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ナカタが好きな少年、元気ですか?

私は子ども3人の母親です。
独身時代ひとり旅が好きだった私も、子どもが生まれてからというもの自分が好きな場所になかなか行けません。
子どもが楽しめる場所が旅先になるので、動物園や水族館、大きなスライダーのあるプールなどをリサーチして家族旅行で訪れています。

ひとり旅のときに楽しんでいた、行き当たりばったりの旅程や小汚い屋台での食事、バッグパックを背負っての移動はしばらくできそうにありません。

もちろん、今でもひとり行動をしたくなるときはあります。旅先のホテルでひとりのんびりしたいときもあります。
しかし、定番の家族旅行先で子どもたちがわくわくした顔をしながら飛び跳ねている姿を見るのも、悪くないと思えるようになりました。

ナカタ少年のサッカーボールはもっとボロボロだった

若い頃私はひとりでいることが好きだったので、子どもを産んだり育てたりするのは無理だと思っていました。でも、旅先では子どもたちに囲まれることが多かった気がします。なかでも印象的だったのは、ブータンで出会ったサッカー少年です。

サッカー少年とは違いますが少年のゴはこんな衣装です(pixbayより)

世界で最も幸福な国として有名なブータン。長くブータンに憧れていた私は、就職して2年目のゴールデンウィークに大枚をはたいて出かけました。

ブータン滞在中3泊目の朝。散歩しようと思って道を歩いていると、ボロボロのサッカーボールが私の足元に転がってきました。まわりを見ると、少し離れたところにブータンの伝統的な衣装・ゴを着た男の子がいました。
少年に向かってボールを蹴ったところ、今度は少年が意図的に私に向かってボールを蹴り返してきます。
「そういうことなのね?」と私は理解し、少年に向かってまたボールを蹴り返しました。ボールが何往復かしたあと、少年は話しかけてきました。

「Are you soccer player?」
「ええ!なぜそんなこと思ったんだ、少年!!」と思いながら「No」と言うと、少年は言いました。
「だって、あなたはサッカーが上手だから。ねえ、どこから来たの?」
「私は日本から来たよ」
「そうなの!?じゃあ、ナカタって知ってる?僕、ナカタ大好きなの」
ナカタとは元サッカー日本代表選手の中田英寿さんのことです。

当時中田英寿さんは現役のサッカー選手だったので、日本では有名人でした。けれども、まさかブータンの少年からその名前が出るとは思っておらず、私はとても驚きました。

「僕、サッカーが好きなの。ナカタみたいなサッカー選手になりたいんだ!」
少年はキラキラとした笑顔でサッカーボールを蹴り返しながら言いました。
数分間ボールを蹴り合ったあと、少年は「もう学校に行かなきゃ」と言って手を振りました。
「See you!」
サッカーボールを蹴りながら登校する少年の後ろ姿を見送りながら手を振ると、山の緑にキラキラと朝の日が反射してまぶしく感じるほどでした。

ブータンのタクツァン僧院

ブータンでは崖っぷちにある荘厳な僧院や美しい景色などさまざまなものを見たはずなのに、今思い出すのはあのサッカー少年のことばかりです。

我が子たちは当時のサッカー少年とほとんど変わらない年頃になりました。子どもが夢を見ること、何かに熱中すること。なんて素敵なんだろうと思います。自分が親になるとそんなシンプルなことを忘れそうになり、叱ることの多い毎日を過ごしがちです。でも、サッカー少年をことを思い出し、我が子たちのキラキラした顔も大事にしていきたいと考え直したところです。

#忘れられない旅

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