けつドラム・ソロ

春先、啓蟄の頃、お尻が痛くなりだした。

表面じゃなく内。尾骶の裏界隈。

痔にはなったことがない。
立ってても痛いし該当エリアに圧がかかるとより痛いし、場合によっては刺激により便意も感じる。これが痔の痛みなのかな。なんて思いながら夏までやり過ごしていた。


今年10歳になった娘は太鼓の達人はおろか、車の中では音楽に合わせてビートを刻み、家ではうつ伏せの私に跨り、スマホ片手に華麗に選曲、ケツドラムを叩く。

娘「ズボンの上からではいい音が出ない。プロならこだわりの生ケツよ。」とパンツごとひん剥く。

マキシマムザホルモン、YOASOBI、あいみょん、ヒゲダン…レパートリーは数しれず。

去年ぐらいから事あるごとにケツドラム。

ケツほっぺは痛く無いのだけど、鬼連打がくるとたまにクリティカルヒットがくる。



お尻の症状が8月に入っても続く。便も快便がない。腰も痛い。拭いきれない懸念がある ー大腸がん。


意を決して、病院で診てもらうことにした。


診てもらおうと意を決したその夜、

俺 「ケツドラムは訳あって今日で一時、打ち止めにします。一曲だけ好きな曲叩いていいよ。そんで一旦打ち納めね。」

娘 「うんわかったよー。」

うつ伏せになりケツドラムをスタンバる俺。
騎馬民族のごとくスッと跨り、流れるように容赦無くケツをひん剝きスマホを華麗にスクロールする娘。

スクロールの手をピタッと止め、スマホを脇に置く…すぅーっと息を吸う音がした。





娘 「…………くれないだぁぁあああ!!!!!!」

俺 「!!!!!!」

容赦ない選曲に天を仰ぐ…俺のケツが…紅に染まる!!!慰める奴はもういない!!!!無慈悲なバチさばきにケツが踊る!!!!


長い…長い…まさか『紅』とは…初めてじゃん『紅』…あぁそうか…確かに最近、懐かしい言いながら車で鬼リピしながらハンドル叩きながら「くれないだぁあああ」やってたわ俺…迂闊っっ!!

薄れゆく意識の中でスマホから流れる『紅』と鬼畜のようなバチさばきで奏でられる娘のケツドラム・ソロ…

お前(娘)は走り出す(バチさばき)なにかに追われるよう(打ち納めに)…俺が見えないのか(紅に染まった生ケツをシた俺を)…すぐそばにいるのに(真下に)…歌詞が状況とシンクロして思わず笑う。


ドコドコドコドコ…ズッシャン!ズッチャン!ドコドコドコドコ…シャーーーン!トゥクトゥクトゥクトゥン…ズッチャン!ズッチャン!!ドコドコドコドコ…シャーーーン!!!

…終わった…フッ…まったくお前さんと言うやつは困ったむすm…

娘 「アンコール!アンコール!!アンコール!!!」


俺 「ちょwwマジっすかwwいいけどじゃあこれでラストね…やさしくおねg」

娘 「すぅーーっ…くれないだぁあああ!!!!!」


もう二度と届かないこの想い!!!!
紅に染まったこのケツを慰める奴はもういない!!!!












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