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私と短歌(4)新棚のいさんの場合

はじめに

「私と短歌」は、ぽっぷこーんじぇるがツイッターを活動の場とする歌人にインタビューをする(そして自分もちょっと喋る)企画です。
第4回は新棚のいさんです。

🍿ぽっぷこーんじぇる
🌸新棚のい


1.自己紹介

🍿まずは簡単に自己紹介をお願いします!

🌸新棚のいです。ふわふわ短歌会の主宰をしています。活動はTwitterと文学フリマ(主に東京)がメインです。

🍿ふわふわ短歌会がどういうものか教えていただけますか?

🌸ふわふわ短歌会は入会費月会費不要、月詠なしのゆるゆるの短歌会です。現在は文学フリマに会報を発行することだけが唯一の活動になります。 会報に作品を載せることも強制ではないので、活動したい人が活動したい時だけ活動できる仕組みです。

🍿なるほど、すごく参加しやすそうな短歌会ですね。お金は印刷代など必要なときのみいただく形でしょうか。

🌸はい、そうです。会報は1ページ目は短歌に限り無料で掲載、2ページ目以降は掲載料を払えば何でも掲載可能です。短歌を多く載せても、小説などを載せても構わないです。

🍿なんでも載せられるんですね、すごいです! ちなみにこの文章を読んでふわふわ短歌会に興味を持たれた方もいると思うのですが、そういった方に向けたツイート、参加フォームのようなものはありますか?

🌸入会フォームあります。わたし一人で運用している都合でしばらく入会フォームを閉じていたのですが、せっかくなので再開します!

🍿わ、ありがとうございます!では、この記事を読んで興味を持たれた方は是非!


2.きっかけ

🍿短歌をはじめたきっかけはなんですか?

🌸RTで鈴掛真さんの短歌が流れてきて、言葉が美しいなと思いフォローしたのがきっかけですね。その後、うめだ阪急で開催されるイベントで展示される短歌の募集のツイートを見かけて勢いだけで応募したのが初めて作った短歌です。

🌸こちらの4枚目の下の中央のものです。いきなり俵万智さんの横に並べられてビビりましたね……。

🍿「さくらさくらさくら咲き初め咲き終わりなにもなかったような公園」(俵万智)の隣、「紅梅の咲く日に君と逢いたくて駆け出したなら春は心に」(のい)ですね。俵万智さんの歌は有名ですね、これはビビりますね……。

🌸そうです。短歌を全然知らなくてもさすがに俵万智さんは存じていたので、こんな恐れ多い位置に展示されるなんて……と思いましたね。

🍿その鈴掛真さんの歌はどんな歌でしたか?

🌸鈴掛真さんの歌は失念してしまってどれとは分からないんですが、平易な言葉を使っていながら美しくて、少し色気があったのは間違いないです。


3.感じたこと/短歌の展示

🍿短歌をはじめて感じたことはありますか?

🌸意外と若者がいて、気軽に、本気で、短歌に取り組んでいるなぁですね。

🍿なるほど。短歌ブームといわれていますが、ここ数年で短歌をはじめた人はかなり多いでしょうね。その原因にコロナ禍、文学フリマ、ツイッターのバズなどがあるかと思います。短歌のよみ手が増えるのはすごくいいことですよね。

🌸わたしが短歌にちゃんと足を踏み入れたのがコロナが来るか来ないかくらいの時期(2019年の晩秋に短歌のインスタレーションを卒業制作にすることになった)だったんですが、その時点で、現代口語短歌がTwitterにいっぱいありましたね。よみ手が増えればピラミッドが大きくなるので良いことだと思います。

🍿なるほど、もう少し前から短歌は流行りはじめていたのかもしれませんね。
短歌のインスタレーションですか。詩のインスタレーションには最果タヒさんの展覧会がありました。会場に短歌を展示したのでしょうか?

🌸はい。大学の敷地内の壁面を利用して横幅1mの透明なプラスチックフィルムに短歌を印刷したものを展示しました。スマホで適当に撮った画像しかないんですが、こんな感じでした。 壁に直接貼っているんじゃなくて木製ブロックで隙間を空けて少したゆたうように展示しました。

🍿おお、すごいですね!プラスチックなのも、すこし揺れそうなのも、短歌の淡い感じもよく合っていますね。一部の文字をカラーにしているのも素晴らしいです。真ん中の歌は「日替わりの違う理由で落ち込むのマンボウが死ぬみたい」の後が読めないのですが、分かりますか?

🌸半分くらいは先生たちのアドバイスによるものです。でも、結果的に刺さる人には刺さる展示になって卒展の間ほぼ毎日感想頂けたのは嬉しかったし、とある感想が短歌に本気になろうって決意させてくれたので良い経験でした。 「日替わりの違う理由で落ち込むのマンボウが死ぬみたい笑える」です。一応今まで作ってきた短歌は大半が保存してあるのです。

🍿短歌はやっぱり読んでもらって完成するところがありますね。展覧会は新棚のいさんにも感想を送った方にもいい経験になったと思います。


4.作りかた

🍿短歌をどのようにつくっているか教えてください!

🌸100%スマホで作ってますね。Twitterの投稿画面で直接つくるかGoogle ドキュメントに打つかどちらかです。だいたい寝る前や起きる前に寝っころがりながら作ってます。

🍿過去の短歌を保存していると仰っていましたが、それもGoogleドキュメントで管理している感じですか?

