広告写真の事をちょっとだけ

 誘われた新規事業とは、いわゆる観光写真だ。

とはいっても、観光地で記念写真を撮るといった写真館的な業務ではなく、観光地そのものをPRするいわば広告写真の一種だ。

 広告分野の写真撮影のことを業界ではコマーシャルフォトと呼ぶ。商品や商品を着せたモデルを撮ったり、料理を撮ったり建物を撮ったりと、コマーシャルフォトがカバーする分野は結構広い。販売促進、略して販促のための印刷物やWeb向けの撮影は概ねコマーシャルフォトといっていいと思う。

 ただ、販促のためとはいえ雑誌の紹介記事や観光地の紹介パンフレットなどはちょっと分野が異なる。特に雑誌系は記事部門と広告部門では業態が異なり、一種独特の雰囲気がある。

 またコマーシャルフォトの中でも被写体によって業界が細分化されており、ジュエリーならジュエリー、コスメならコスメ、アパレルならアパレルと、それぞれに特化したカメラマンがひしめいている。ファッションではモデルの性別によってカメラマンが分かれていた時代もあったそうだ。

 都会であればこういった細分化された専門分野のひとつ”だけ”で仕事をする必要がある。なんでも撮れます...では仕事が来ない。お金を出す側にしてみれば、お金を払う以上はそれ専門の人に任せたいし、広告代理店やアートディレクターにしてもスムーズに仕事を進めるために、更には失敗する可能性をできる限り低くするために、その仕事に慣れた人に任せたいのは当然だ。

 これが地方になると事情が変わる。ジュエリーしか撮りません、アパレルしかやりませんでは仕事にならない。そもそも案件の数が都会と地方では雲泥の差があるのだ。地方ではなんでもそこそこ上手く撮れると重宝してもらえる写真屋になれる。

 私が修業でお世話になったスタジオもそんな仕事の形態だった。ロケもやれば商品撮影もするし、撮る商品も選ばない。ジュエリー、古美術、様々な工業製品、料理も撮るし車やファッションのロケ、会社案内や観光案内も。シーズンになれば卒業・入学の記念写真や七五三、産婦人科医院と契約してベビーフォトや結婚式関連までカバーしていた。

 今回誘われたのは観光写真だがパンフレットや雑誌向けではなく、ポスターや映像企画のスチール担当だという。対象は京都で寺社仏閣専門。JR東海やJR関西をクライアントに持つ広告代理店の撮影チームに加わる事になっているんだそうだ。地方のなんでも屋カメラマンにはまぶしすぎる仕事だ。