それを聞きたかった

『けつドラム・ソロ』の次の日、お尻界隈が痛むので意を決し、近くの総合病院で受診することにした。

外科消化器外科へ。

問診票はびっしりと埋まる。不安でびっしりと。

看護師さんがその問診を見るなり深刻な面持ちになり、眉をハの字にして私とやり取りを交わす。きっと彼女は私の症状を、そして心中をトレースして親身になってくれている、そう感じてなんだかちょっぴり嬉しくなる。人情味が支えになる。

長い待ち時間のあいだ、これからの生き方について改めて考える。

私の番号が待合に響く。ゆっくり立ち上がる。

「よろしくお願いします。」

重い扉を開く。

入室後、症状を呆れるぐらい細かく伝える。

「YOU、横になってケツ出しちゃいなよ。」とお医者様に言われたので流れるようにケツを出す。

反射ってやつはほんと困る。
最近ではすっかり脳が『ケツ出し』の信号を受信すると『ドラムに備えよ』が出力されるように調教されている。
ケツを放り出した瞬間、髪を振り乱し両腕をムチのようにしならせて、一心不乱にケツドラムを叩いている昨夜の我が娘を思い出す。つい「ふふっ…」って笑う。
そして、軽やかにケツ出して笑っている自分の様はさぞかし気持ち悪かろうと思うと更におかしくなって続けて「ふふっ…」と抗えずに笑う。

お医者様はそんな私を意にも介さず、淡々とケツほっぺを押したり、指を穴にぶっ刺したりして
「痛くないですか。」
と聞く。
「痛くないです。」
と私。

お医者様が
「それではケツをしまってこちらへ。」
と元の机へと促す。
そして
「痔ではなさそうですね。」
と言ったっきり、何も喋らない。

えっ、これで終わり?
いやいやいや…終わらせはせん終わらせはせんぞぉおお!

賢しらに思われたくないと思い秘めていた、関係性がありそうな症状を、事細かに話した。

「じゃあもう一度youケツ出しちゃいなよ。」

よしっ、我が愁訴届きけり!喜び勇んで、玉ごと出そうな勢いで張り切ってケツを出す。そしてまたもや娘のバチさばきを思い出し「ふふっ…」って笑ってしまう。

今度は何やら肛門鏡とやらを取り出して、またもや、指でケツをぶっ刺したり、肛門鏡をぶっ刺したりしている。

「なんで痛いのかわからないですがナンタラカンタラ何たらかんたら…で肛門には異常がありませんね。」と言って黙る。
『終わりですよ』と言わんばかりに。

『重い扉を開ける前』と『今』、私的には何も解決していない。
私は大腸に腫瘍があったら嫌だ、確認したいと思って来ている。口頭でも問診でもその空気を出していた私の心の内を解っていたはずなのに、そして痛みの原因を知りたいと言っているのに煙に巻くような言い回しで幕を引こうとは。

色々院内の事情があるのかもしれない。そんな事は容易に想像できる。でもここ、外科に受診しようと待合室で待っている人々はあまねく、とてつもなく不安で『大丈夫でした』か『原因がわかりました』を聞きたくて勇気を出して診察に挑んでいる。

患者のほうも病院リテラシーを持って診察に挑まなければならないというのであれば、なるほどわかった。と私は口を開く

「先生が私と同じ症状なら次にどのようなアクションをとりますか。私の問題解決の方向性をお教えください。」

「そうですね、整形外科を受診しますね…………ええっと…あのー大腸内視鏡検査しますか?」


それを聞きたかった。(ブラックジャック風)

「お願いします。」
「では、手続きを…」

ということでこの日の数日後に『大腸内視鏡検査』を受けることになった。
















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