『ラグビー憲章』介護訳(4) <規律(discipline)>

 あらゆるスポーツにはルールがあるし、世の中には法律が存在する。それぞれの家庭での決まりごともあるし、明文化されていなくとも守るべきとされていることは沢山ある。ラグビーは身体と身体がぶつかり合う激しい競技であるが、フィールドに立つ30人全員が同じルールを理解した上で戦うから試合が成立する。もしもルールを無視してしまったら、それはただのケンカにしかならない。何もそこからは生まれない。


 同じ起源を持つサッカーと比べると、ラグビーにはルールが多く存在し、結構わかりづらい。昨年のワールドカップを観て初めて知ったルールがある人も多いのではないだろうか。実は僕も詳しくは知らないのだが、最近の中継を観るとキャプションが出て説明が入ったり、解説者が初心者向けに話してくれたりするので大いに助かっている。それと、ラグビー中継の場合は主審にマイクが付いていて、その声がそのまま流されることも多い。ルールが複雑であるが故であろう。

 僕たちの仕事にも当然のようにルールが有る。わが国で施行されている法律、介護保険法をはじめとする関連の法律や自治体の条例などに拠った運営が必要であり、そこに沿うことがまず基本である。そして、会社である以上私たち社員が守るべき「就業規則」などのルールが存在する。あとは細やかな部分にはなるが現場ごとに定められた“決め事”があり、もっと細かくすれば人間対人間のレベルでの「約束事」があると思う。専門職として言うならば、それぞれの職業に定められた「倫理綱領」(職種によって名称は異なるが)もあるはずである。

 ルールは破る者が居るから罰則が定められているのは世の常であるが、上に述べた様々なレベルのルールを「破ってはいけない順」あるいは「破ると自分にとってのダメージが大きい順」に並べてみたらどうなるだろうか。私見だが、「約束事」→「現場での決め事」→「会社の規則」→「法律」→「倫理綱領」の順番になるのではないか。人と人との約束を破ってしまうと迷惑をダイレクトにかけちゃうし、現場の皆で「こうしよう」と決めたことを一人そっぽ向くわけにもいかない。要するに相手がより具体的で自分との距離が近い場合に、その関係性を維持しようとして守っていこうとする。しかし、法人とか自治体とか国とかそういう大きなものになると、そこに所属していてその枠の中で生きていることは知っているんだけど、相手は見えないし関係性もないのだからルールを破ることのハードルは高くなくなってしまう。信号無視などは、その最たる例である。

 がんじがらめにされることが嫌いなくせに物事を細かく決めておきたいという裏腹な性格をもった僕がこんなことを言うのはおかしな話だが、その、遠くにある国とか社会とかが決めていることをどう理解するかが僕らのやるべきことだと思う。ボスによく教えていただくのだが、物事には裏表が必ずある。なぜ守らせようとするのか。ルールに対して愚痴を言うことを否定しないし、どうしても変えるべきことであれば意見具申すべきである。が、まずはその本質を読み解きたいと思っている。「お上が決めたことだから仕方がない」で終わらせず、先に向けた解決策を提示できるようになりたいと常日頃考えている。ややもすれば「しょうがないじゃん」が口癖になってしまいそうなので。

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