10)読んでしまう

「注意書きをしていても、読んでもらえないんです」
世の中には、文字が見えると目を背けてしまう人がいる。らしい。

いちいち読まなくていいのに、いちいち読んでしまう人もいる。それが普通だと、けっこう長い間信じていた、というか、子どもの頃は想像もしなかった。読まない人の存在を知ったのは、かなり大人になってからだ。

祖母の家に行く30分の車中、暇なので窓から見える看板を片っ端から読み上げる。いかに早く見つけて読むかを弟と競う。弟は小さいので読めそうなひらがなは譲ってやる。自分も読めなければ母に聞く。運転は父がしているから、母もときどきならなんとかつきあってくれる。郊外はひまで街中はめちゃくちゃ忙しい。ただの楽しい暇つぶし、車で暇なら誰でもそんなことをやっていると思っていた。

いろんな場所の注意書きも、いちいち読んでしまうので、世の中みんなもう知ってるはずなのに、いつまでもしつこく書いてるよなぁくらいに思っていた。

子育てするようになって、一見子どもに向けた注意書きが、子どもには全然理解できないことに気づく。

よちよち歩きは論外としても、少しひらがなが読めるようになった就学前の子どもにとって、「押」「Push」と書かれたドアは情報量ゼロ。「危険!!」はもちろんだが、「あぶない!」を瞬時に単語として理解できるわけではない。子ども自身に読ませるというよりは、周りの大人に向けているのだと、ようやく気がついた。大人がみんな読むわけでもないけれど。

「側面を持つと中身がとびだしますのでコーナーをお持ちください」と、12✕20mmのスペースに書かれた小さな文字を見ながら紙パックにストローを挿しこみ、そのたびに、この文字読むくらいならそのくらいは気をつけてるよなあ、と思う。小さい子どもとか、ちょっと不注意な大人とか、ほんとにやっちゃうから気をつけてほしい人は読めないか、読まない。気がついた人が制止する機会をちょっとは増やしているのかもしれない。

2019/07/13


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