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無能風有能おじさん

窓際承認欲求おじさんが目の敵にする”無能風有能おじさん”をご存知だろうか?

無能風有能おじさんはいつもニコニコしながら朝早めに出勤し、コーヒーメーカーをセットしてマグカップにコーヒーを入れ一服し、メールチェックをしながら次々出勤してくる社員と笑顔で挨拶を交わす。会社の上役や部下、他部署の人間との関係も良好で下請け業者、得意先にも覚えがよい。そのため、無風おじは会議室や喫煙所で、内線や携帯電話で常に誰かと様々な話をしている。

ただ仕事そのものへのモチベーションはそこまで高くなく、多数が参加する会議などではほとんど発言することはない。ただ上から降ってくる指示に黙って従うだけである。特別な資格や語学力、学歴があるわけでもない。夜遅くまで残業することも少なく、喫煙所で無駄な長話したり、空き時間にサボっていることも多い。

一見するとコミュ力が高いだけで仕事はできないしやる気もない、JTCによくいる無能の中年に見える無風おじを苛立ちと羨望の眼差しで見ている男たちがいる。夜遅くまで独りで穴を掘って埋めるような雑務に励むも社内でちょっと浮いている窓際承認欲求おじさんである。彼らはまだ嫌と言えない新人にありがた迷惑な指導をしながら無風おじを指して『会社が伸び悩んでいる元凶の一人』と力説する。

『あいつはゴマスリが上手いだけで出世している。手を動かさずに口ばかり動かしている。現場のルールを何も知らない』

承おじは現場消耗品の最小在庫数などのルールは誰よりも把握しているが、社会や組織のルールを把握できてない。それに対して無風おじは現場出荷物のラベルの種類は知らないも知れないが、社会、組織のルールをしっかりと把握している。そして組織で信頼されるポジションに就く社員とはどんな社員なのか?を理解して実践しているのだ。

たしかに無風おじたちは、自分の直接的な働きで会社に大きな利益を与えているわけではない。しかし無風おじたちは直接的な金銭よりももっと大切なもの、上役たちが一番欲しいものを会社に与えているのだ。それが『安心感』と『安定感』である。

「こいつに頼めば丸く穏便にやってくれそう」という『安心感』と、「こいつなら毎回きっちり仕事をこなしてくれそう」という『安定感』。常に不安とストレスにさらされる会社の部長以上の上役たちにとって、安心して任せられる部下というのは心のオアシスである。彼らが求めるのはホームランを30発かっ飛ばすバッターではない。自分の指示に従い犠打、進塁打、エンドランをきっちり決めてくれる無難な打者なのだ。

もちろん上役たちは出来る社員が欲しいと常々口にするが、心では仕事はそれなりの従順な部下を常に求めている。仕事はできるが自分たちの指示や方針に意見したり噛みついてくるスーパー社員より、どんな指示にも笑顔で「いいですね!やりましょう!」と即答してくれるコミュ力が高くて空気が読めるノーマル社員の方が可愛いのだ。もちろん最低限の業務能力は持っていることが前提にはなるが。

そして出来ることならそういうコミュ力が高い社員にクセの強い社員を上手くコントロールして欲しいと願っている。承おじはもちろん、中小企業の現場には趣味は休日の公園シャドーボクシングと武道のYoutubeを見てイメトレすることです!という中年独身シャドーボクシングおじさんが何人もいたりする。彼らを上手くなだめて褒めて時には煽って仕事を回してくれる。そう言う役割を求められるのが無風おじたちたのである。

仕事の出来不出来よりも、コミュ力や人当たりが重視されるのは同僚や部下との関係においても同様である。一昔前に隆盛した”初期なろう小説”などでは強大な力を持った主人公が問題をどんどん解決し、多くの仲間に慕われる描写が多くみられるが、あれは実は順序が逆である。

多くの仲間に慕われる人格者であり高いコミュ力があるからこそ、仲間が集まりチームワークをもって問題に対処することができトラブルをどんどん解決できるのである。人間が1人で出来ることなどたかがしているのだ。なろう小説は煩わしいコミュニケーションを省いて独りで全部こなしたい!という陰キャのファンタジーに過ぎない。

