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私と短歌(3)河原こいしさんの場合

0.はじめに

「私と短歌」は、ぽっぷこーんじぇるがツイッターを活動の場とする歌人にインタビューをする(そして自分もちょっと喋る)企画です。
第2回は河原こいしさんです。

🍿ぽっぷこーんじぇる
🍎河原こいし


1.自己紹介

🍿まずは簡単な自己紹介をお願いします!

🍎河原こいしです。2022年の春から短歌を詠みはじめました。

🍿ありがとうございます。ちなみに筆名の由来は何ですか?

🍎宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』、新潮文庫版だと212ページ6行目の「河原のこいしは、みんなすきとおって、たしかに水晶や黄玉や、また…」という宇宙の河原に転がる宝石のシーンから……というのは建前で、河原は実際に自分の名前なんです。木下龍也さんの『天才による凡人のための短歌教室』に「本名をそのまま使うことをおすすめする。」とあったので、半分は本名で。こいしは河原に転がる小石のようにちっぽけな自分であるとか、先ほどの銀河鉄道の宇宙の河原で輝く礫、それから「恋し」をかけたりしてます。

🍿『銀河鉄道の夜』ですか!小石と恋しのダブルミーニングも素敵です。小さいものに注目する目線は歌人らしいですね。

🍿ちなみに、木下さんが本名を筆名にするよう勧めている理由で何でしょうか?覚悟が決まるとか……。

🍎木下さんによると「作者名が短歌の邪魔になってはならない。」ので「本名をそのまま使うことをおすすめする。」らしいです。ですが、「けれど社会生活上の支障がある場合や、不特定多数の読者に本名を知られるのが恐ろしい場合は、姓と名で構成されていて、美しすぎずおもしろすぎず、けれど他の名前に似ていないし埋もれない筆名を考えよう。」とのことです。

🍿なるほど!歌より筆名が目立ったり、歌に使いたくなる言葉が筆名に入ってると困るということですね。そうなると、「ぽっぷこーんじぇる」は大減点ですね……。


2.きっかけ

🍿短歌をはじめたきっかけは何ですか?

🍎短歌を始めた直接のきっかけは岡本真帆さんの『水上バス浅草行き』を読んだことです。「こんなに自由でいいならやってみよう」と思って。もとから文章を書くのは好きで、エッセイのコンテストに出したりしてました。短歌への興味も昔から少しあって、高校生の頃に俵万智さんの本を読んだり、大学では日本文学の古典のゼミにいた関係でちょっと和歌を読んだりしていました。

『水上バス浅草行き』を読んだのは、店内にいろんな本を置いている日本酒バーをやっているお友達の女の子が 「このビールの歌かわいいんですよ〜!」 とおすすめしてくれたからです。

平日の明るいうちからビール飲む ごらんよビールこれが夏だよ

🍿なるほど、昔から縁があったのですね。俵万智さんの歌には「嫁さんになれよ」だなんてカンチューハイ二本で言ってしまっていいの」というのがありますが、岡本さんの歌と比べると、同じお酒の歌でも全然違いますね。俵さんの歌はもっと真剣な感じがします。

🍎俵万智さんの本に出会ったのは枡野浩一さんの『ショートソング』を読んで「短歌面白そう〜」となったからです。

🍿なるほど、『サラダ記念日』の世代というわけではないんですね。


3.変化/作りかた

🍿短歌をはじめて変わったことはありますか?

🍎短歌を始めてから日常のいろんなことを「これ歌にならないかな…」と思って見るようになりました。


🍿短歌をどうつくっているか教えてください!

🍎単語だったり実際に見たものだったり、きっかけはいろいろですが、何か短いストーリーを頭の中で組み立ててから短歌に変換しているような気がします

🍿なるほど、三十一文字のショートストーリーをつくる感覚なんですね。


4.作るときの気持ち

🍿短歌をどんな気持ちでつくっていますか?

🍎短歌を作っているときはとても楽しいです!嬉しかったことや楽しかったことがきれいな歌にまとまると嬉しいですし、悲しかったことやつらかったことも歌になるならまあいいか…という感じになります。

🍿というと、基本的には身の回りの出来事を歌にしている感じですか?

🍎身の回りのことや、昔あったことがテーマになりがちです ただ、そのまま詠むこととあれば、実際のことを下敷きにした架空の話を詠むことももちろんあります。
たとえば、

散歩するポメラニアンを見るたびに「ぽめぽめ…」という配偶者あり

という歌は実際の出来事そのままですね。

🍿なるほど、身近な出来事が歌作の出発点になっているんですね。その歌も、とてもかわいらしい歌という以上に、しっかりと実感がこもっている気がします。


5.好きな歌

🍿どなたかの好きな短歌を教えてください!

🍎
ここにいるあたたかい犬 もういない犬 いないけどいつづける犬(岡本真帆)

何層もあなたの愛に包まれてアップルパイのりんごになろう(俵万智)

百歳ももとせに老い舌ててよよむともわれはいとはじ恋は増すとも(大伴家持)

🍿長くなってしまうのですが、それぞれ理由を教えてください!

