【ショートショート】結局全員チューした【大増殖天使のキス】

　　　結局全員チューした

　N国では赤ん坊が産まれると、天使が一人おりてきて、祝福のキスを授ける。これは子供の誕生を祝福するだけの行為であり、特別な力を与えるためのものではない。
「なるほど……」
　そんなルールを天界で聞く男は、不運な事故で命を落としてしまった。彼は生前の行いがよかったので、再び人間に転生できるようだ。
「僕のときも君たちが祝福を？」
「はい。間違いなく」
「ありがとう」
「えっ」
　天使たちは顔を上げた。
　そこにあるのは完全なる善意のイケメンスマイル。
「それなら、生まれ変わった先でもきっと素晴らしい人生を歩める気がするよ」
　彼は知らず知らずのうちに、その場に居た天使全員の心臓をぶち抜いていた。

　とある夫婦の間に子が産まれた。
「ああ、今天使の祝福が来ます……」
　窓のカーテンを開けた産婆は腰を抜かし、妻は悲鳴を上げ、夫は固まった。
　大量の天使たちが、我先に祝福をと窓にへばりついている。唇を尖らせたり、赤ん坊をこちらへ！　と指示したりなんかして……。

　毎週ショートショートnote
　お題「大増殖天使のキス」
　文字数409字