私と短歌(8)阿部蓮南さんの場合
はじめに
「私と短歌」は、ぽっぷこーんじぇるがツイッターを活動の場とする歌人にインタビューをする(そして自分もちょっと喋る)企画です。
第8回は阿部蓮南さんです。
🍿ぽっぷこーんじぇる
🎡阿部蓮南
1.蓮南さんの歌について(1)
🍿蓮南さんから教えていただいた歌からピックアップして感想を述べさせていただきます。端的に、その歌の出来栄えに驚きました。
声をかけ問答雲が咲くように中学一年生が始まる
恥ずかしながら問答雲を知りませんでした。高いところの雲と低いところの雲が問答するようにすれ違っていることをいうのですね。「雲が咲く」という発想と「声をかけ」あって「咲く」という発想はどちらも詩的です。前者の発想は問答雲がまじりあって花のように見えたという視覚的なイメージにつながり、後者の発想では雲が擬人化されており、その擬人化された雲が「咲く」という二重の比喩によってイメージに深みが生まれています。そのようにして「中学一年生が始まる」という。とにかくきれいな歌です。
洗顔の水がこぼれた勢いで芸術点を取りにいく夏
洗顔に失敗して水をこぼしてしまった。そのあふれた水を「芸術点を取りにいく」と主体的に捉えなおしている。ユーモアが抜群に効いています。また、これは「夏」でないといけませんね。非の打ち所がない歌だと思います。
2.自己紹介
🍿まずは簡単な自己紹介をお願いします!
🎡高校三年生、阿部蓮南です。俳句で有名な町が近くにあって、そこで吟行をするなど、楽しむこと第一で歌を作ってます。
🍿吟行してつくるのは俳句ですか?それとも短歌ですか?
🎡短歌が多いですね。楽しい!という感情を、音数の分だけ込められるので。
🍿ちなみに、吟行で詠んだ歌を教えてもらうことはできますか?
🎡はい!
観覧車作った人は天才だと笑う高校生は唯一
当時はかなり句またがりしてました。
🍿なるほど、少し前につくった歌なんですね。継続的に歌をつくると歌風の変化がわかって楽しいですよね。
3.きっかけ
🍿短歌をはじめたきっかけはなんですか?
🎡きっかけはたくさんありますが、最も影響を受けたのは、村上しいこさんの小説、『うたうとは小さないのちひろいあげ』です。
部活で短歌をしている高校生が主人公で、進路や性の悩みと短歌が密接に関わっているところが好きです。
🍿小説がきっかけなんですね。存じ上げない作家でした。調べてみると、タイトルは「うたうとはちいさないのちひろいあげ宇宙に返すぬくもりをそえ」という短歌が由来なんですね。いい歌です。
🎡はい。タイトルには上の句しかないのがまた好きです。
🍿ちなみに蓮南さんは俳句もつくっていますよね。俳句をはじめたきっかけも聞いていいですか?
🎡Twitterで、「短歌も俳句も党」というグループの人たちが活動していて、そこに所属している方に勧められたのがきっかけです。
4.感じたこと、良かったこと
🍿短歌をはじめて感じたことはありますか?
🎡私たちの町には、小学生の優秀作品集みたいなものがあって、宿題で書いた作文、俳句、短歌が載ります。そのとき、他校に作品集の常連の子がいました。短歌を見ただけで、友達になりたいと思っていました。中学校で出会い、今は親友です。
🍿なるほど、短歌が友達になるきっかけになったということですね。すごくいい短歌を読むと、その人と話してみたくなりますよね。
🍿蓮南さん自身は、短歌をはじめてよかったことはありますか?
🎡やっぱり、小学生のころに雲の上の存在だと思っていた人に褒められることですね。
その友人は、現在は創作活動をしていませんが、いつか一緒にしようねと、会うたびに誘っています。
🍿短歌と俳句は、詩や小説よりもコミュニティをつくりやすいところがある気がします。結社とか、今だとツイッターですね。
自分もインタビューなど、ツイッターでの活動を通して短歌をよむ人との関わりが増えることがとても楽しく、嬉しいです。
5.作りかた
🍿短歌をつくるときはどのようにしていますか?
🎡七音の言葉を思い付くことが多くて、それをスマホアプリに入れます。いくつかあるメモを、お風呂上がりに歌にまとめます。
🍿思いつくのは七音の言葉なんですね。
🎡そうですね、長い動詞を使うこともできるので。
6.作るときの気持ち
🍿短歌を作るときはどんな気持ちですか?
