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まだ間に合う!しっかり学んでインボイス制度に備えよう

「インボイス制度」を知っていますか?「フリーランスを殺す制度」という過激な呼び名で呼ばれることもあるこの制度は多くの業界に波紋を広げており、2021年10月には一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 が財務省などに対して「インボイス制度導入によるフリーランスへの影響・不利益を最小限とするための取組み要請」を申し入れており、日本出版協議会も2022年2月3日、この制度に対する反対声明を出しました。

フリーランスにとっては死活問題とも言える制度ですが、「制度の内容がわかりにくい」という声も。「専門用語が多すぎてよくわからない」「損をしてしまうのではないか?」「自分で手続きができるか心配」と不安を抱えている方も多いようです。

「インボイス制度」の導入開始は2023年10月1日を予定しており、あと1年と少しに迫ってきました。どんな制度も、今からしっかり学んで準備をしていれば、必要以上に恐れることはありません。今後、フリーランスとしてどのように働くのが良いのかを見直すきっかけにもなります。

この制度をうまく活用するためにも、この機会に「インボイス制度」への理解を深めておきましょう。

インボイス制度ってどんなもの?

そもそも「インボイス」とは何のことで、「インボイス制度」とはどのような制度なのでしょうか。

 インボイス=適格請求書

「インボイス」は日本語で言うと「適格請求書」のことであり、「適格請求書」とは、売手(事業者)が買手(取引先)に対して正確な適用税率や消費税額等を伝えるものです。

もっと具体的に言うと、決められた項目を正確に記載した請求書や納品書、レシートなどの書類のことであり、「適格請求書発行事業者」だけがインボイスを発行することができます。

インボイスに記載すべき具体的な項目は下記の通りですが、この制度においてレシートは適格簡易請求書と呼ばれ、下記の1~4のみ記載されていれば良いとされています。

1.インボイス発行事業者の氏名または名称および登録番号

2.取引年月日と取引内容

3.税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜および税込み)および適用税率

4.税率ごとに区分した消費税額等

5.書類の交付を受ける事業者の氏名又は名称

インボイス制度とは?

前項で説明した通り、インボイスとは「適格請求書」のことですが、インボイス制度とはどのような制度なのでしょうか。

インボイス制度は「適格請求書等保存方式」のことを指しています。

売手(事業者)は買手(取引先)に求められたときに、インボイスを提出する必要があります。そして、買手はそのインボイスを保存しておく必要があるのです。それによって買手側は仕入額控除を受けることができます。この一連の仕組みがインボイス制度です。

「仕入額控除」の仕組みについては後ほどご説明しますね。

■採用された背景

では、なぜ今回インボイス制度が導入される見通しとなったのでしょうか?この背景には、消費税10%への引き上げが関係しています。消費税率は基本的に10%ですが、酒類・外食を除く飲食料品と定期購読契約している新聞は、8%の軽減税率が適用されていますよね。

2つの税率が混在しているので、売手(事業者)が買手(取引先)に対して「ある商品の税率がどちらなのか」を確認する作業が必要になります。そのために、「税率や消費税額が明記されている請求書」をインボイスという形で交付し、保存する仕組みが採用されることになったのです。

■対象になる人は?

制度の対象となるのは、課税事業者(消費税を納めている企業や個人事業主)だけではありません。インボイス制度は免税事業者(売り上げが比較的少なく、納税義務のない事業者)にもかなりの影響を及ぼすと言われている制度であり、どちらの事業者かによって確定申告の手続きも変更があります。

インボイス制度で何が変わる?

「仕入税額控除」の仕組み

インボイス制度において必ず覚えておきたいのが「仕入税額控除」です。この項ではその仕組みについて理解を深めておきましょう。

■納税額の基本的な計算方法

「仕入税額控除」とは、仕入れた商品を実際に販売した際の消費税の差額を納めることです。例えば、50万円で仕入れた商品を100万円で販売したとします。それぞれにかかった消費税分の差額ですので、販売額に対する消費税から仕入れ価格に対する消費税を引くと、下記の計算となります。

10万円-5万円=5万円

販売額に対する消費税のうち、税務署には差額の5万円を納めることになり、残りの5万円は控除の対象になります。

■控除が受けられないと?

