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【ショートショート】不信【トロンボーンの口調】

   不信

 トロンボーンの口調が流行った。神の楽器は口調も丁寧。誰かが面白がったので、楽器たちはみんなそれを真似し始めた。
 例えば「そんじゃ演奏するぜ」と言っていたのを「それでは皆様、演奏を始めましょう」という具合に。少し小馬鹿にして、クスクス笑いながらマネをしていた。
 自分が喋る度に皆が笑う。トロンボーンの口数はみるみるうちに少なくなり、彼は何も言わなくなってしまった。
 ある日、楽団の長は楽器たちの会話を聞いて驚いた。口の悪かった楽器たちが丁寧な言葉を使っているではないか。
「素晴らしい言葉遣いですね。心が洗われます」
 楽器たちは喜んだ。もっと楽団長に喜んで欲しい。そのためには丁寧な言葉をトロンボーンから学ぶ必要がある。楽器がぞろぞろとトロンボーンのところにやってきて、大声を張り上げた。
「丁寧な言葉遣いについて教えてくれよ!」
 トロンボーンは唇を真一文字に結んだまま、笑顔で首を横に振った。今に泣きそうな様子であった。


 毎週ショートショートnote
 お題:トロンボーンの口調
 文字数410字


気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)