30)共感性

「相手の意見を聞き入れたからといって、自分がそのとおりにならなくていい」
そう言われてちょっと大げさだけど、世界がひっくり返った。

10代の私は自分には共感性がないと思っていた。
ある年、他学部のドイツ語会話の授業を取ってみた。受講生は私ともう1人だけ。長髪のちょっと怪しい風貌のドイツ人の先生が、自分の学部の学生がいないと苦笑しながら、それぞれがカップコーヒーを買ってきてずいぶんざっくばらんな授業をやっていた。このもう一人の学生はちょっと気難しそうな男性でなんとなく敬遠しながら半年間一緒に会話の授業を受けた。最終日の課題は「飲みに行く約束をする」で、後日本当にその約束通り飲み会をやった。その席で何か意見が合わないことがあったのだろう、私の、とにかく言いくるめられまいとする対応を見た先生が「相手の意見を聞き入れたからといって、自分がそのとおりにならなくていい」というような趣旨のことを言った。最初は何を言っているかわからなかったが、よくよく話をして納得した。どちらも折れない、だけど認め合う。そういう話し合いのしかたがあるということをこの時初めて認識した。

それまでの私は共感と言えば今目の前にいる人に共鳴すること同調することだと思っていたのだろう。それはなかなかできないので自分は共感性がないと思っていた。けれども同意できないということとそういう考えがあるのはわかるということは両方成り立つのだと知った。同調しなくても共感していい。

たったこれだけのことだが、その後の人とのかかわり方が決定的に変わったと思う。

2019/08/10

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