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”無敵の人”になる前に

ジョーカーと言う映画をご存じだろうか?バッドマンの悪役であるジョーカーと言うキャラクターがいかにして産まれたのかを描いたドラマであり、内容としては幼いころからの虐待に始まり、働き始めて以降は社会から虐げられ、常に日陰者として生きて来た中年男性がある事件をきっかけに凶悪なジョーカーへと変貌するストーリーである。

この映画が公開される以前より、日本ではジョーカーのような人物像をこう呼んでいた。”無敵の人”だ。社会から拒絶され、公的福祉にも拾い上げて貰えず、歳を重ね未来が良くなる可能性も失った中年男性が犯罪に走るたびにネットには”無敵の人”というワードが飛び交ってきた。失う物が何もないので何でも出来てしまう、無敵の人は人生に絶望しておりやけっぱちになって犯罪に走る。無敵の人が増えれば増えるほど治安は悪化していく。

筆者は以前から生活保護制度賛成派である。何故ならどうしようもなくなった人間に飯は食える生活を国が保証することで、少しでも無敵の人の犯罪行為を減らせると考えているからだ。

ロスジェネへの社会からの心象にトドメを刺したテロリストの山上容疑者が犯行を決意したのも、派遣社員として働いてた工場を首になり、生活費が尽きたタイミングだった。山上容疑者は無駄に高いプライドから生活保護を受給する意思がなかった可能性が高いが、もし親族などから金を工面できていれば、元首相暗殺などという暴挙は寝る前の空想で終わっていたかもしれない。

貧すれば鈍する、ということわざがある。人は貧しい環境に晒されるとまともな思考が出来なくなっていく。くいっぱぐれたZ世代が強盗団として世間を騒がせているのも、ひとえに彼らに金がないからである。もちろん金があっても犯罪に走る産まれついての悪人もいるが、多くの犯罪者は貧困がトリガーになる。

ツイッターで追い詰められたロスジェネ世代からDMやマシュマロで相談を受けることがある。そんなとき、状況によっては生活保護の申請を勧めることがある。もちろん人は働いて社会に参加したほうが精神が安定するし、お金も沢山手に入る。ただあまりに状況が過酷であり、とにかく身体や精神を休めてから、ケースワーカーとともに社会復帰を目指した方が良い場合は、迷うことなく生活保護を申請すべきである。

大切なことは、自分の中のプライドに打ち勝つことだ。男は金や地位や名誉、家族や友人などを失えば失うほど、自分の中のちっぽけなプライドだけがアイデンティティのよりどころとなり、それを捨てて公的福祉を受けることが中々できなくなる。人は生物の本能として安定した生活を手に入れたいという欲求が最も強く、それが満たされてからようやく家族を持ったり組織に属したり、承認や自己実現へ欲求が向かいだす、という有名な言説があるが、実際のところはそうではない。その言説が正しければ、冬は寒風に晒され、夏は灼熱の太陽にあぶられる路上生活者、ホームレスの男性が一目散に市役所に飛び込んで生活の保護を求め命の安全を確保しようとするだろう。しかし多くのホームレス男性はそうしない。なぜなら仕事や住居、家族や友人全てを失ってきた彼らを唯一支えているものが、『社会に尻を拭いて貰わずに自分の力で生きる』というプライドだからだ。自分で自分を承認するために彼らは人の助けを頑なに拒もうとする。ただその先に待っているのは過酷な路上生活で力尽きてしまうか、ささくれ立った精神状態で他者と接しているうちにトラブルになり、犯罪に走ってしまうなどの暗い未来だけである。

ジョーカーや無敵の人を過度に賛美する傾向がネットで見られることがあるが、追い詰められ犯罪に走ってしまった彼らは何を成したというのであろうか?自分の人生が行き詰まったから他者に八つ当たりする様はあまりに幼稚である。社会に怒りを覚えるならそのエネルギーを燃やして成功者を目指し、これまでの人生を取り戻そうと努力すべきだ。犯罪に走る無敵の人は何もかも投げて拗ねているだけに見える。成人した男性が他責思考に取りつかれる様はあまりに見ていられない。やけっぱちで他人を傷つけるジョーカー気取りの男よりも、恥の気持ちをこらえて生活保護を申請し、精神や身体を回復させてから社会復帰を目指す男の方がよほど立派である。

ただ残念ながら、生活保護制度が今後も維持されたとしても、無敵の人が起こす事件は増えるのではないか、と感じている。世間ではロスジェネ世代がその中心になると語られることが多いが、おそらく無敵の人の問題はロスジェネ世代だけにとどまらないだろう。それは何故か?

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