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炭酸が特別だったあの頃

一人暮らしをするようになって、炭酸飲料が冷蔵庫に入っている日が増えたと思う。

実家にいる時には炭酸飲料を飲む機会がほとんどなかった。

別に飲むこと自体を禁止されていたわけではない。ただ、ジンジャーエールやソーダというのは、誕生日や縁日なんかの「ハレの日」、または旅行に出かける時の移動時間に飲むもの、という認識が家族の中の共通認識としてあった。

友達の家にお呼ばれした時に、炭酸飲料が冷蔵庫に入っている、という光景を目にして「世の中には炭酸飲料を毎日のように飲んでいる家もあるのか!」という幼い頃のカルチャーショックを今でも鮮明に覚えているのは、このせいだろう。

一人暮らしを始めてしばらくは2Lのポットに沸かしたお茶をいれて消費するという実家での当たり前をそのまま踏襲していた。
のだが、ある時スーパーで買い物をしていて、ずらりと並んだ炭酸飲料のペットボトルを見た時に、「そういえば、ここで今私がサイダーを買っても、見咎める人は誰もいないんだよな…。」とふと思ったのである。

なんとなく私は三ツ矢サイダーを買って、夏空の下、家路に着いた。
それを冷蔵庫に入れて、その夜、お風呂上がりにグラスに注いでみた。
たったそれだけのことだけど、炭酸のあのしゅわしゅわという音や、グラスに乱反射する光が、「炭酸は特別なのみもの」というそれまでの私の認識と結びついて、とても素敵なものに映ったのである。

お風呂上がりに飲み干したそれは、火照った体に沁みて美味しかった。

今は新商品のポップにつられて気軽に買うようになった炭酸飲料。それでもその味に、炭酸が特別だったあの頃を今でも思い出す。

#炭酸が好き

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