🎡周りの人のことを詠むことが多く、「大好き!」という感情の溢れるまま、というのでしょうか。
🍿周りの人と詠むことが多いということは、お友達も短歌をやっているんですか?
🎡実は、身近にしている人はいないんです。でも、たくさん褒めてくれます!
🍿あっ、「周りの人のことを詠むことが多い」ですね!文章を読み間違えてしまいました、大変申し訳ないです。
吟行と重ねあわせると、自分の生活を短歌をすることが多いということですね。
🎡そうですね、新しい世界を短歌で表すかたもいますが、私の場合は「人生の再現」です。
🍿自分の生活を短歌にすることで、何か変化はありましたか?生活を記録するとして、たとえば日記とは表現が異なりますよね。
🎡ちょっとの幸せだったはずが、推敲するたびに気づけば「大好き」という言葉を使ったりします。
🍿短歌にすることで、自分の生活や身の回りの人々が「きれいになる」感じでしょうか?
🎡愛が深まる感じです。
7.好きな歌
🍿どなたかの好きな歌を教えてください!
🎡ふくらんだ胸と喉とを取りかえる魔法を日記に書いて交わした/笠木拓『はるかカーテンコールまで』
ですね。
🍿理由をうかがってもいいですか?
🎡1日くらい、男子になれる日があったらなという空想にぴったりくるからです。
🍿具体的に「ここの表現が好きだ」というのはありますか?
🎡「日記に書いて交わした」ですね。
私も交換日記の経験があって、異性とこんな気軽にできたら、と思うので。
🍿なるほど、この「交わした」は交換日記のことなんですね、気づきませんでした。性別を変えたいという願いを誰かと交わす歌を、蓮南さんはどのように読みましたか?
🎡作者がそうだ、と決めつけるのはよくないけれど、女性が社会に出る上でそう思う場面ってたくさんあるのかなと感じました。
🍿必ずしも女性に限りませんが、性別のもつ負の側面は必ずあって、それが外から投げかけられるのはすごく苦しいことですよね。誰かと日記を交わしているところからも、性別を変えることへの欲求がひろく社会的に共有されていることがわかるような気がします。
8.蓮南さんの歌について(2)
🍿
今日は雨 小説が濡れない限り生まれた季節は許していたい
季節を「生まれた」と捉える、これも擬人化ですが、捉えかたそのものが魅力的です。「小説が濡れない限り」「許していたい」という独善的な価値観から作中主体のすがたが見えてきます。初句で状景を示し、以下で心情を述べていく。構成も見事です。
いいとこは彩度を上げて語るのがオタクらしくて交換日記
「彩度を上げて」という比喩が光っていますね。「いいとこ」というあいまいな言いかたも効果的に働き、「交換日記」そのものが淡く輝いて見えます。
紺の空 君のデニムのアウターはあったかそうだねまた遊ぼうね
「紺の空」という情景から「君」の「デニムのアウター」につなげ、作中主体の「あったかそうだね」という感想から、韻を踏んだ「また遊ぼうね」という約束につなげる。措辞も展開も完成されています。
9.自選一首
🍿自選一首を教えてください!
🎡
姉ちゃんのにおいのパジャマに住むようでこんな眠さは三年ぶりだ
です。
🍿理由をうかがってもいいですか?
🎡従姉の家に泊まって、少し一人になった時間に、幸せをかみしめて作ったからです。
🍿その幸せな感じがよく表現されていますね。「こんな眠さは三年ぶりだ」という言葉はどのように浮かんできましたか?
🎡放課後に駅のホームへ走ったことや、コロナの影響で久しぶりに新幹線に乗ったことでの疲れから出てきました。
🍿なるほど、姉に会いに行ったことの疲れがあったのですね。歌の出所がわかってすっきりしました。
10.目標
🍿短歌をつづけていくうえで目標はありますか?
🎡親友を詠んだ歌で歌集を作って、本人に渡したことがあるのですが、家族とか、これから出会う人たちにも、それができたらなと思っています。
🍿その人を詠んだ歌集を、まさにその人にプレゼントする。素敵ですね。
蓮南さんはご自身の短歌を雑誌などに投稿することは考えていますか?
🎡未発表/既発表の扱いが難しいので、確実に世に出るものに投稿することが、今は多いです。
🍿インターネットや雑誌に載らなければすべて非公開だと思いますが、管理が難しいですよね。
すばらしい短歌を作られているので、一層の活躍を期待しています。この度はありがとうございました!
🎡ありがとうございました!
阿部蓮南さんのTwitterはこちら!
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