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私と短歌(6)ミウラ ユウガさんの場合

はじめに

「私と短歌」は、ぽっぷこーんじぇるがツイッターを活動の場とする歌人にインタビューをする(そして自分もちょっと喋る)企画です。
第6回はミウラ ユウガさんです。

🍿ぽっぷこーんじぇる
🚀ミウラ ユウガ


1.自己紹介

🍿まずは簡単な自己紹介をお願いします!

🚀こんにちは、ミウラ ユウガと申します。普段はクイズ/ギター(音楽)/バスケ/英語/読書/アイドル…など、多趣味に浸かる23歳です。短歌は昨秋より詠み始めました。 よろしくお願いします。

🍿おお……多趣味ですね。色々と気になりますが、いまご自身が一番重視しているのはどれでしょうか?

🚀強いて選ぶなら、生活のベースともなっているクイズでしょうか。クイズと言っても形式に限らず、それに繋がる「勉強」と言った方が正しいかもしれません。 勉強の日々です。

🍿勉強はずっと続きますから、いい趣味ですね。ちなみに好きなジャンルはありますか?

🚀ありがとうございます。
社会や科学、文学作品など文理問わず好んでいました。その中でも特に「語源」ジャンルが一番好きです。

🍿そうした知識は短歌にも活きそうですね。

🚀そうですね。あくまで個人の価値観ですが、詠むにも読むにも、知識はあるに越したことはないと思っています。

🍿具体的な形で短歌に知識を入れ込むとなると、さまざまなやり方が考えられますね。ただ、表現や言葉遣いをみると現代短歌には平明なものが多いです。人と違う短歌を読もうとするなら、知識を持っていることは大きな力になるでしょうね。

🚀知識といっても単純な語彙量だけではないと思うので、さまざまな言葉や表現の連関性を活かして短歌に涵養していけたらいいなと思います。


2.きっかけ

🍿次の質問にいきますね。短歌をはじめたきっかけは何ですか?

🚀きっかけ、実は明確なものは特にないんです。いつもと違うメニューを注文してみよう、ちょっと違う道を通ってみよう。それくらいの気持ちで始めたような気がします。自分でもびっくりするぐらいに衝動でした。
むしろ本当の意味で「短歌をはじめた」のは、短歌を詠んでいる方々と触れ合ったり、色々な作品を読んでからかもしれません。 なんだかフワッとしてますね。でも文学ってとりわけ高尚なものではなく、それぐらい尋常な存在だと思います。

🍿短歌をはじめる前に知っていた歌はありますか?

🚀クイズをやっていると古今和歌集、万葉集、百人一首…などから、詠者や題についての問題が出ることもあったため、それらの有名な歌は結構覚えていましたね。
近現代では、有名なだけあって俵万智さんの『サラダ記念日』の表題歌はどこで憶えた訳でもなく知っていました。
あとは、石川啄木『一握の砂』内の

たはむれに 母を背負いて そのあまり 軽きに泣きて 三歩あゆまず

は特に印象に残っていました。

🍿とくに古典和歌に縁があったのですね。石川啄木と俵万智さんの歌を知っていたのもよく分かります。 今思い出してみて、古典和歌で「これはいいな〜」という歌はありますか?

🚀万葉集に載っている作者不詳の歌なんですが

雪寒三 咲者不開 梅花 縦比来者 然而毛有金
(雪寒み咲きには咲かぬ梅の花よしこのころはかくてもあるがね)


「雪が寒いので、なかなか咲けない梅の花よ、まあ今はまだそうしたままでも良いのではないかしら」 という意味です。
自らの力で美しい花を咲かせるまで暖かく見守っている、そんな優しさが感じられて好きです。

🍿現代短歌に近いような歌ですね。梅と寒さを共有しているところが面白いです。


3.感じたこと

🍿短歌をはじめて感じたことはありますか?

🚀近現代の短歌をいくつか知っていたとはいえ、まだまだ和歌のように古典なイメージが強かったのですが、とても自由で新しい文学だなと感じました。

🍿そうですね。あまり知らない人からすると、短歌と聞いて和歌のイメージを持つ人はかなり多そうです。ちょっと知ってる人でも与謝野晶子や斎藤茂吉の歌を思い浮かべるでしょうね。現代短歌は石川啄木さえも程遠いところまで来たように思います。


4.良かったこと

🍿短歌をはじめて良かったことはありますか?

