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拝啓、ジェニスタ様

コンヌツハ。ホルケゥです。
今日は少しハンドメイドの話から外れて、趣味のオンラインゲームのお話。

近況

僕は今、ファイナルファンタジー14(FF14)というオンラインゲームをプレイしている。いや、プレイしているというより、FF14の世界で「暮らしている」という方が正しいかもしれない。他の人達ほどプレイ時間は長くもないし、たいして強くもないけれど、沢山の仲間や友人達に囲まれ、一緒に旅したり、共闘したり、おしゃべりしたり、草むりしたり、物を作ったり、写真を撮ったりしながら暮らしている。

そんな僕は「JA」というチームのリーダー、いわゆるマスターだ。他のゲームでいうギルドに相当するフリーカンパニーには11名、チャットチャンネルに当たるリンクシェルには、27名が所属している。

この「JA」、今でこそ僕がマスターをしているが、実は作ったのは僕ではない。相棒のジェニスタという男が作ったのである。僕は彼からJAを譲り受けた人間にすぎず、今でもJAの真のマスターはジェニスタであると認識している。

今日はそんな偉大なる我が友、ジェニスタのお話。

ジェニスタとの出会い

話は10年くらい前に遡る。当時僕は「タワーオブアイオン」というオンラインゲームをプレイしていた。アイオンは初めてのMMORPGで、僕はレギオンという、他ゲーでいうギルドに所属し、沢山の人との集団生活やローカルルール、対人戦に戸惑いながら、1日の大半を採集と製作で終えるという農民プレイでマイペースに遊んでいた。そしてその日々をブログに綴っていた。

その最中に、愛犬が17歳で病に侵され、天国へ旅立ってしまった。
悲嘆にくれる僕は、愛犬への想いをブログに書き残した。それに反応して優しいコメントを残してくれたのが、ジェニスタだった。

コメントによると、彼は同じくアイオンのプレイヤーであり、どの組織にも属さずソロで細々と遊んでいること、死んだ犬は天国に行くと虹の橋のたもとで主人を待っており、また会える日が来ると教えてくれた。その言葉に勇気づけられ、僕はまた歩き出すことができた。同時にこのジェニスタという優しい人間に会ってみたくなった。

その日は突然訪れた。バルタザールの村という、満開の桜が咲き乱れる静かな村でボーッとしていた僕は「さーてそろそろ採集でも行くか」と腰を上げて村を一歩出た。その時、地平線の向こうから村に向かって走って戻ってくる一人のプレイヤーが見えた。ネームを見て、思わず変な声が出そうになった。ジェニスタだ。
向こうも自分と遭遇できるとは思っていなかったらしく、チャットで「!!!!!!」と驚きの意を伝えてきた。完全に偶然である。お互い会ってみたいと思う人間を、神様は不思議な形で引き合わせた。

出会った僕らはすぐ話をして意気投合し、フレンドになった。価値観も波長も合うジェニスタとは、いくら話していても飽きなかった。何より、PVP(対人戦)ゲームなのに戦わずひたすら農作業と製作に明け暮れるという、大多数のプレイヤーとは違う僕の遊び方を、彼は決して否定しなかった。「ホルはそれでいいよ。やりたくないことはしなくていいし、やりたいことだけしようぜ」といつも言ってくれた。

当時僕は中規模のレギオンに所属しており、どこへ行くにもソロで不自由しているジェニスタを少し不憫に思い、また会話の面白いジェニスタが来るとレギオンが活気付くのではと思い、勇気を出して彼をレギオンに誘った。マスターにジェニスタを紹介して加入させてもらうと、元々コミュニケーションスキルの高いジェニスタはすぐレギオンに馴染み、他のメンバーとも仲良くなり、一緒にダンジョンに行く機会もチャットも増え、予想通りレギオンは賑やかになった。
その一方で、あまりにも自分がジェニスタといつも一緒に行動してるので、集団行動を重んじるマスターから「ペア狩りはほどほどにしなさい」と注意を受けた。レギオン内でダンジョン攻略のためパーティーに招集されたときも、ジェニスタが不在や不参加だと露骨に機嫌が悪くなり無口になる僕の態度も気に障ったのだろう。この頃から「なんだかこのレギオンは窮屈だ」と感じるようになってきた。
そんなレギオンでの生活は、突然終わりを迎える。
マスターの失踪である。

