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【設定資料】ルーツと魔術師と暗殺者

 

(アンヒューム歴史文化学の第一人者、セジュール・クールが執筆した代表的な書物である。堅苦しい文章はとっつきにくさがあるが、飛ばしながら読んでも要綱をつかむのに問題はない)


 そもそもアンヒューム――この書物の中ではルーツと呼ぶ――が偏った場所に住んでいるのも、その地域に名前がつけられていないのも、胸を締め付けるような悲しい暗殺事件が発生するのも、言ってしまえば全部魔術師のせいである。ルーツの人々の住居分布が偏っているのは、言うまでもなく隔離政策からきているものだ。当時は(悲しいことに、今も)「魔力無しは不治の病」という迷信が信じられており、ルーツの人々はまるで病原菌であるかのような扱いを受けていた。その地域に名前がついていないのも、土地を収めていた領主が自分の住む土地にルーツが住んでいることを隠すためだ。地区に名前を付ければ、地図に載る。地図への掲載を避けるためにルーツ居住区には名前を付けず「地区」という風に呼んだのだ。この露骨な差別を嫌がったルーツたちは地区を出て、山の奥や森の中をひっそりと開拓し、村を作った。この村文化は魔術師社会に溶け込むことができなかった人間も真似したため、村は「ルーツの人が住む村」「魔力を持つ人々が住む村」「強烈なルーツ排斥主義者の村」等、様々なコミュニティが形成されている。
 そして、ルーツに暗殺術を教えたのも魔術師である。権力闘争が過激になる中、政敵を消すことを考えた魔術師たちはルーツの人々にその暗殺を頼んだ。ルーツの人々はこれを嬉々として了承した。なぜなら暗殺業は一度こなすだけで当時の一般的なルーツの半年分の収入を得ることができたのだ。ルーツの人々はその手先の器用さを生かし、暗殺にふさわしい武器や道具を作り始めた。諜報業も盛んになり、仕事の奪い合いも発生した。結果、暗殺者を暗殺する暗殺者という職業まで生まれた。そうなるとルーツたちは「殺害する相手は魔術師である必要はない」と気づく。雑踏で足を踏んできた相手、自分の口に合わない料理を提供してきた店主……そういった市井の人々も粛清の対象になったのだ。地区の秩序は消え去ろうとしていた。
 地区によってその結末は様々だが、王都ではルーツの人々が排斥され、地方都市ではゆっくりと魔術師の権威が衰退した。商業都市の地区においては様々な派閥が台頭し、不安定な状況が続いた。この争いが終わるためには、「蒼鷹そうよう」と呼ばれる暗殺者の登場を待たなければならなかった。

(およそ五十年前の商業都市アルシュの、地区入り口付近の写真だ。画面左側に写っている人物がこちらを威嚇するようにして手をかざしている……)


気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)