🚀趣味がひとつ増えた…ことで身を置くコミュニティがひとつ増えたことですかね。
自分にとって短歌はいくつかある趣味の一つで、自らの表現方法・拠り所が増えたという感じです。 単純に「関わる人の数=経験の栄養価」だと思っているので、色々な方と作品を通して触れ合えることはとても良いことだなと思います。


5.作りかた

🍿短歌をどのようにつくっていますか?

🚀「よし、短歌を詠むぞ」と、そのための時間を作って詠むことがほとんどです。やることや趣味が多いので、つねづね脳のチャンネルを切り替えながら生活しています。
ただ、アイデアなどは思い浮かぶたびにメモするようにしています。これはクイズを作問していたときの癖が活きているような気がします。

作り方で最もこだわっていることは「自分の言葉で詠む」ことです。具体的に言うなら、短歌が完成するまで絶対に辞書を引いたり、ネットで調べたりなどはしないようにしています。そのとき自分の知っている知識・語彙・表現方法だけを使って詠みたい、と思っています。

🍿メモするのは大切ですね。俵万智さんや穂村弘さんも同じようにしていたはずです。
「自分の言葉で詠む」というのは、すこし珍しいこだわりかもしれません。あくまで今の自分から出た短歌をつくるということですね。

🚀そうですね。作中の主体が誰だとか、実景か虚構かだとかは関係なく、詠んでいるのはあくまでも自分なので、そこからはみ出た時点で感情⇔言葉が一対一対応していないような気がします。

🍿そうなると、あまり題詠はしない感じですか?それとも、題詠をするときでもどうにか自分に引きつけて考えるのでしょうか。

🚀数が少ないだけで、題詠をすることはあります!あまり得意ではないですが…
例えばある植物が題だったとき、その花言葉を調べて掛けた内容の歌にする人がいてもおかしくないですよね。あとは漢字一文字の題だったり、晦渋な熟語が題の場合でも「自分が理解していて扱える知識」の範囲内ならば挑戦します。
題の詳細を掘って着想を得たり、類語・関連語を探すために調べることはしないですね。
自分がそうしたいだけで、その詠み方が良くない!と考えているわけではありません。


6.作るときの気持ち

🍿短歌をつくるときはどんな気持ちですか?

🚀難しいですね、あまり考えたことがありませんでした!
ものすごく自己満足な気持ちで作っています。誰かを喜ばせたいでも、何か伝えたいでもなく、さながら自分のために美味しいご飯を作っているときのような気持ちです。「この感情をうまく調理してやったぜ!」みたいな感じで(笑)

🍿なるほど、自分をとりまく環境や状況にふさわしい言葉を与える、そのことの喜びですね。分かるような気がします。

🚀そうですね。浮かんだ感情/見えた景にピッタリの言葉を与えて歌(詩)に昇華できたとき、形容しがたい満足感があります。


7.好きな歌

🍿どなたかの好きな歌を教えてください!

🚀ひとつ選ぶとしたら…

牛乳のパックの口を開けたもう死んでもいいというくらい完璧に/中澤系

です!

🍿理由を聞いてもいいですか?

🚀中澤系さんの歌は些細なことと人生/死が接続される危うさ、寂寥感を併せ持った言葉の緊張感が跡切れないところが、どこか正則であるかのように感じさせられます。その不気味なパワーが本当に大好きです。
この歌も、牛乳を「飲んで」死んでもいいと思ったのではなく「パックを開けて」死んでもいい。 牛乳のパックの口を開ける程度のことが彼にとってそれだけつらいことなのか、ただその他愛もない行動を成しただけで事切れたのか。
牛乳の-パックの-口 という措辞も、どこか息荒んで苦しいような気が感じられます。
この裏には「人≒自分」たらしめていることの限界や「どうでもいいこと≒普通」な体系に対するある種の抵抗が存在していて、それが異様に美しく出ている歌で特に好きです。