仕入税額控除を認めてもらうためには、支払いの際に受け取る請求書や領収書の内容や保存方法にきちんとした決まりがあります。この決まりを守らないと仕入税額控除を受けられず、仕入れた商品にかかった消費税をまるごと納めなければなりません。先ほどの例で言うと、100万円で販売した商品にかかる消費税10万円を納税することになります。仕入れた商品にかかる消費税5万円分の控除が受けられず損をしてしまうのです。手続きに不備がないよう気をつけたいですね。

制度改正の流れ

インボイス制度以前にも仕入税額控除を受けられる制度がありました。消費税率が改正されたことがインボイス制度導入の背景になったことは前述した通りですが、ここでインボイス制度に至るまでの制度改正の流れを見ておきましょう。

■消費税率改正前(~2019年10月1日)

インボイス制度は2023年10月から始まりますが、今までも仕入税額控除を受けられる方法がありました。従来の制度は「請求書等保存方式」というものです。インボイス制度と同じように、決められた書類を準備し手続きを行うものでしたが、消費税が一律であったため税率を表記する必要がなく、難しい手続きではありませんでした。

■消費税率改正後(2019年10月1日~2023年10月1日)

消費税率が8%と10%の2種類になって以降、「区分記載請求書等保存方式」が導入されました。2023年10月にインボイス制度が導入されるまでのつなぎではありますが、この方式が採用されたことにより、税率の種類が混在しないような業種であっても必ず消費税率を明記することになったのです。

■インボイス制度導入後(2023年10月1日~)

従来と変わらず仕入税額控除を受けるためには、「適格請求書等保存方式」という方式に基づいた手続きが必要になります。「適格請求書=インボイス」であることはすでに解説した通りです。

※制度導入後も例外がある

インボイス制度導入後には、適格請求書等の保管が必要です。しかし、中には例外もあります。3万円未満の公共交通機関の乗車券、自動販売機での購入、ポスト投函での郵便利用などのように、比較的身近なものも項目の対象として挙げられています。このような項目は、要件を満たす帳簿の保存があれば仕入税額控除が認められるのです。

インボイス制度でフリーランスは損をする? 

 ここまで読んできて、「例えば、仕入れる商品がないWebライターのような職種には関係ない制度なのでは?」と思った方もいらっしゃるかもしれませんが、インボイス制度はそう簡単な話ではありません。売上額によっては仕事に大きな影響が出かねないのがこの制度の怖いところであり、多くのフリーランスから反発を受けている理由でもあります。

SNS上では、「インボイス制度が正式に導入されたら、フリーランスを辞めないといけないかも」「国が税金を回収したいだけでは?」というような、ネガティブな意見が散見されます。「本来納めなければならない税金を、正式な書類と手続きを踏まえて処理しましょう」という制度ではあるのですが、廃案を求めるハッシュタグもあるくらい、論争を巻き起こしているようです。

インボイス制度はフリーランスが本当に損をしてしまう制度なのでしょうか?それを知るためにはインボイス制度における免税事業者と課税事業者の違いを知る必要があります。

■免税事業者とは

免税事業者とは、1年間の売り上げが1000万未満の事業者のことです。

インボイス制度においてフリーランスが損をすると言われる大きな理由は、免税事業者が請求する消費税額が仕入税額控除の恩恵を受けられないことにあります。

仕入税額控除を受けられるのは適格請求書を発行できる課税事業者のみです。

例えば免税事業者であるWebライターに仕事を依頼している企業が、請求される消費税額が控除対象とならないため、適格請求書を発行できる課税事業者との取引を優先させるのでは?と危惧されているのです。

取引を継続してもらえても、控除できないことを理由に消費税額の減額を求められるのでは?というのもフリーランスの皆さんが心配しているポイントのようですが、これは違法となるのでそこまで心配することはなさそうです。

免税事業者から課税事業者になる選択肢もありますが、そうなると今まで免除されていた分も納税することになります。収入がこれまでより減るわけですから、「損をする制度」と言われるのも納得ですよね。実際にはいきなり控除が0になるのではなく、段階的に控除が減額されていくようです。