窓際承認欲求おじさんがいつまで頑張っても出世できないのも、仕事や組織はチームワークが第一であることを理解できていないからだ。承おじが頑張って現場を掃除して綺麗に保ったり、部材を早め早めに発注して在庫を切らさないことも立派な仕事、会社への貢献ではあるのだが、自分が業務をすることに囚われているかぎり、窓際からオフィスの真ん中にある島に加わることは難しい。

同僚や部下にとって無風おじはとてもやりやすい存在である。仕事は真面目だが変に熱いところもなく無理難題を押し付けてくることもない。休憩時間や空いた時間に『お前は5年後どうしたい?』などと突然のどしおじ問答を仕掛けてくることもないし、不機嫌オーラを出してボールペンカチカチ鳴らして圧をまわりにかけることもない。パワハラなんてどこ吹く風、部下の会社への不満を喫煙所でうんうんと聞き、血の気の荒いロスジェネ窓際おじさんと生意気なZ世代がぶつかるのをなだめてトラブルを未然に防ぐ。出張帰りにはみんなにお土産のシュークリームやご当地お菓子を欠かさない。昔は新人に丸投げされていた飲み会のセッティングまでばっちりこなしコンプライアンス対策も完璧だ。

使い古された言葉であるが無風おじは組織の主力エンジンとしての能力はないが組織の歯車をスムーズにまわす組織の潤滑油としてなくてはならない存在を担っているのである。

無風おじは、中小企業のみならず大手企業にも多く存在し重宝されている。大手企業では沢山の社員を毎年採用するため、厳しい面接を行いふるいにかけたとしても、どうしてもやっかいでややこしい社員が毎年何名か入社してしまうことになる。そういった社員たちを上手くコントロールし戦力として使いこなせる無風おじさんは大手JTCでも高く評価される。

無風おじが不足している会社の場合、様々な部署の扱いにくいおっさんたちを引き取ることになり、さながら姥捨て部署の様相を呈することがある。そのような部署で無風おじさんが長期出張に出るとだいたい社員同士のトラブルが発生するので外から見ていると笑ってしまう。無風おじさんがいかに日々ややこしい社員たちを上手く制御しているのかを感じざるを得ない。

無風おじの真逆の存在も存在する。それが”有能なのにイマイチ出世しきれないおじさん”である。

彼らは仕事はバリバリできるがその分我も強く周りと摩擦を起こしがちなタイプのビジネスマンである。彼らは会社に利益をもたらしてくれる必要な戦力ではあるものの、上から見ると不安でたまらないタイプでもあるのだ。『優秀だけど他部署や関連会社と揉めそうだな』『部下にパワハラしそうだな』『条件良い会社見つかれば仕事放り出して即転職決めそうだな』と思われてしまっては、せっかくの高い能力も中々額面通りに上司たちに評価して貰えない。

上役たちは有能だけど出世しきれないおじさん達の高い能力は十二分に認めつつも、『不安感』と『警戒心』を抱いてしまい、なかなか昇進のハンコを押せないのだ。不機嫌オーラバトルを仕掛けるタイプの場合は特に絶望的である。そういうおじさんはずっと平社員のまま歳を重ね、最終的にはオーラロード(転職サイト)を通って別の会社に転職していくことが多い。

もちろん能力が社内で突出して高ければ、年と共に課長クラス辺りまでなら出世することもあるが、その場合は『お前はどうしたいのおじさん』にクラスアップすることが多く、部下になる人は苦労をすることが多い。課長など役職を持てばこれまで以上に他部署との協力や部下同僚たちとのコミュニケーションを求められる機会が増える。イケイケどんどんだけではどこかで摩擦が起き争いの火だねが上がってしまうだろう。コンプライアンスが叫ばれる時代、部下との接し方は時に問題になりやすい。

無能風有能役職おじさんは特殊な技能を持たない凡夫でも目指すことが出来るポジションであり、そこに収まるコツを掴むことが出来れば出世もしやすくなり、40年を超えるサラリーマン人生を豊かにすることが出来る。またビジネスマンとして相手に『安心感』と『安定感』を与えられることは、自営業者、フリーランスで働く人間にとってはサラリーマン以上に必要な能力となってくる。

それでは具体的にどのような心掛けをすれば『安心感』と『安定感』を相手に与えることが出来るのであろうか?

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