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『青の炎』の感想、そして小説が自分の視野に入りだす

 悪の教典が面白かったので、古本屋に行って貴志祐介氏の別の本を買いました。それが青の炎です。
 小説家の名前で調べて買うだなんていうのは僕としてはかなり異例のムーブで、人生で初めてと言ってもよいかもしれません。これまで小説には全く見向きもしなかった人生を送ってきましたが、一つの作品に触れてそれが他の作品を読みたいという気持ちに繋がる、この流れはその人の全ての作品を読むまで止まらないのでしょう。この感覚はどこかで味わった気がします。

 さて、青の炎についてですが、まぁ昔の作品なので遠慮なくネタバレするんですけど、安住の地である自宅に住み着いた、酒に溺れ暴力をちらつかせ女性に手を出すというどうしようもない最低な奴を、家族を守る為に殺すということで、悪の教典と同じ殺人ミステリーなわけですけど、また同じように殺人者が主人公で犯人側視点で進むストーリーなので面白かったです。ただ、殺される側の最低男がなんだかとても僕の親父に似ていたので読むの辛かったっすね。
 ただ、悪の教典のハスミンとは違って自分の利益の為だけにって感じではないので、仕方ないって感じはします。
 僕がこの青の炎という作品を読んで抱いた一番の感想は、『主人公の秀一が17歳なのに賢すぎる』でした。秀一は17歳だというのに殺人のトリックはお見事だし、刑事の尋問での受け答えでもそうだし、ヒロインの紀子との小気味良い恋愛描写といい、明らかに論理的思考力と実行力と度胸とトーク力が20代後半以降のそれ。むしろ20代でも相当イケイケで経験積んできたようなタイプでないと持ち得ない精神力があると思いました。
 作者が17歳を主人公にする時、当然主人公の台詞やモノローグもその17歳に相応しい精神年齢に合わせて語るものでしょうけど、とても17歳のものとは思いませんでした。それはただ単に秀一がそういう天才的な設定なのか、それとも作者がそこまで気にして書いていないのか……はたまた、京大出身である貴志祐介先生にしてみれば17歳の頃であればこれくらいの思考は自然であると自身の学生時代を参考に考えているのか……もしそうなのだとしたら、頭が良い人たちの学生時代というのはすごいものだなと思いました。17歳の頃から、こんなにもクリアな思考回路で日々を過ごし、高い視点で世の中を見て、余裕のある態度で世間とコミュニケーションをとっていたのか、僕にはちょっと想像がつかないですね。僕が17歳の頃なんてマジでなにも考えてなかった。目の前のことしか見えない狭い視野で生きていたのを覚えています。人間とはかくも、同じ見た目をしていて全く違う生き物なのだな…などという感想を、ミステリー小説を読んで抱いてしまったのでした。

 悪の教典もそうですけど青の炎もずいぶんと昔の作品でしたから、今回は地元の古本屋に寄って探していたら偶然110円(税込)で売ってるのを見つけたので買いました。これまで小説って読んでも面白くなくて苦労して読み進めたら頭が爆発しそうになるものってイメージでしたから手を出さずにいましたが、買ってから1〜2日で夢中になってすいすい読んでしまえるということが判ったら、小説コーナーが急に宝の山に見えてくるようになりました。人生で初めてまじまじと小説コーナーを見ていて気付いたんですが、小説は漫画と違って出版社別ではなくて作者別で統一されて出版社はごちゃまぜなんですね。(僕が寄った古本屋だけなのかもしれませんけど)
 やっぱり僕みたいにこの人の本なら読めるこの人の本だけ読みたいっていう探し方になるものなんでしょうね。これってなんだかあれですね、僕がギャルゲー買う時によくやってた、『ライター買い』ですね。デジャビュ感はこれでした。どんな内容であれ、どこのメーカーであれ、好きなシナリオライターであれば「どうせ面白いだろう……」と買ってしまう無条件の信頼。小説は、『ライター買い』が出来るようになっていたんです。これは驚きでしたね。「なにを当たり前のことを」って言われるかもしれませんね。でも今後はライター買いならぬ作者買いで読み漁り、似た作風の人、お勧めされた人なんかでどんどん小説コーナーに立ち寄る機会が増えそう。ようやく自分が見ている世界の視野に小説が入り込んできたような気がします。

 ところで、僕がこれまで小説を読まなかった理由の一つに、『本筋に関係のない無意味な描写を読まされ続けるから』というのがありました。
背景描写というものは当然必要だと思うんですけど、物語とは直接関係がない描写、例えば……ちょっと適当に書きます。

ついに今夜が決行の日だ。本当にやるのかと俺は心の中で自分自身に一度だけ問い、それに対し強く拳を握って応えた。店から出ると人通りは先程より少なくなっていた。カラスが人を全く恐れずにゴミ袋を漁っている。派手な格好をした夜職の女2人が煙草を吸いながら不自然なまでにフルスモークの黒いミニバンに乗り込んでいるのが見えた。
少しだけ空を見上げるとビルの隙間から見える空は白く濁っている。雲の切れ目は全く見えず、雲なのか霞なのかすら分からないほどにどんよりとした空なのに、妙に眩しかった。

適当に考えた背景描写だけどこういう感じでね、今居る街中の描写が続くじゃない?小説って。こういうのを長々と続けられると読むのが辛い。だって、解ってるもの。この後カラスもキャバ嬢もミニバンも物語に登場しないって。本筋に全く関係ないって。カラスが実は監視カメラ内蔵の羽ばたきドローンだったらいいよ?キャバ嬢が大事なところで現れて邪魔をしてくるならいいよ?でも出てこないじゃない。また無駄な文章読まされたなって思っちゃうのよ。空気感とかが大事だから無くせない描写なんだって言う人も多いだろうけどね。僕にとって必要とは思わないだけなのさ。貴志祐介氏の本はあんまり長々とそういうことをしないように感じる。目的に沿って即行動。だから読みやすいのかもしれない。
さて、次は観るのが途中になってた新世界よりの続きを観ますか。

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