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#8 介護を手放す(3)~脳神経外科デビュー

「認知症かもしれない母」を「認知症かどうか診断してもらうための病院」に連れ出すだけでも、一大プロジェクト化していました。病院が嫌いな人を病院に連れて行くのは本当に大変です。仕事の方が何倍マシだと思ったことか。


#6の記事で、かかりつけの内科医から、母の脳神経外科受診を勧められました。先送りしたい気持ちをおさえ、近隣の脳神経外科に連れていくことにしましたが、これがまた大変。思い出すだけでも胃がキリキリします。

脳神経外科はどこにする?

とりあえず「脳神経外科」で検索すると、近隣で車で行きやすい脳神経外科を見つけました。病院のホームページだけでは、よい病院かわからないものの、院内でMRI検査もできる病院とのことで、こちらに決定。初診でもインターネットで診察予約ができる病院が増えていてありがたいものです。

ちなみに、医療とつながりやすい環境にいらっしゃる方、ママ友も含めたネットワークをしっかりお持ちの方は、きっとこんな悩みはないのかもしれませんね。

わたしは、もともと一人が大好きで、人とずっと一緒にいると疲れがちなタイプ。ママ友もわずかだけれどいなくはないし、学生時代のつながりを使えば医師の知り合いも確実にたどり着ける。でも、この時はとにかく気が乗らず、誰にも頼りませんでした。自分のこの性質が、今回の介護の場面でもちょっとだけマイナスに働いてしまったと今は反省しています。

さて、予約した後、病院に行くまでの重大ミッションは2つ。
①母が体調が悪くならないように気を配ること
②病院嫌いの母をうまく連れ出すこと
特に②を考えるだけで、憂鬱でした。

病院にいきたがらない母に、下手な作戦で挑み撃沈

母は、感情の起伏がそれなりに大きい人。今思えば、認知症の影響もあったのでしょう。急に機嫌が悪くなったり、イライラしていたりすることもありました。そのため、脳神経外科に行くミッションは極めて慎重にすすめなければいけませんでした。

作戦①:カレンダーに書き込む(見える化作戦)
作戦②:内科医の先生から言われたことを日常会話に織り込む(刷り込み作戦)
作戦③:病院に行く前日、当日の雰囲気作り(「病院に行こう」の寸劇作戦)

作戦①:「そうそう、〇月〇日、脳神経外科の予約したね。念のため書いておくね」と言いながら、母の部屋の壁掛けカレンダーにサインペンで大きく書き込む。

作戦②:病院に行く日まで、1週間に1回ぐらい「そういえばI先生(かかりつけ医の先生)、脳神経外科に行った方がいいよって言ってくれてたよね。念のため予約してみたよ。脳、何も問題ないといいよね」という会話を差し込む。

作戦③:自主練として、事前に声をかけるシミュレーションをする。「たかが病院に連れて行くぐらいで何を大げさな」と思われる方が大半でしょう。でもそれぐらい、母は病院に行くことを嫌がっていました。認知症になってからは「嫌悪」に近かったのかもしれません。当日、私の気持ちが揺らがないように、声のかけ方を鏡の前で何度か自主練しました。誰にもその光景は見せられませんが(笑)

病院に行く前日は機嫌が良さそうでした。わたしも「お母さん。そういえば、明日、I先生がお勧めしてくれていた、脳神経外科さんに行ってみようね。何もないか、確認してもらおうね」と声かけ。母も「うーん、いやだけど。まぁわかったわ」と笑顔で返してくれて、作戦③の一部までは、無事コンプリート。

そして迎えた当日。ここまでだらだらと話を引っ張って、ご機嫌だったというオチが来るはずはありません。
「お母さーん、あと1時間ぐらいで、昨日までに話してた、脳神経外科さんに行くからね。とりあえず、I先生が言ってくれてたみたいに、脳に異常がないか見てもらって、何もないことを確かめに行こうね」と、看護師さんを妄想して私史上最高レベルの笑顔で明るくやさしく声掛け。

対する母。
「え?」(一瞬で顔がキレ顔に変身)
「病院?何?何の話?私は何も聞いてないけど、なんで行くの?行く必要ないでしょ。私は元気だし、何も問題ない。」

あゝ。これまでの作戦は台無し。うすうす予感はあったものの、これまでの話は全部忘れさられていて、おまけに不機嫌のダブルトッピングときた。間の悪いことに、母のイライラがさらに募っているところに出発時間が近づいてしまう。

「嫌なのはすごくわかってる。私もできれば行きたくないんだけどさ。I先生に後で報告しないといけないじゃない?ただの検査だから、今日1回だけ頑張っていこうよ!」とよくわからない即興も入れながら笑顔を明るく伝える。
心底嫌な顔をしていたけれど「はぁぁぁぁぁ、仕方ないわね、1回だけね」と吐き捨てるようなセリフ。

「私だってこんな不機嫌な人、わざわざ仕事の休みをとってまでして連れて行きたくない!」と心は重かったけれど、元気で明るい演技を頑張るしかない。
車中もずっと憮然とした母を乗せ、何とか病院に向かったのでした。

やはり、認知症の入り口にいた

病院では、まず、長谷川式認知症スケールでの検査が行われた模様。先生からは「検査結果からしても、ちょっと軽めの物忘れの症状が出てしまっているね」とのフィードバック。たまたま予約が空いていたので、その後MRI検査も実施。追加の検査の場合、予約を取り直して再度来院を求められることも多いので、これは本当にラッキーでした。

検査の結果、「軽い脳出血があった形跡がある」とのこと。発生した場所からして記憶のところにもやや影響していそうとのことだった。むしろ、今回の症状の原因が脳血管性のものだとすると、血管のつまりを防ぐなどにより、これ以上の進行を抑えていくアプローチもとれるかもしれないとのこと。一旦薬も服用しながら様子を見ようとのことで、2か月分のお薬の処方箋をいただきミッション完了。
(診断にかかわる部分はできるだけぼやかして書いています。自己判断されないよう、ご注意ください)

結果的には、この時に診断を受けられたことはよかったといえます。親が認知症の入り口にいることが分かったことで、自分のこの先のプランも考えるきっかけができ、このころ、前回ご紹介した書籍などを読み始めることにつながりました。

でも、同時にここからじわじわと苦しい時期に突入していきます。自分の母親だからこそ大事に関わりたいと思いながら、そうはできない自分が親不孝者にも思えてくる、そんな時期でもありました。

次回は「病院通いの難」に触れたいと思います。ではまた。
それにしても、今年の夏は毎日、すごく暑い・・!

#認知症介護
#ダブルケアラー
#介護を手放す
#ジブン株式会社マガジン


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