続・なまたまご

 あれっきりSさんが会社に姿を見せなくなって2週間。たまごのポスターのことをすっかり忘れていた頃にSさん登場。

「撮ってみたんだけどさ、難しいね。5パックダメにして諦めた。もったいないから卵ばっかり食べてるよ」

2パック買い足したらしい。延々と卵60個トライしてたのか。

「僕には無理だからM君撮って。あとは任せるから」

私だって無理だ。だから仕掛けを考えた。黒い板を斜めに立て、そこに生卵を流す様に落とす。あらかじめ器に卵を割っておいて、何度か試して白身の量を調整したらうまくいくかもしれない。かなり照射範囲を絞ったピンライトを作ってセットを組んでみた。すぐに結果が知りたいので、当時まだ珍しかったデジタルカメラを使っての撮影だ。

 2回ほど卵を流し、板の角度と卵の量、シャッターを切るタイミングを測る。3回目でどうにか形になってきた。もう少し詰めれば狙った形になりそうだ.....と思ったら3回目のカットでSさんからOKが出た。これでいいの?その後合成用の殻を持った手を別撮りして1カット終了。手タレは手の綺麗なKさんだ。

「とりあえずいいのが撮れたから、今度は最初の予定通り割った卵を落として撮ってみて」と無理を言うSさん。卵の量と形とタイミングがいい具合になるのは偶然に近い確率だと思うのだけど、どうしてもやってみたい様だ。

 手の位置が安定する様にちょっとした台を作り、閃光時間が短くなる様ストロボの光量をなるべく絞って撮ってみる。やっぱりタイミングがかなり難しい。それでも2回目に、落下中の卵がちょうどいい位置にある状態で撮影できた。タイミングが少し分かったのでさあもう一度、と思ったらまたこれでOKとのこと。5パックどころかまだ卵5個しか撮ってない。卵はなんだかわからない形してるし、白身がやたら多く見える。ポスター自体に根本的な問題があるのは置いておいて、1カット目、2カット目とも、とても完成品とは呼べない代物だ。あとで写真を頂戴、と言ってSさんはさっさと帰ってしまった。

 結局、その後画像データをどこかに出すわけでもなく、ポスターを作るわけでも無いままそれっきりになってしまった。考えてみればこれがこの会社の初の撮影仕事だったわけだけど、なんともすっきりしない結果になった。