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【設定資料】ルーツの光と闇

(この本はまだ比較的新しい本だ。付箋が一枚貼られているが、そこは章のはじまりのページであった)

「ワタシからすれば、アンヒュームもあなたも大した違いはないね」
 この言葉に世界中のアンヒューム――否、ルーツは沸いたことだろう。今まで「魔力を持たない者は原初の魔女からの寵愛を受けなかった者」として、アンヒューム(古代語で「愛のない者」の意)と呼ばれ続けた我々にとっての転換点といえる。
 この言葉を発したのはかの有名なカルロス・ヴィダル氏だが、彼は魔術適正ランクでの分類ができない唯一の魔術師とされている。なぜなら彼をS級に分類すると、他のS級の魔術師が皆見劣りしてしまうからだ。魔術学会は苦肉の策で「分類不能」としたが、カルロス氏は「SSとかSSSとか設立するのはそんなに難しいことなの?」と不満げ(?)だった。
 話が逸れたが、ともかく規格外の魔力を所持するカルロス氏からすれば我々も魔術師も同じ「魔力なし」なのかもしれない。これを悲観するルーツもいれば「俺たちに媚びない姿勢がいい」と好意的に受け止めるルーツも居る。
 だが、カルロス氏が「ルーツ」という新たな呼び名を発明した結果、良い影響だけではなく悪い影響も生じてしまった。そのうちの一つが「あぶりだし」であろう。
 ルーツに対して否定的な立場の人々は「ルーツ」という呼び方を使わない。そして、ルーツという呼び方を使うのはルーツ本人であるという意識がそれとなく広がってしまった。例え差別意識のない魔術師が「本人たちがルーツと呼ばれたがっているのならルーツと呼んであげよう」と思ったとしても、「ルーツ」という言葉を口に出した瞬間に「あ、コイツはアンヒュームなのか」という失礼な疑いをかけられる。自分がルーツであるという誤解をかけられてまで「ルーツ」という呼び方を使うのは、身近にルーツの人がいるか、よっぽどの聖人ぐらいだろう。
 実際、喫茶店にて隣の席の客が「ルーツ」という単語を使ったのを聞いて「自分の隣にルーツが座った」と勘違いした魔術師が、客に暴力を振るった事件があった。
 ルーツの人々にとってルーツという言葉を使うのは、それ自体が闘争なのである。中には気恥ずかしさからアンヒュームを使う当事者もいるが、大切なのはルーツにせよアンヒュームにせよ、差別している・されているという現状をなくすことではなかろうか。ルーツの人々たちが大手を振って「私はルーツです」「私はアンヒュームです」と言えるようになることが、一番大事なことではないかと私は考えている。




気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)