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【短編小説】1500個のジェムvs150個のダイヤ

「サービス終了なんだって!」
 友人がそう言って嘆いているのを、私は課金石ダイヤの購入画面を眺めながら聞いている。彼女のハマっていた作品は確かに売り上げランキングを順調に下っていた。ネットでは「そのうちサービス終了するんじゃないか」なんて囁かれていた。ついにそれが現実となったわけだ。
「半年前からコツコツと貯めてたジェムのやり場がなくなっちゃった!」
「……無課金だったの?」
 私の問いに友人は頷いた。
「ほら見て、全力で貯めた千五百個のジェム」
 ジェムの内訳画面には、確かに「無償ジェム 1500個」と記載があり、有償ジェムはゼロだった。
「なんでサービス終了するんだろう!」
「なんでだろうね」
 私は百五十個のダイヤに一万円をぶち込みながら適当にあしらった。
「私がコツコツとジェムを集めるのに使った時間返してほしい!」
 ……こいつは課金しなくて正解だな、と私は思った。仮に課金をしていたら金返せと言っていたに違いない。
「そっちのソシャゲはどう? 続きそう?」
「この前五周年だった」
 私は先ほど購入した百五十個のダイヤを「五周年ありがとう記念ガチャ」にぶち込みながら答えた。
「いいなぁ。私のソシャゲは死んでるのに、そっちは五歳の誕生日かぁ」
「そうだね」
 確定演出で現れたSSRは欲しいキャラクターではなかったものの、未所持だったので許した。
「なんでサービス終了するんだろう」
「なんでだろうね」
 あっという間に百五十個のダイヤを使い込んだ私は、もう一度一万円を百五十個のダイヤにぶち込んだ。
「あ、分かった。私のソシャゲは課金者に有利だからだ。無課金にやさしくないから、無課金が離れたんだ」
「そうなんだ」
 私は適当な返事をしながらガチャを回す。やっとお目当てのキャラが来てくれたので小さくガッツポーズをする。
「そうだよ。課金してる人たち用の育成素材ボックスがあったりとか、有償石でしか回せないガチャがあるの。そっちのソシャゲにはそういうのはないでしょ」
「ないよ」
 私はコロシアムのページを開いた。ユーザー同士の戦いを楽しめるPvEのコンテンツだ。ここで上位に上り詰めるにはそれなりにお金を積まなければならない。逆に、ここに興味がないのであれば課金する必要はない。
「ほらやっぱり! 無課金を大事にしないからこうなるんだ!」
 私は返事をしなかった。友人は呻いている。そりゃサービスも終了するよな、なんて思ったが口に出したら怒られるのが目に見えている。コロシアムの最上位層でしのぎを削る私の前で、友人は1500個のジェムをアンインストールしている。
「最後までやらないの?」
 と私が問いかけると、
「やらなーい。終わるって分かってるのに遊んで何の意味があるの?」
 と友人は答えた。
「そうだね」
 私は適当な言葉を返した。手元では、私の組んだパーティが相手の重課金パーティを蹂躙している。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)