■課税事業者とは

課税事業者とは、1年間の売り上げが1000万円を超えている事業者のことであり、免税事業者とは異なり、売り上げの消費税分を税務署に納める義務があります。これはインボイス制度が導入されても今までと変わらないので、1年間の売り上げが1000万円を超えている事業者にとっては、申請する手間は必要ですが、免税事業者のように支出において大きな影響を受けることはないようです。

売上が5000万以下の方であれば負担額を減らせる可能性があります。これには事前の申請が必要で事業の種類によっても異なりますが、例えば卸売業なら「簡易課税制度」の活用で9割、不動産業なら4割の負担軽減が可能となります。

自分にあった働き方を選択しよう

副業やフリーランスでWebライターやイラストレーターとして働いている人で、1年の売り上げが1000万円を超えている人はそんなに多くないでしょう。1年の売り上げが1000万円未満の場合、免税事業者でいるべきか、課税事業者となるべきか悩むところです。

仕事の請負先から課税事業者になるよう要請されることがないなら、無理に課税事業者になる必要はありませんが、免税事業者でいることで取引先が多少なりとも損をする可能性があるというのは今後の取引も不安になってきますよね。

■ライターやイラストレーターはしばらく様子見?

インボイス制度は消費税に対する制度なので、外国企業からの報酬が大半を占めているフリーランスにとってはさほど影響はないと考えられます。

フリーランスや副業でライター、イラストレーター、フォトグラファー、漫画家などの仕事を国内で受けている多くの方々は、取引先のインボイス制度導入後の対応に不安を抱いているのではないでしょうか。

冒頭でご紹介した通り、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会や日本出版協議会がインボイス制度に対して反対の姿勢を見せています。

また、インボイス制度に反対する個人事業主やフリーランス、税理士たちが集まって「STOP!インボイス」というサイトを立ち上げており、このような運動が政府に届けば、制度の見直しもあり得るかもしれません。

そのため、インボイス制度の本格導入までは様子を見るという姿勢の方も多いようですね。

■課税事業者の方が良い人

1年に1000万円以上の売り上げがある場合は、課税事業者として申請を行う必要があります。適格請求書を必要とする取引先とメインで仕事をしているのであれば特に、早めに課税事業者として登録しておくといいでしょう。

※課税事業者になる際の注意点

インボイス制度に合わせて課税事業者の登録をするのであれば、2023年3月末までに税務署での登録を済ませましょう。その際に注意点があります。それは、「適格請求書発行事業者公表サイト」に氏名もしくは屋号が掲載されるということです。本名を公開したくないという方は、「公表申出書」を同時に提出することでペンネームやビジネスネームに変更することが可能です。

まとめ

インボイス制度について解説してきましたが、今回の内容を簡単に振り返ってみましょう。

・インボイス制度を「正しく知らないと」損をしてしまう可能性がある。

・免税事業者であること自体は問題ないが、取引先に影響を与える可能性がある。

・課税事業者でも、売り上げが5000万円以下であれば消費税納付額を減らすことができる。

・制度の変更も念頭に入れて今後の動向を見守ろう。

・心配な場合は、自分の働く業界に強い税理士に相談してみよう。

インボイス制度には多くの業界から反対の声があがっています。多くのフリーランスに仕事を依頼している出版業界は、出版社かフリーランスのどちらかがこれまでより多くの納税負担が発生する状況を憂い、反対の姿勢を見せています。

衆議院議員である日本共産党の宮本徹氏は、インボイス制度が免税事業者にとって実質収入源となることについて予算委員会分科会で取り上げたことをツイートしています。宮本氏は「複数税率のもとではインボイスが不可欠と政府は主張しているが、すでに複数税率のもとで3年もインボイスなしに世の中が回っている」と述べており、インボイスがない状況で不適切な課税の事例がどれくらいあるのか問いかけましたが、政府の回答は「集計は行っていない」というものであったこともツイートしており、このような問いかけが増えることで、制度自体の導入が避けられなかったとしても、何らかの救済策が設けられることを期待したいですね。

いよいよ来年に迫った制度ではありますが、フリーランスの皆さんにとっては働き方を見直す重要な節目となるかもしれません。より理解を深めて対応するため、専門家に相談することもひとつの方法です。制度の動向をしっかり見極めながら、正しく理解し準備する機会にあててみてはいかがでしょうか?

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