🍿「牛乳のパックの口」の「の」の連続がまくしたてるような効果をもたらし、さらに下の句の字余りが焦りを感じさせますよね。日常に「完璧」という言葉がさしこまれることで空気が一変する、結句の仕組みも見事です。いい歌ですね。

🚀彼のこの歌は単体で触れられることが多いのですが、是非とも連作も通して読んでもらいたいです。


8.ミウラ ユウガさんの歌について

🍿ミウラ ユウガさんの歌はすべて ツイッターの #tanka で読むことができます。自選10首を中心に読ませていただき、いくつかの歌をピックアップして感想を述べたいと思います。

 まずとりあげなければいけないのはこの連作ですね。ミウラ ユウガさんはクイズが好きということでしたから、このクイズ短歌はとても個性的な連作になっています。
 
4 君のこと返したくないときに降る雨のことを何というでしょう??
【遣らずの雨】

 
連作を通して読めばわかりますが、この連作は「僕」と「君」の恋愛を詠んでいます。この歌はクイズの問題文になっていて、同時に恋愛関係を示す短歌としても成立しています。
 
10 いつまでも君と過ごした日々のこと忘れられないのはなぜでしょう?
【■■■■■】

 
二人の関係をほのめかす様々なクイズが続いたあと、最後の歌です。読者はここで一気に裏切られることになります。二人はすでに別れており、一連は「僕」の執着に過ぎなかったのです。この逆転は大変刺激的です。

ブランコに乗る君の背を押すように優しい風だ 屋上だった
 
「背を押す」と「屋上」という表現から自殺が想起されます。主体は屋上にいて風を感じています。まさに今飛び降りようとしているとき、吹いた風が背中を押しますが、それは「ブランコに乗る君の背を押すように優しい風」だったのです。僕を前に歩かせる風ではなく、君との思い出を蘇らせる風です。主体はきっと死ねなかったでしょう。
 
途中まで動いていたその唇を閉じた 夜景 あの工場の
 
あの工場の、どこを見ているのでしょうか。唇を閉じたということは、今まで誰かと会話していたのでしょう。夜景ですから、ここでは恋人になるまえの相手だとしておきます。
夜景、そして工場へとスムーズに読みをつなげるために、主体が相手の唇を見ているとするのがよさそうです。相手は告白をしかけていたのではないでしょうか。そのとき、主体は夜景の一点にある工場に目線をそらしてしまったのです。そして、相手の告白は終わってしまう。
あの工場の、何でしょうか。あまりにも様々な読みが可能ですが、工場が夜景の一部になっており視点がそこに向かうということは、たとえば火事が起きているのかもしれません。たとえば、あの工場で主体または相手の家族が働いているとしたら……。


9.自選一首

🍿自選一首を教えてください!

🚀
君を見る無言の5秒その服を脱がすのに魔法は使えない

2022年9月6日に、人生で初めて詠んだ短歌です。 自分の中でかなり上手くできた歌や、ありがたいことにたくさん見ていただいた歌などはいくつかあります。でも一首、心に残っていて見てほしい歌を選ぶとしたらこれです!

これは実景なのですが、当時の情景を確然と歌(詩)にできたことを今でも覚えています。
空気感を邪魔しないファンシーな喩え、気取りすぎていない措辞、句またがりしている下句の調べもなんだか小慣れているようで気に入っています。

🍿なるほど、初めてつくった歌ですね! 初めてとは思えない出来ですね。


10.目標

🍿短歌を続けていく上で目標はありますか?

🚀言葉にし続けることが目標です。何か形にしたいと思ったり感じたものがあったとき、それを留めないで自分の言葉にし続けていきたいです。

“Every morning you have two choices: continue to sleep with your dreams or get up and chase them.”
(毎朝、2つの選択肢がある。眠りながら夢を見続けるか、起き上がってそれを追うかだ)

敬愛する元NBA選手カーメロ・アンソニーの言葉です。僕は彼のように何かを「やる」人間でいたいです。

🍿この世で最も便利な道具は言葉ですからね。ミウラ ユウガさんの歌が、言葉が、一層洗練されていくことを期待しています。この度はありがとうございました!

🚀短歌についての自分の思いを言葉にするとても良い機会でした。こちらこそ本当にありがとうございました!


ミウラ ユウガさんのツイッターはこちら


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