ここにいるあたたかい犬 もういない犬 いないけどいつづける犬
Twitterのプロフィールにあるように犬派です笑
昨年実家の犬が亡くなってしまったのですが、この歌のように犬って「いなくてもいつづける」んですよね。
この歌を読むとまだとなりに犬たちがいる気持ちになります。

何層もあなたの愛に包まれてアップルパイのりんごになろう(俵万智)
高校生の頃にはじめて読んだ歌集が俵万智で。 この歌を読んだ時に「すごい可愛い!!」と驚いたことを覚えています。
驚きすぎて恋人に歌をメールで送りました笑
その返事が「りんごにしてあげます」だったことも含め一番思い出のある歌です。

百歳ももとせに老い舌でてよよむともわれはいとはじ恋は増すとも(大伴家持)
ざっくり現代語訳すると、「百歳になって口から舌が出てしまうような年寄りになってしまっても嫌いになんてなりません、むしろさらに恋します」みたいな歌なのですが、結婚後に読んだこともあってこんなふうになりたいなと思った歌です。 自分の詠む歌はわりと暗いときもあるのですが、好きな歌は明るめというかやわらかめですね…笑

🍿ありがとうございます!すごく実感をもって短歌を読んでいるのですね。とても理想的な短歌とのつきあい方だと思います。ちょっと羨ましいです。


6.河原こいしさんの歌について

今回は河原さんから2023年の1-5月につくった歌をすべて(!)読ませていただきました。200首弱でしょうか、まずはその数に驚きました。ここではいくつかの歌をピックアップして感想を述べたいと思います。

いつまでもあなたはそこにいるだろうわたしの記憶の陽だまりのなか

河原さんの歌は「あなた」との恋の歌がたくさんあります。それは無邪気な恋の歌ばかりではなくて、そのバリエーションに魅力がある気がします。この歌も「陽だまりのなか」という比喩は明瞭ですが、「いつまでもあなたはそこにいるだろう」という言い方は、ちょっとした暗さ、重さが感じられます。「あなた」と過ごした日々だけが明るく照らされているのでしょうか。すこしの含みが魅力的な歌です。

もし君が鳥なら僕は空になりどこまでもゆく君を信じる

君と僕が鳥と空になっている、その組み合わせが美しいです。主体は、たとえば君のために雨や風をとどめたりすることはなくて、ただ「君を信じ」ています。雨が降っても風が吹いても進みつづける君のことを信じているのです。

「みの文字は美しい」とは言えぬまま「美術の美です」と言う電話口

名前を伝える場面でしょう。「美」という字の入った名前はきれいですが、かりに自分の名前をうつくしいと思っていても、「みの文字は美しい」と言葉にすることにはためらいがあるでしょう。日常的な場面から詩に飛躍する瞬間が捉えられています。 それにしても、「美術の美です」という伝え方も考えさせられます。だって、「美術」は「美しい」よりもきれいな言葉かもしれませんから。

誕生日ケーキをゆっくり食べる人これから隣に居続ける人

大変すぐれた歌だと思います。おそらく大勢で誕生日パーティーをすれば、そのイベントはすばやく終わってしまいます。でも、二人ではどうでしょうか。相手を信頼しているから、「誕生日ケーキをゆっくり食べる」ことができるのです。そしてその相手は、信頼に報いるように「隣に居続け」ています。ほのかな時間の流れが二人の関係性を守っているようです。

🍎感想ありがとうございます〜!大量に送ってしまいましたが読んでいただけて嬉しいです。


7.自選一首

🍿自選一首を教えてください!

🍎
きみが言う「ポンデライオンのポンのとこ」たてがみかじるきみが好きだよ

こちらはほぼ実景の歌です。ポンデリングのことを夫が「ポンデライオンのポンのところ」と言うのがなんだか面白いなぁと思ったのを素直に歌にしました 夫が短歌の元ネタになることが多くて……。

🍿日常の風景ではなくて、日常の会話までを短歌にしているところが面白いですね。たしかに会話のほうがリアリティーが増すように思います。

🍎
図書館の本でみつけたときめきを君に話せば本物になる

とか

しあわせはここにあったと言うようにクラフトビールを抱えて君は

など夫短歌がいくつかありますね。 以前から夫の言動の不思議さを観察日記にしたためていて……。

🍿それはすごく……こう言ってはあれですが……いい環境にいますね。 もしかするとパートナーを詠んだ連作がつくれるかもしれませんね。


8.目標

🍿いままではここで終わっていたのですが、質問を一つだけ付け足してみます。 短歌を続けていくうえで、何か目標はありますか?

🍎今年の目標が「NHK短歌に載る」だったのでそれは達成してしまったんですよね。
長期目標は別にありまして、どうしても忘れられない一瞬が過去にあり、それを自分が納得する形で表現できるようになることが目標で、わたしの創作の原点です。
エッセイとか小説とかで表現しようとしたこともあったのですが、うまくいかなくて、うろうろしているうちに短歌に出会って、これならできるかもしれない、と思っているところです。

🍿大切な瞬間をしっかりと保存するための短歌、ですね。すばらしい歌ができることをお祈りしています。この度はありがとうございました!

🍎ありがとうございました!


河原こいしさんのTwitterはこちら

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