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【短編小説】私はAI絵師とは違うので

 友人がAI絵師になったという。
 それを聞いた私の落胆を、あなたになら理解してもらえるだろうか。私はしがない絵描きである。一生懸命努力を重ねて、今ではツイッターで二百ほどのいいねを安定してもらえるくらいの中堅絵師になった。だからこそ私はAI絵師というものを理解できないし、AI絵というものを憎んでいる。絵描きが長い時間をかけて身に着け、開花させた表現をあっというまに盗んでぐちゃぐちゃにしてしまう。そんなもの、最低の技術に他ならない。あんなものは消えてなくなってしまった方がいいのだ。
 私は友人とは疎遠になったが、逆に絵に打ち込むことができるようになった。あんな××なAIイラストなんかに負けるものかと思った。AI絵が数千のいいねをもらっているのを見ると悔しさではらわたが煮えくり返り、私の創作魂は天高く燃え上がった。
 たくさんの資料を集めて、日々研究を重ね、出来上がったイラストは私の最高傑作になった。私はその絵をアニメ公式イラストコンテストに応募した。人気どころのキャラクターが楽しそうに集うその絵はAI絵師たちがもらったいいねを瞬く間に抜き去り、名誉ある賞への授賞にまで至った。
 私はふんぞり返りながら、AI絵師に堕ちた友人へと自慢した。
「ああ、」友人は随分と渇いた声で答えた。
「SNS見てないんだ」
 私は、彼女が何を言っているのかが分からなかった。友人はさっさとスマホを見ろというジェスチャーをするので、私は素直にツイッターを開いた。
 私の絵が叩かれている。
 トレスだのなんだのと難癖をつけたツイートには、五桁のいいねがついていた。
「トレス元のイラスト、有名ソシャゲのやつじゃん。どうしてそんな分かりやすいところから持ってきたの?」
「トレスなんかしてない!」
 私は叫んだ。「ちょっと参考・・にしただけ!」
「あなたみたいな神絵師になると、元のイラストとまったくおんなじように線を引けるんだ」
 友人はそう言いながら笑っていた。私はいよいよ彼女をぶん殴りたくなった。
「それにしても効率が悪い」
 友人がほくそ笑みながら言った。
「どうせ盗むパクるんだったら、もっと楽な方を選べばいいのに」
「お前と一緒にするな!」
 私はたったそれだけを怒鳴って、さっさとその場を去った。AI絵師になるとパクりと参考の違いも分からなくなってしまうらしい。そう思ったらなんだか悲しくなった。

 私はしがない絵描きである。
 一生懸命努力を重ねて、今ではツイッターで二百ほどのいいねを安定してもらえるくらいの中堅絵師になった。だからこそ私はAI絵師というものを理解できないし、AI絵というものを憎んでいる。絵描きが長い時間をかけて身に着け、開花させた表現をあっというまに盗んでぐちゃぐちゃにしてしまう。そんなもの、最低の技術に他ならない。あんなものは消えてなくなってしまった方がいいのだ。

 結果として。
 そんな私の叫びは今、誰の心にも届かなくなってしまった。
 後に残ったのは受賞取り消しになった大作だけである。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)