見出し画像

ド田舎デカ工場の現実

今、熊本が熱い

2021年に世界最高峰の台湾半導体メーカーTSMCの工場建設が決定、以前よりソニー半導体工場など数多くの半導体メーカーの大規模工場を抱える熊本県は、TSMC工場の進出により日本のシリコンバレーとして輝ける未来が約束されることとなった。

大手企業の巨大な工場が並ぶセミコンテクノパークでは多くの人間が働いており、2021年の新規採用数は工場全体でなんと2000人以上、さらにTSMC工場が稼働し、第二工場も建設される2023年~2031年にかけては3000人以上の採用を予定しているとのことだ。不景気が叫ばれる日本でこれほど景気の良い話が飛び交う地域は東京以外では他にないだろう。大阪もこのぐらい景気の良い話が聞きたいものだ。

需要が多ければ価格は上がる。資本主義社会の法則に従って熊本の半導体工場の初任給は右肩上がりだ。特にTSMC工場は有能な人材を多く確保するため、”大卒初任給28万円”という他社より5万以上多い給与設定を行っている。他社もそれに対抗するため初任給引き上げを検討しているとのことだ。

工場誘致に伴い土地の価格も急騰、さらに製造した半導体をスムーズに出荷輸出するための道路整備、熊本空港から広がる鉄道整備、従業員が居住するためのマンションや彼らが利用する娯楽施設なども急ピッチで開発が進んでいる。

このように熊本はまさにこれから半導体バブルが訪れようとしている。ろくな仕事がなく、街は高齢者ばかり。マイノリティとなってしまった地元の若者たちは、介護施設や整骨院など高齢者の社会保障費にぶら下がる仕事にしがみ付き何とか口に糊している。そんな絶望的状況の地方郊外都市からみれば、半導体バブルに湧く熊本は羨望の的だ。

しかしそんな熊本県である問題が発生している。それが人手不足だ。TSMCを筆頭に十二分な初任給を設定し工場で働く若者をリクルートしているにもかかわらず、工場でフォークリフトを運転してくれる若者の数が圧倒的に足りていないのだ。試算では2023年以降に3000人の求人に対し、実際に採用できる数は2000人程度、つまり毎年1000人の人手不足が発生してしまうと予想されている。

大手企業が十分な初任給を提示しているのになぜ?そう思う人は多いだろう。しかし実はこの現象は製造業界あるあるなのだ。なぜ大手企業の大規模工場に人手が集まらないのか?その理由は一つだ。大手の巨大工場ほど、辺り一面どこをみても山と森と田んぼしかないド田舎に建設されるからである。そう若者はド田舎に就職したがらないのだ。都会に出て楽しい大学生ライフをエンジョイしてきた大卒なら尚更である。

何故田舎になってしまうのかであるが、まず法的に住宅街の近くなどに大規模な工場は建設不可能だ。建てられるのは工業地域や工業専用地域のみである。住宅街に併設された町工場を目にすることがあるかもしれないが、あれは規模が小さな工場だから許されているだけだ。さらに大規模工場は広大な敷地を必要とし、莫大な電力や半導体工場であれば水なども大量に消費する。これらが安価に手に入る田舎にしか大規模工場は建設出来ないのだ。

かくしてド田舎に建設された工場では日夜現場で働く人材を募集しているが、どこも中々思うようにリクルートできていないのが現状だ。そのため、まだ大都市部に比較的近い工場の人員が、半径50㎞県内に”街”と呼べる場所がないような僻地工場へ転勤、出向になるケースが後を絶たない。

筆者は製造業界に長年勤めているため、ド田舎デカ工場に飛ばされたた仲間から様々な『ド田舎デカ工場の現実』の話を聞いてきた。ド田舎デカ工場にも当然グラデーションがあり、それに照らし合わせてみれば今回人手不足に苦しむ熊本工場が就職先として”アリ”なのか”ナシ”なのかも判断することができる。これから紹介する3つのド田舎デカ工場を例に熊本工場の立地についてみていこうと思う。

ここから先は

1,146字

¥ 250

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

サポート頂けるとnote更新の励みになります!いつもサポートしてくださっている皆様には大変感謝しています。頑張っていきますので、どうかよろしくお願いいたします!