝の言葉を述べてビジネス笑顔を振りまいて軽く挨拶して帰るくらいのことしか出来ないはずだ。そんなことされても正直さっきまでの感動が冷めてしまう。完全に蛇足だ。このまま終わった方が絶対に良い。

「「「「アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!」」」」
               アンコールの声は鳴り止む気配が全くない

 声を出している人に問いたいのだがこのアンコールが成功したとして、全く同じ話を一時間半されても絶対に退屈だ。そんなものを求めているのか?どうなんだ!答えてくれ!それとも、もう一時間半全く別のレベルの高い話が聞けるのか!?絶対にそんなことはあり得ない。今回の講演は講演者の人生の話をしてたわけだから別の話が出てくるわけがない!

「「「「アンコール!アンコール!アンコール!アンコール!」」」」
              アンコールの声は次第に大きくなっている。

 その声に耐えれなくなったのか、講演者が笑顔で上がってきた。
そして、講演者は口を開いた。
「皆様、ありがとうございます。皆様のご期待にお応えして僭越ながら…」

そう言うと講演者は話始めた、全く同じ話を一時間半

 私は、泣いた。


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