JA誕生秘話

マスターの消息は今でも不明である。その後聞いた風の噂では、当時のサブマスターと付き合っていて、二人で別ゲーに駆け落ちしたとも言われているが、真偽の程は定かではない。
とにかく、マスターもサブマスも何の連絡もなく急にログインしなくなり、人を増やすことも解散することも出来なくなったレギオンは空中分解待ったなしの状態になった。ログインするメンバーも日に日に少なくなり、脱退も相次いだ。
ジェニスタは「あーこのレギオンもうダメだわ」と早々に見切りをつけ、「ホル、レギオンを出るぞ」と自分の手を引いて、共に脱退することになった。

突然無所属になり、これからどうしようと途方に暮れていると、ジェニスタは「自分達のレギオンを作ろう」と提案してきた。誰にも指図されず、それぞれが自分のプレイスタイルで好きなことを出来るレギオン。僕はジェニスタを全面的に信頼しており、彼の行くところなら地獄の底までも付き合うと約束していたので、その提案に乗ることにした。メンバー集めやら運営やらどうするのか少し不安はあったけど、彼についていけば大丈夫だという安心感はあった。

レギオンを設立する時、名前どうしよ?となり、ジェニスタは採集の好きな自分に配慮して「JA」はどうか?と勧めてくれた。文字通り農協である。当時、対人戦や狩りに特化したレギオンは腐るほどあったけど、農協みたいな変わったレギオンがあっても面白いのではないか。彼のユーモアセンスが込められた名前をつけられ、JAという船はたった2人で出航した。

名前が決まると、マスターになったジェニスタはすぐにメンバー募集を開始した。本当にこの間までソロで細々と遊んでいたプレイヤーなのかと疑うほど彼は精力的に動き回り、人を集め、加入した人に優しい言葉をかけ、マスターなのに決して驕り高ぶることなく目線を合わせて会話し、あれをしよう、ここに行ってみよう、どこか行きたいところはないかい?と、メンバーひとりひとりに声をかけて回った。彼の尽力により、JAには一人、また一人と次々に人が集まり、なんだか面白そうなレギオンがあると噂を聞きつけた人がまた加入して、次第に賑やかなレギオンになっていった。

ジェニスタという男

ジェニスタには人を惹きつけて止まない、カリスマのようなものがあった。
普段はトボけたひょうきんな言動でポンコツを装いながらも、きっちりとマスターの仕事はしており、彼の口から紡がれるチャットには、いつもメンバー一人一人への愛情がにじみ出ていた。彼と会話した人間はほぼ例外なく彼に惹かれ、この男についていきたいと思う、そんな求心力のある不思議な男だった。

ジェニスタをマスターに頂くJAで過ごした時間は、まさしく自分のオンラインゲーム史に於いて黄金時代だった。ログインするとログアウトするまでくだらない話で腹がよじれるほど大笑いし、賑やかなチャットログをBGMに自分の好きな採集をさせてもらえる。彼はメンバーのどんなプレイスタイルも否定せず受け入れてきたので、JAには採集や製作が得意な人、対人やPK(プレイヤーキル)大好きな人、絵が上手い人やモブ狩りが得意な人など、個性豊かなメンバーが集まり、その誰もがジェニスタにならって、自分と異なるプレイスタイルの人を否定することなく、各自が自分の好きなこと、得意なことに精を出していた。
ときにはジェニスタとペアを組んで、やったことのない奇襲に挑戦したこともあった。僕はシャドウウイングという短剣使い、ジェニスタはボウウイングと呼ばれる弓使いで、どちらもハイドと呼ばれる姿を消すスキルで静かに接近して敵を暗殺する奇襲職だった。敵対種族のプレイヤーを見つけて二人で静かに忍び寄り、一気に仕留めようと試みたが、相手が上手で二人とも返り討ちに遭ってしまう。仲良死して瀕死で復活拠点に戻されたときには、収まらないドキドキと失敗したときの滑稽な死に様に二人で爆笑したものだ。

こうしてジェニスタを中心に活発に動き回り、次第に大きくなったJAは、いつしか要塞戦と呼ばれる大規模戦闘に協力してほしいとお声がかかるようになった。ジェニスタはJA内で有志を募って要塞戦に参戦し、拠点を封鎖するなど勇猛果敢に戦った。

