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『遠くて近い君へ。』


あの橋を渡ったところに、君の住む家がある・・・。

もうどのくらい君と会っていないんだろう。

最近は時間に余裕があるんだけど、僕は君に会いに行くことをしない。

本当はとても君に会いたくて会いたくてしかたないのに、でも気持ちは君から離れていることを望んでいる。

これって一体どういうことなんだろう・・・?


自分の夢を叶えるために、僕は君をあの町に残して、ひとり都会の暮らしに挑んだ。

だけどその暮らしは長続きせず、僕はあっけなく自分の夢をゴミ箱の中に捨て始めた・・・。

毎日を生きるためには、何かを犠牲にしなくちゃいけなくて、だけど何を犠牲にすればいいのか、それすら僕には選ぶコトも考えるコトもできなくなっていた。

たぶんこれって、犠牲にするべきコトすらない暮らしだったからなのかもしれない・・・。

僕がこっちに引っ越してから、君は毎週必ず僕に手紙を送ってくれた。

最初は僕も君の手紙が届くのが楽しみで、読んだらすぐに返事を出していた。

だけど最近は、その手紙すらきちんと目を通すこともなくなった。

もちろんもうしばらく返事も書いていない・・・。

だけど君はそんな僕の暮らしを知ってか知らずか、何も変わらず毎週必ず手紙を送ってくれた。

君の手紙が届く度に、僕は自分の不甲斐なさを恨み、情けない自分に腹を立てていた。

だけど変わろうとする気持ちはなかなか湧いてこず、僕はずっと動くことなくただ時間の流れに沿って暮らし続けるだけだった・・・。

そんな生活も、1年を過ぎようとしていたある日、何もすることがなくなった僕は、数週間前に送られてきて、まだ封を切っていなかった君の手紙を見つけた。

いつもよりちょっと大きめの封筒だったので何となく気になり、その手紙を見てみると、中には数枚の便箋と一緒に1枚の写真が同封されていた。

「あっ・・・!」

その写真を見た瞬間、僕は思わず声を上げた・・・。

同封されていた写真は、あの頃の僕と君の家をつないでいた、あの橋の写真。

そしてその写真の裏には、見慣れた君の字でこう書かれていた・・・。

 『 私とあなたの距離は、今でもあの頃と変わらないよ・・・。 』

その文字を見て、僕は言葉無く涙をこぼした。

今までずっとこぼすことを拒んできたあの涙を、たくさん・・・。

あの日からずっと変わらず、僕を想い続けていてくれた君を、心から愛おしいと思った・・・。

君に会いたい・・・。

あの橋を渡って、君に会いに行きたい・・・

堕落してしまった僕がずっと隠してきた本当の気持ちは、君に会いたい想い。

転がり落ちていくだけの自分の姿を、君だけには見せたくなくて、今までここでうずくまっていたんだ。

そう、これは、夢を捨ててしまった時からずっと盾にしていた、僕のちっぽけなプライド・・・。

君にだけはけして見せたくなかった、弱い自分・・・。

そして、僕はやっと分かった。

自分がいま何を犠牲にして暮らしていけばいいのか・・・。

 捨てなきゃいけないのは、自分の今の暮らしそのもの・・・。

あの町に帰ろう・・・。

君の待つあの町に・・・。

僕にはまだ帰るべき場所が残っていたんだ。

意地になってこのままこの町で埋もれていてもしかたがない。

負け犬にだって、まだ立ち上がる力くらい残ってるんだ・・・。

僕は久しぶりに君に手紙を書いた。


捨ててしまった夢のコトも。

今の自分のカラッポの暮らしのことも。

そして、君の住むあの町に帰ることにしたことも。

僕はありったけの自分の素直な気持ちを、君に宛てて書き綴った。


あの橋を渡ったところに、君の住む家がある・・・。

あの橋がずっとつなぎ続けてくれた、僕と君の想いがある・・・。

あの橋には、あの頃と変わることのない二人の距離がある・・・。


そう、その距離は

遠くて近い僕と君が歩んできた

ふたりの愛しさの距離・・・。

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