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【ショートショート】最後の一羽になっても【デジタル混入島】

   最後の一羽になっても

「ようこそ、N島へ! 君はエヌ鳥を見たいのかい?」
 U氏が素直に「そうだ」と答えると、男はメガネを取り出した。
「エヌ鳥専用観察メガネ。ひとつ1000円。どう?」
 U氏がメガネをつけると、早速エヌ鳥の群れがU氏を迎えてくれた。
 U氏は一心不乱に写真を撮影し、もっとよくエヌ鳥を見ようとメガネを外した。すると、あれだけいたエヌ鳥の姿がほとんどない。U氏は慌ててメガネをかけた。エヌ鳥がいる。
「どういうことだ!」
 U氏は叫んだ。男は悲しい声で告げた。
「エヌ鳥は、生息数が年々減少しているんだ」
「それでこのインチキを……」
「インチキじゃない!」男が叫んだ。
「デジタル技術のおかげでエヌ鳥が戻ってきたんだ。外部の連中にとやかく言われる筋合いはない!」
 男の剣幕に、U氏は何も言えなくなった。
 近くで別の観光客が喜んでいる。メガネ越しのエヌ鳥を本物だと思い込んでいる。U氏はカメラを確認した。どの写真にもエヌ鳥の姿はなかった。


毎週ショートショートnote
お題「デジタル混入島」
文字数407字

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)