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カザフスタンで起こっていること、そして、ナザルバエフ「前」大統領

カザフスタンのデモが大変なことになっています。燃料費高騰をきっかけに政府に不満を持ってた人たちがデモを行い暴徒化。ナザルバエフ前大統領を糾弾。治安当局が出動発砲して、死者が160人以上、逮捕者が5800人にも上っています。

デモが暴徒化した違和感

なぜデモが暴徒化したか、暴徒の目的は何か、西側の報道は「ナザルバエフ独裁」を強調しすぎやしないか、違和感がありました。

でも、1月8日に、国家保安委員会委員長を「国家反逆罪」で逮捕したことで、なんとなく見えてきたような気がします。現政府は、「どこかの国」をバックにつけた国家保安委員会委員長による「クーデター」と見なしているのでしょう。実際、1月9日、拘束者5800人のうち「相当数の外国人」が含まれると発表しました。

経緯については、この記事がよくまとまっています。

ナザルバエフの銅像が倒される?

現在のデモ参加者らの怒りの大部分は、ヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領に向けられているとみられる。ナザルバエフ氏は退任後も、安全保障会議の議長として権力を握り続けてきた。同氏は5日、混乱の鎮静化のため議長を解任された。
デモ参加者らは、ナザルバエフ氏の名前を唱えていた。人々は同氏の巨大銅像を引き倒そうとし、その様子を撮影した動画はオンラインで拡散された。BBCモニタリングはこの銅像につて、ナザルバエフ氏の地元に立っていたものとみられるとしている。

このへんのパフォーマンスは、明らかに西側向けだと思いますよ。ソ連崩壊のとき、KGBの創始者の銅像が倒された裏側には、「アメリカ大使館によるクレーンの貸し出し」がありましたし。

ナザルバエフ元大統領とは

なんとなく西側の報道に、あるバイアスがかかっているような気がします。ですので、ちょっとナザルバエフの国際的な実力をご紹介したいと思います。

ナザルバエフは独立当初からのカザフスタン大統領でした。1991年のソ連崩壊に伴い独立、その受け皿のCIS(独立国家共同体)に参加します。そのとき「おや?」と思ったのがカザフスタンの動き。5共和国の意見をとりまとめてCISに参加、初めての首脳会談をカザフスタンで開きました。「中央アジアはスラブの国に取り込まれないぞ」という強い意志を感じました。

カザフスタンはロシア・中国に囲まれ、気を抜くと両国に飲みこまれてしまいます。そこで、ナザルバエフ元大統領は欧米を盾に使ったり、中央アジアの団結のリーダーシップを取ったり、とにかくカザフスタンという新しい国を守ることができる実力者でした。

どさくさ紛れに核実験場を閉鎖した

ナザルバエフの偉大な功績は、「セミパラチンスク核実験場」閉鎖したことです。1991年8月クーデターに揺れている8月28日、あっという間のことでした。

カザフスタンはソ連=ロシアから勝手に裏庭扱いされていました。広い草原や砂漠があったので、まるでゴミ箱のように核実験が行われていたのです。450回以上も。

周辺の人々は、核実験が行われていることを知らされず、知らぬうちに100万人以上もの人々が被爆し、平均寿命が著しく低くなり、先天性異常を持った人が数多く生まれたのでした。

ソ連崩壊の1年ほど前から、市民の間で閉鎖を求める運動が高まっていました。そして、クーデターのどさくさ紛れにナザルバエフが閉鎖してしまったのでした。これは、カザフスタンにとっても国際社会にとっても、本当にすごいことなのです。

核兵器廃絶の本気

ナザルバエフの核兵器廃絶の取組みはガチです。旧ソ連時代に配備されていた核兵器をあっさり放棄。中央アジア5カ国を「非核兵器地帯」にまとめ上げ、2006年に中央アジア非核地帯条約を締結しました。

2016年に来日、広島で「2045年までに核兵器廃絶」を訴えました。同じ被爆国として、一緒に頑張ろうと。「汚い爆弾」で世界に圧力をかけようとする小国の独裁政権とは大違いです。ナザルバエフ独裁、みたいな論調を見かけたら、ぜひ、このことを思い出してください。

カザフスタン動乱の動き

1月2日、LPG高騰をきっかけに不満を持った人たちが抗議デモを起こし、1月5日、内閣が総辞職、ナザルバエフ元大統領が安全保障会議議長を辞任しました。

しかし、抗議デモが暴徒化。1月6日、アルトマイで抗議行動者らが警察の建物を制圧しようとします。治安部隊が出動し、デモ隊に発砲、数十人が死亡。アルマトイではデモ参加者約2千人が拘束され、治安部隊側も全土で18人が死亡しました。

同日、トカエフ大統領の要請に基づき、ロシア主導の軍事同盟、集団安全保障条約機構(CSTO)は平和維持部隊の派遣を決めました。

*CSTOはロシア、カザフスタン、アルメニア、ベラルーシ、タジキスタン、キルギスタンで構成。議長国はアルメニア。ロシアにとっては対NATO、アルメニアは対アゼルバイジャン、ベラルーシはロシアの金魚の糞。カザフ、タジク、キルギスにとっては中央アジア領域の安全保障の性格があります。「ロシア主導」と言い切るには、ちょっと違和感があります…。

1月7日、トカエフ大統領は、国民向けに「警告なしに射撃するよう命令を出した」と述べ、抗議活動を徹底して抑え込む考えを示しました。

1月8日、情報機関の国家保安委員会が、ナザルバエフ氏の側近、カリム・マシモフ前委員長を「国家反逆罪」で拘束したと発表。さらに、マシモフ氏の元側近で国家保安委員会のマラト・オシポフ副議長とダウレト・エルゴジン副議長を共に解任したと明らかにしました。

追記

1月9日、ナザルバエフが「トカエフ大統領のもとに団結するよう呼びかける」声明を出しました。保身か、事態収拾にイニシアチブを取ろうとしているのか。注目です。

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