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【ショートショート】おざなりの信仰【山岳カルマ】

   おざなりの信仰

 俺は遭難している。
 久々の登山で浮かれていた。俺は今どこを歩いているかも分からない。やけっぱちになって歩を進めて、いよいよ体力が尽きて立ちすくんでしまったところ、足元に一匹の鳥が落ちていた。上を見上げると、鳥の巣が見える。どうやらあそこから落っこちてしまった雛らしい。
 俺は雛をそっと抱えて、巣に戻してやった。そして、もう一度下山の為に歩き始めた。道中様々な生き物が困っていたので、俺はその一匹一匹を助けてやった。死を前にして善行を積みたくなったのかもしれない。
 ……が、その成果は早々に形になった。
「あ!」
 道路だ! どこの国道かは分からないが助かった!

 ……喜びのあまり、男はすぐに駆け出した。
 うずくまるリスを蹴飛ばし、貴重な花を踏みつぶし、小動物の巣を破壊して。
 疲れからか、道路に飛び出た男は足をもつれさせて転んでしまった。そこに勢いよくやってきた車は、姿勢が低くなった男に気が付くはずもなく……。



 毎週ショートショートnote
 お題「山岳カルマ」
 文字数405字

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)