職人の技

 看板の業界には「貼り職人」と呼ばれる人たちがいる。シートを貼る専門の人たちだ。なんどかその技を見る機会があったが、それは予想以上のハイレベルなテクニックだった。

 まず曲面にシートを貼る技。かなりの高難易度だ。平らな面に貼ってもシワや気泡が入りやすいシートを、シワも気泡もいれず曲面に貼るのだ。バスや鉄道車両、企業の看板車などをラッピングするためにシートを貼るのもこの人達。シートだけで無く、大型プリンターで出力した印刷シートも貼る。印刷シートで広い面をカバーするには必ず継ぎ目が入るが、絵柄がずれない様に貼るのは難易度がさらに高い。車両なら表面にパネルの切れ目が必ずあるが、こういった場所のエッジ処理も必要だ。イラストレーター上で車両の側面図にレイアウトを施し、デザインを仕上げるが、画面で作ったものが実車にそのまま再現されているのを見るとなんとも不思議な感じがする。その様になるように作ったとはいえ、印刷物の仕上がりとは全く違う感激がある。そのデザイン通りに貼るのが非常に難しい。

 さらにすごいことに、平面のシートを球体にも貼ってしまうのだ。シワも入れず、過度に伸ばしもせず、1m幅の平らなシートで直径50cmほどの球体をきれいに覆ってしまう。そして作業の早さにも驚く。ステンレスむき出しだった球体オブジェが、あっというまにカラフルな球体に変わった。ある警備会社のパトロールカーを3色のシートでラッピングする仕事があり、35台の普通車を3日ほどで終わらせてしまった人もいた。

 大きな現場ではこういった貼り職人が複数人入り、あれよあれよと言う間に現場を仕上げていく。その光景をタイムラプスで撮ったら面白い映像になると思う。そして貼り職人のギャラはちょっとお高い。ギャラのことを人工(にんく)というが、土木系や躯体工事の職人さんの人工よりだいぶ高い。人工は1日単位なことが多い。だからこそ速さを求められるし、速いから他より高い人工の職人さんもいる。腕一本で現場を渡り歩く、まさに職人だ。