エキストラ出演した“彼の人”
映画「とんび」(2022)に、うちの父の元同僚が地元民のエキストラで出演しているから「見てよ!」と母が声を荒げて言った。
「それがけっこう大きく映っとるんよ!」と母。
「祭りのシーンで水色のはっぴを着て、北村匠海の後ろでニカーて笑っているんだから!」大興奮である。
その人は父の同僚だった。
わたしはまだ子供だったが家族ぐるみの付き合いがあり、“優しくて調子のいいお兄ちゃん”という記憶がある。彼は当時まだ20代だっただろう。父よりも年下だったけれど今思えば快活なムードメーカーで、彼がいるだけでその場が明るく賑やかになった。
「どれどれ!?」
さっそく再生した「とんび」の祭りのシーン。北村匠海氏の後ろで、俳優顔負けの笑顔で笑っているはずの、はっぴ地元民を探す。
しかし母の言うような人物が見当たらない。
「どこよ?」
「あれー?」
祭りのシーンを再度見返すが見当たらない。わたしは同じ流れを3回ほど繰り返したところでギブアップ。わたし自身は最後に会ってから30年近くは経っているのだ。見つけ出す自信はなかった。
しかし母は
「この間見た時、わたし、一発で見つけたんよ?」
一発で見つけた意地が妥協を許さない。
絶対あるはずのもんがどこにも見当たらないなんて「そんなはずはない」母。
「おかしいなぁ」
ぶつぶつ言いながら同じところを何度も、食い入るように見ている。
その後祭りのシーンを5回は見返した母が
「あ!おった!これこれ!」
と大声を張り上げるので駆け寄る。
「どこどこどこっ?!」
もちろん今は交流のない彼の人だが、あの“調子のいいお兄ちゃん”が映画に出てるんだ。気にはなる。母が一時停止していた「とんび」を再生した。
「ほら!これこれ!」
と指差す人を見てみると。
まず全然水色のはっぴじゃないの。
んで、全然、夕陽に向かって笑ってないの。
北村匠海氏いないの。
聞いてたのと全然違うし想像とも全然違う。
実際はどうだったかというと、彼はお神輿の一団の中に、紺色のはっぴで混ざってて(紺なの。)確かに大きく映ってはいるが端の方に「映り込んでる」感じの映り込み方。
「どこが夕陽に向かって笑ってるの」
「ふ」
いや「ふ」じゃないんだよ。
人の記憶ってこわいな。と思った。
この記事が参加している募集
いただいたサポートは、いつか海外に飛び立つときの資金にしたいとおもいます。