さぶ 山本周五郎 感想

容姿端麗で仕事ができる栄二。この自己肯定感の高さにも頷ける要素が揃ってる。
一方、ずんぐりしてて糊の仕立てくらいしかできないさぶ。葛西の実家でも実の親から酷い目にあわされた過去があり、さぶの自己肯定感は低い。だがなんでも背負いこんでしまうタイプで、人にとことん尽くす優しい心持ち。
この2人はお互いが持っていない光るものを持っていて、尊敬しあってる関係。
本のタイトルは『さぶ』だけど、主人公は栄二だろう。物語の大半は、栄二が何者かによって仕組まれた冤罪により送り込まれた「人足寄場」での出来事を描いている。

栄二の自己肯定感の高さからも分かる通り、栄二は「自分自分!」とひとりよがりになるところがあるように見えた。
さぶが寄場に何度も足を運ぶも、頑なに面会を断る箇所がある。自分の都合だけしか考えてないのかなと思ってしまった。さぶのために会ってあげようという気持ちはないのだろうか。さぶに限らず寄場の人たちからの干渉も避ける。なに孤独気取ってんだ栄二!そういうのって、「当たり前」じゃねえんだぞ!(おれ自身にも言ってます)

そんな栄二が、寄場で「嵐」や「石の下敷きになってるところを救出される」などといったさまざまな経験をし、精神的に成長していく。
また、彼に対して放たれる言葉も彼を成長させた。中でもお気に入りなのが、与平とおのぶの言葉だ。

・与平
自分はひとりぼっちだと言う栄二に対して、それは間違いだと話す与平の言葉が深く心に
突き刺さった。

"「ー 栄さんはきっと一流の職人になるだろうし、そういう人柄だからね、尤も、栄さんだけじゃあない、世の中には生れつき一流になるような能を備えた者がたくさんいるよ、けれどねえ、そういう生れつきの能を持っている人間でも、自分一人だけじゃあなんにもできやしない、能のある一人の人間が、その能を生かすためには、能のない幾十人という人間が、眼に見えない力をかしているんだよ、ここをよく考えておくれ、栄さん」"(山本周五郎、『さぶ』、2014、新潮社、P353〜354)

てめえ一人で生きてるんじゃねえんだぞ!
おれ自身もけっこうひとりよがりになりがちだから、この与平の言葉は忘れないよう心に刻んでおこうと思う。

・おのぶ
女に稼がせに行ったらその夫婦は終わりだというジンクスを信じる栄二。おれが養わないとって思ってる栄二に対して放たれるおのぶの言葉。

"「とんでもない、冗談でしょ、人間が人間を養うなんて、とんでもない思いあがりだわ、栄さんが職人として立ってゆくには、幾人か幾十人かの者が陰で力をかしているからよ、さぶちゃんはよく云ったでしょ、おれは能なしのぐずだって、けれどもさぶちゃんの仕込んだ糊がなければ、栄さんの仕事だって思うようにはいかないでしょ」"(山本周五郎、『さぶ』、2014、新潮社、P407)
"「ー 世間からあにいとか親方とかって、人にたてられていく者には、みんなさぶちゃんのような人が幾人か付いているわ、ほんとよ、栄さん」"(山本周五郎、『さぶ』、2014、新潮社、P408)

文中にもあるが、ほとんど与平が言ってたことに近い。自分の力を過信しすぎないこと、お前の能力はお前一人のものじゃないってこと、その能力を活かすことだってたくさんの見えない人の力を借りてるんだってこと、忘れない。

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