🌸そうです。かなり雑に保存しているのですが今のところ困ることもないですね。

🍿ありがとうございます。寝る前や起きる前につくるのは何か理由がありますか?

🌸寝るのも起きるのも時間がかかるので、ただ寝っ転がってる時間を創作に当てているのです。

🍿就寝・起床に時間をかけるほど短歌がつくれる、いい仕組みですね。


5.作るときの気持ち

🍿短歌をつくるときはどんな気持ちですか?

🌸短歌を作るときはだいたい虚無ですね。連作だと気持ちの方向を固めて作るんですが、普段は頭に浮かんだままなので無味です。

🍿思いついたことを三十一文字に落とし込む感覚でしょうか。連作だと「○○を詠もう!」と決めるんですか?

🌸そうです。連作だと〇〇について実景何割くらいで詠むかをある程度設定してから作ります。

🍿ありがとうございます。ついでに教えていただきたいのですが、連作をつくるときは構成や展開まで考えますか?これは連作の数にもよるでしょうか。

🌸10首以上の連作であれば、ざっくりですが展開を考えますね。最初から読むと一編の小説を読んだような読後感が与えられたらいいなと思って作ります。

🍿ありがとうございます!


6.好きな歌

🍿どなたかの好きな歌を教えてください!

🌸南極に宇宙に渋谷駅前にわたしはきみをひとりにしない

🍿岡本真帆さんの歌ですね。理由を聞いてもいいですか?

🌸犬って言葉を出さずに著名な犬(タロとジロ、ライカ、ハチ公)を詠んでいるこの歌を見かけるたびにもれなく泣きます。

🍿三つの物語を想起させるのがとても上手いですよね。そしてそれらを包み込む存在としての「わたし」がいる。


7.新棚のいさんの歌について

🍿新棚のいさんから最近の歌をまとめて見せていただきました。そこからいくつか抜いて感想を述べたいと思います。

もうすぐに藤が咲くから見に行こう俯くきみも見上げる花を

藤は晩春に紫色のつぶつぶした花を咲かせます。花は垂れているので、俯いていますね。そんな藤を「見上げる」ために見に行こうとしています。「俯くきみ」も誰かから見れば見上げる対象なのかもしれません。

ねこのこのようにきまぐれわがままでかわいいわたしだからさいこう!

日本人は漢字かな交じり文に慣れていますから、この歌を読むのはすこし時間がかかります。ゆっくり読んでいくと、なんともあけすけのない歓声が聞こえてきます。こちらの努力が楽しく裏切られる歌です。

友達の友達の家行くときに手土産に持っていくには惜しいクッキー

すごくいいクッキーなんでしょうね。もしかしたら親が持たせてくれたクッキーなのかもしれません。その「友達の友達」と仲良くなって、一緒にクッキーを食べれたらいいな、なんて思ってしまいました。実際的な想像が掻き立てられるほどにリアリティのある歌です。

徒歩5分くらいの距離に君んちと駅とインドがあればいいのに

これも実感がわく歌ですが、「インド」だけがどうにも分かりません。人生経験という言い方で薦められるインド旅行のことを指しているのか、インド料理のことを指しているのか……。どちらにせよ、「インド」という一語がこの歌の面白さを支えている気がします。日本は島国ですから、陸続きで他国に行くことはできません。日本とは正反対に見えるインドのような国が日本と隣接していたら、もちろんそれはいろんな問題があるとはいえ、とても刺激的なことではあるでしょう。考えるのが楽しい歌でした。


8.自選一首

🍿自選一首を教えてください!

🌸キスよりも甘いものってこれかもなソーダバニラのアイスをかじる

🍿理由をうかがってもいいですか?

🌸最近作った中で作りたかった方向と実際にできたものがうまくはまっているなと思ったのと、たんたか短歌に投稿してラジオで読んでもらえたのが嬉しかったからです。誰かに評価してもらうことがすべてではないんですが、自分が気に入ってる作品が自分以外からもいいなと思ってもらえると愛着が湧きますね。

🍿自他の評価が一致するとうれしいですよね。自分から見ても、きれいに整っている良い歌だと感じました。


9.目標

🍿短歌を続けていく上で目標はありますか?

🌸書店流通で歌集を出すのと一生の趣味にすることが目標です。

🍿新棚のいさんは短歌以外も書かれていますよね。やっぱり短歌が一番ですか?

🌸正直に言えば何が一番という感じでもないですね。どういう表現でも構わないから日の目を見たい気持ちはあります。ただ、そのような野心とは別の部分で短歌を永く続けたい気持ちがあります。老人ホームで短歌お上手ですねって褒められたいんです。
変な話ですが、最近は短歌を永く続けるために疲弊しないように少しセーブしています。目に入る全てに全力で挑んでいるといずれ心が折れてしまいそうだなと感じたので優先順位を考えるようになりました。

🍿趣味としての短歌ですね。長く詠みつづけていったとき、積み重なった自分の歌から何が見えてくるのかは、自分としても気になるところです。たとえば、そこから自分の人生が見えてくるのかもしれませんね。
一層のご活躍を祈念しています。ありがとうございました!


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