当時、それなりに対人戦闘をしていたジェニスタは将校という階級で、将校は死亡するとログがエリア内に流れる仕様だった。が、彼は少しポンコツなところがあり、ときどき飛行中に転落死しては死亡ログをエリアに垂れ流し笑い者になっていた。

僕はそんな完璧ではない、人間くさいジェニスタが好きだった。一方で完全無欠ではないのに、この男についていけば絶対に大丈夫だという、不思議な安心感もあった。当時の自分にとって、ジェニスタの存在は全てであり、僕は彼のいるアイオンというオンラインゲームと、彼が作ったJAという居場所が恋しくて、一分一秒でも早くログインするために、全力で仕事を終わらせ帰宅した。「ジェニスタがログインしました」という通知が流れると、一気にテンションが上りすぐ彼のところへ飛んでいった。異性愛でもなく、同性愛でもなく、ジェニスタという人間に惚れていたのである。きっと彼の中の人が男性だろうと女性だろうと、僕はジェニスタに惚れていただろう。彼にもしものことがあれば、目玉でも腕でもくれてやるつもりだった。

「ジェニスタさんを尊敬していたんですね」とよく言われるが、おそらく自分はジェニスタを尊敬していたのではなく、崇拝していたのだと思う。個人崇拝というのはとても危険な傾向だが、当時の僕は精神面をほぼ100%ジェニスタに依存していた。彼のいない世界など考えられなかったのである。

突然の別れ

ある日、いつものようにふわふわと背中の羽根で飛び回りながら、オードと呼ばれる製作材料を採集していると、突然ジェニスタと数名のメンバーからPTに招待された。何事かと聞くと、内密で大事な話がしたいらしい。

「俺さ、結婚することになったよ」

「だからオンラインゲームを引退しようとおもって」

ジェニスタの口から飛び出した言葉に、僕はしばらく頭が真っ白になった。ようやく絞り出したのは

「そうか、おめでとう。ジェニスタのお嫁さんになるその子は幸せ者だな」

という、当たり障りのない陳腐な言葉だった。

永久に続く時間などないのだ。ジェニスタも人の子だから、いつかは家庭を持つこともあるだろうし、この世界を去る日が来る。それを止める資格など誰にもない。分かりきったことなのに、僕の思考はぐるぐると周り続け、「行かないでくれ」とも「無責任だ」とも言えず、そこから先の言葉は出てこなかった。

沈黙してしまった自分に、ジェニスタと他のメンバーがかけた言葉がさらに追い打ちをかけた。JAはジェニスタの脱退によりマスター不在になるから、自分が後を継いでマスターになって欲しいというのだ。

無理だ。絶対に無理だ。
そもそも自分はリーダーなんてやったこともないし、そんな器じゃない。今までJAがうまくやってきたのは、ジェニスタという柱が存在していたからであり、自分はずっとその背中に守られて育ってきた。ジェニスタのようなカリスマもなく、他のみんなのようにこれといった才能もないのに、突然リーダーの責務を一人で全部背負ってみんなを守っていかなきゃいけないなんて、出来るわけがない。

渡された責任の重さに耐えられず断ろうかと思ったけど、他に適任者がいないこと、ここで誰かがマスターをやらないと、JAは前のレギオンのように瓦解してしまうことを告げられ、これからは今PTにいるメンバーが支えるから、とりあえずマスターをやってほしいと頼まれた。

人は臆病な生き物で、未知の経験はやってもないうちから「出来ない」と決めつけてしまう。ジェニスタも自分の気の小ささをよくわかっていたから、JAの中でも比較的活動的で信頼に値するメンバーを数人連れてきて、サポートさせると申し出たのだろう。

引けなくなった僕は、とりあえずマスターを引き受けるけど、あまりにも自分は頼りないから他のメンバーの力を貸してほしい、もし運営に失敗して解散になっても責任は取れないと念を押した。ジェニスタは「ホルに任せれば安心だ。これで安心して引退できる」と笑ってくれたけど、一体何がどう安心なのかその時の僕はさっぱりわからなかった。一番頼りない人間にマスターを任せようとするジェニスタの人選と正気を疑った。
他のメンバーが動揺するから、引退する日までこの件は伏せて欲しいと頼まれ、僕は数日モヤモヤとした日々を過ごすことになった。

