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【超短編小説】置き去りにされて【月めくり】
置き去りにされて
月めくりカレンダーをめくる気になれなかった。
毎月二十三日は彼女との交際記念日だった。だった、というのは過去形だ。僕は先日フラれたのだ。ちょうどこの日だ。二十三日。僕は交際記念日のたびに必ずちょっとしたプレゼントを彼女に贈っていたのだが、フラれた理由もそれだった。
「重いんだよね」
薄ら笑いを浮かべながら吐き捨てた彼女は、ナプキンで口元をぬぐった。
「毎年なら分かるけど毎月って……ねぇ? 子供じゃないんだから」
僕はこのとき、自分の鈍さを呪っていた。自分の無知を呪っていた。僕には分からなかった。付き合い始めの頃は僕の好みを一生懸命探って、それを実践していた彼女が、いつしかそこから遠くかけ離れていくことの意味を。僕はただ単に彼女が背伸びをやめただけなのだと思っていた。全くそんなことはなかったのだ。
僕をこっぴどく振った彼女は、僕と別れてすぐに他の男と付き合い始めたらしい。「××くんと別れてから、あの子なんだかグレちゃったんだよね」……告げ口のようにして僕に情報提供をしてくれた女友人は、まるで探偵のようにして二人の逢瀬の写真を撮影していた。僕は「もう気にしていないから」と言ったけれど、後でひどい体調不良に見舞われた。
とはいえ、元カノに男がいようがいまいが、本当にどうでもよかった。ともかく僕は彼女にフラれた時点で絶望がおなかいっぱいだったんだから。
……月が移り変わるとき、僕は必ず日めくりカレンダーを捲って、その月の二十三日に二重丸を書いていた。だけどそれはもう必要のない工程だった。月日が巡り、緑色の葉が赤や黄色になって、いよいよ雪が降りだした。大掃除を口実に、捲らずに終わったカレンダーを外した時、それにひっかかっていたらしい小さな蜘蛛の死骸が落ちてきた。
シロクマ文芸部
「月めくり」より。
気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)