USJ編(1)〜ユニバ前夜、感情通り八艘飛び〜

残炎の秋。すんどめ一家、USJにいく。

出発の数日前、
「へぇ〜今年のゾンビデダンスはAdoの『唱』なんやねぇ〜」

ドラムスメと二人、You Tubeで『唱』のダンスステージを観る。



♬らぁ〜らぁ〜ら、ららら、れぃでぃふぉまいしょぉおお♬


ギンギンに目を血走らせて映像を注視する二人。
ムスメからエンドレスリピートの要請。
二人向き合い敬礼。
承りましたと、厳かに受理して速やかに実行。
延々流れるAdoの『唱』。

ギンギンの目はダンスの一挙手一投足を逃すまいと必死に映像を追っている……二人とも口には出さない…出さないが…二人の頭の中はこうだ…

………こっそり覚えて見せつける!……ダンス…完コピしてやんよ!!!


二人、モニターの前で互いに悟られないように、そろ〜りそろりと小さく動く。

ヒョイヒョイ、クイクイ、シャッシャッシャッ、ビョーン!

ムスメは見逃さない。

「あっっれぇぇ…おとおさぁーん…ユニバめがけてですかぁw…もう必死ッスねぇw…」


「アハハ…まっさかぁ!!!ははっ……むすめよ、あんたこそ、さっきお手手ヒョイヒョイやってたじゃないですかぁアナタも完コピしようとしてるんじゃないんですかぁあ…やだなーこわいなーw必死おつでぇすwww」


「アハハ……まっさかぁ!!!」



二人、顔を見合わせて笑う。

アハハハハ…アハハハハ…アハハハハハハハ…

二人の謎の対抗心が乾いた笑い声になって貧素な茶の間にそら寒く響き渡る。


この日から暇を見つけてはダンスの練習。

あれ、意外と簡単…なるほど、覚えやすくて、踊りやすい。踊れるっ…無限に踊れる!!ヌハハッ、見よ、ドラムスメ!これが……これが父の底力じゃい!!!!

(サビの部分)
ヒュンヒュンクイクイ、シャッシャッシャッ、
ピョーーン、
シュタシュタシュタシュタ、シャリラシャリラ♬

だが、体はアラフィフ…感情通り八艘飛び♬のくだり(動画1分23秒〜25秒あたり)で思い知る。

…肩甲骨の可動域っ…くぅぅっ!…かっってぇぇえ!!!

両手を挙げてジャンプ後に、挙げた両手を伸ばしたまま組み、首より後ろでコネコネ回す。このときに肩甲骨が話しかけてきた。


…もう、若くないのです。


みっ…みとめんぞぉぉおおお……動け、おれの肩甲骨よ!うごけぇぇ!!…ぐりごりっ…グリゴリグリゴキッ、パキポキ…んひぃぃいい!!


こうして家の中で二人は顔を合わすたびにお互い挑発するように覚えたダンスを見せつけ合う。
「おはようお父さん」クイックイ、シャッシャ!
「おはようムスメ」ぐりっごりっ、グリゴキパキポキッ!!!


ムスメはトイレに行く時、必ず私を呼ぶ。

流れはこうだ。いっつもこう。
まず、ほっかぶりをして水呑百姓に扮する。
私の前に来て、一礼。
ゆっくりと土下座の構えをし、

「おねげぇしやす!一緒に来てちょ、おねがいっちょ(はぁと)…おねげぇしやす、おねげぇしやす!!」

そして二人で連れ立ってトイレに向かう。

圧巻なのはトイレに向かって廊下を歩くとき。
二人のバカは縦一列に隊列を組む。一矢乱れずクイクイ、シャッシャッ!!クイクイ、シャッシャッ!!
覚えたダンスでいっちにぃ!いっちにぃ!

行進するたび時空が歪む。

近所の犬どもが一斉に鳴く!!このバカ犬どもめwww



日本の地方の掃き溜めで、繰り広げられるバカ二人と近所のバカ犬どもの織りなす残念ホラーナイトをよそに、ユニバのハロウィンホラーナイトは始まっている。






出発までの数日間、コソコソ練習していたAdoの『唱』ダンス。
ダンスは日増しにキレッキレになってゆく。
サビ前の振り付けなんぞはアドリブぶっこむ余裕すらみせる。


そして、出発の刻。
「おはよう、おとう」クイックイ、シャッシャ!
「おはよう、ムスメ」グリゴリグリゴキパキポキッ…

穏やかな面持ちで己の技を繰り出す。

ふふ……仕上げてきおったな…ドラムスメ……私の肩甲骨もいい感じにバカになってきたわい…


二人の背後にシヴァ神が浮かび上がる。
ダンスの神にして破壊の神、
シヴァ神が踊る時、世界の破壊が遂行されるという。


二人の据わったイカれた瞳にいのちが燃えている。

USJよ、ゾンビデダンスよ、われらのダンスを待っておれ!

今、万感の思いを胸にUSJへと向かう。


つづく。








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