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誰にいえる、


また今日も

嗚呼、と

ため息こぼれ。


手にはエコバッグ

中には猫砂と

一升瓶。


家路を急ぐ人々と、

夕陽に染まる

駅前の北口商店街。


買い忘れた牛乳と、

目の前の家路が、

ミサイルで瓦礫と化すのを、

ぼんやりと想像していた。


それが、もはや

あり得ないなんて

誰にいえる?


このかた、世の中が、

良くなったためしなんてない。


マスクで顔を覆うようになって、

はや何年目か。


生まれたときから不景気で、

カップヌードルの値上げは

つい最近

ガソリンはもう、

ずっと。

それにきっとこれから、

パンも、肉も、

魚も、


それなのに

給料は据え置き

部署は縮小

バイトはクビ

大学は休校


長い冬は、あまりに寒く、

暑い夏は、さらに暑くなる。


かつてわれわれは、

地球上を自由に飛び回れた。


だがそれも遠い昔。

いまや、世界は

ごった煮のよう。


そして、この瞬間も

ウクライナでは

銃弾が飛び交い

ミサイルが打ち込まれ

子供を抱えた母親が

死体に目をそむけつつ

必死で逃げている。


彼らも一月前までは

ソファで映画を見ながら

呑気にポテトチップスでも

食べていたんだ。

 わたしたちと同じように、



 その映画を見て

 流すわたしたちの涙は、

戦場で流される、

死者への涙。


 放たれたシュートが

 ゴールネットを揺らす興奮は、

塹壕の隙間から敵を狙う、

兵士たちの興奮。


 ベッドのうえで、

 恋人の耳元に囁く吐息は

駅のホームで抱き合った、

夫との別れの吐息。


その違いが、

誰にいえる。


どちらも同じ涙で

 同じ吐息だ。


地球上の表と裏で

わたしたちは

かつての彼らであり

彼らは、

 未来のわたしたちだ。


だから、この

目の前の見慣れた町並みが

ミサイルで絶対に破壊されないなんて

いったい、

誰にいえるというのだ。



荷物を持つ手と

心は、鉛のように、重い。


しかし、ある日とつぜん、

銃を持つことになるのとくらべれば、

なんと、まだ

軽いことか。



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