海辺のポスト

ある朝、用事があったので早朝にログインすると、ポストにメールが届いている通知が表示されていた。
近くにあった海辺のポストに向かうと、届いていた手紙はジェニスタからのものだった。

開封した手紙には、「もうログインすることはないから、これが最後の手紙になる。これからはお星様になってホルを見守ってるから元気でな☆ミ」という旨の文章が、いつものくだけた口調で書かれていた。

午前6時。誰もログインしていない、海辺のポストの前で、僕は声を押し殺して一人で泣いた。人間の体からはこんなに大量の水分が出るのかと驚かされるほど、ぬぐってもぬぐっても涙が止まらなかった。もう会うことも、話すこともできない。その寂しさ、悲しさが僕を打ちのめし、脱水症状になるのではと思うくらい、僕はモニターの前で泣き続けた。

ジェニスタのいない日

翌日、ジェニスタが引退してもうログインしないことをJAのメンバーに告げると、さすがにメンバーに動揺が走った。これからJAはどうなるのか。次のマスターは誰がなるのか、メンバー全員が不安を口にした。

とりあえずみんなを安心させなきゃいけない。僕はジェニスタに事前に頼まれ、JAのマスターを引き受けると宣言した。

そこから先の数年間の出来事は、あまりに必死&怒涛の日々でよく覚えていない。とにかくジェニスタから託されたJAを守らないといけない。今までやったことなかったメンバー募集を、生まれて初めてやった。
新しく来てくれた人もいれば、合わないと去ってしまった人もいる。
VC利用やライト勢とガチ勢とのプレイスタルの違をめぐって分裂したこともあった。
世代交代のためにマスターを移譲したら、重荷に耐えきれず脱退してしまった人もいた。
成功したところと同じくらい、たくさん失敗もした。それらの失敗はジェニスタのようなカリスマの無い自分の責任かもしれないけど、そもそも僕はジェニスタにはなれないので、そんなこといちいち気にしていられない。ジェニスタから受け継いだJAの良いところは残しつつ、自分なりにJAをどんなレギオンにしたいのか必死になって考え、作り続けた。嵐のような数年だった。

●あらゆるプレイスタルの人を受け入れ、そのプレイスタイルを決して否定しないこと。
●かつてのチャットが賑やかな黄金時代のJAの風情を保つため、メンバー内のVC利用を固く禁止する
●イン・アウト時に可能な限り挨拶をすること

いろいろ考えて、この3つを基本方針として、僕はマスターとしてJAを運営してきた。
加えて、マスターもプレイヤーの一人なので、他のメンバー同様にマスターも日々自由気ままに好きなことをすることにした。メンバーを強制的に動員するようなイベントは極力せず、プールサイドのライフセイバーのように、遊んでいるメンバーをただ見守り、何かで詰んでる人がいないか、困ってる人がいないかを見守る観察者に徹する。
基本的にマスター自身は普段は何もしない。動くのは緊急時だけという、なんとも後ろ向きな運営だが、これが功を奏したのか、JAという集団は細く、長く続いている。マスター不在でもメンバー達が勝手に動いて楽しく遊び続ける、自律走行型ギルドが僕の目指すJAである。

マスターひとりがやりたいことも我慢して頑張り続け、マスターがいないと何もできず瓦解していくギルドをたくさん見てきた。世のマスター様は少し肩の力を抜いて、見守りに徹しながら好きなことをするといいかもしれない。結局人間は楽しいことしか続けられない生き物なのだから。

そして現在へ

その後、アイオンが運営方針の悪化により過疎ったため、僕は見切りをつけてアイオンを去ったが、ArcheAge、PSO2、FF14、どこのゲームに移住しても、かつてジェニスタが掲げた旗を掲げてJAを立ち上げ、仲間を募って維持してきた。ありがたいことに今はFF14というゲームでたくさんの良い仲間達に恵まれ、新生したJAで第二の黄金時代を過ごさせてもらっている。

もう会うことはないと思うけど、もしこの先ジェニスタがフラリと自分の前に帰ってきたらどうしようかと最近考える。
突然去った悲しみと怒りを込めて、まずは一発、力いっぱい殴りつけてからこう言いたい。

「相棒。お前の作ったJAは、まだ大切に預かってるぞ。お前のようにはなれなかったけど、自分は良いマスターになれただろうか」

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