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自然を基盤にした解決策(NbS)ってなんなの?グリーンインフラとどう違うの?

こんにちは、ポン氏です。

自然を基盤にした解決策(NbS)という概念を御存じでしょうか。

技術士の勉強などをしていると、自然を基盤とした解決策(NbS)や生態系を活用した防災・減災(Eco-DRR)という言葉は、記述式の問題でよく目にしますね。
しかし、インターネットで検索をかけても具体的なものはヒットしないため、よくわからないという方が多いかと思います。

今回は、そんなNbSについて、各種白書やインターネットで得られる情報を集約し、そこから私が解釈した具体的事例を紹介します。


自然を基盤にした解決策(NbS)とは

NbSとは、Nature-based Solutionsといい、自然を基盤にした解決策と訳されています。
2016年に国際自然保護連合(IUCN)と欧州委員会が定義した概念です。

IUCNでは、NbSを「社会課題に効果的かつ順応的に対処し、人間の幸福および生物多様性による恩恵を同時にもたらす、自然の、そして、人為的に改変された生態系の保護、持続可能な管理、回復のため行動」と定義しているそうです。


IUCN NbS世界標準 | NbS自然に根ざした解決策 (nbs-japan.com)より画像引用

また、環境省の次期生物多様性国家戦略研究会報告書(R3.7)においては、NbSを「自然の機能を活用して社会的課題に対処する取組」としています。また、下記のようにNbSの概念を積極的に取入れ、社会課題へ対処するという記述があります。

①生存基盤となる多様で健全な生態系を保全・再生し、②自然を活用した解決策(NbS:Nature-based Solutions)や生態系を基盤とするアプローチ(Ecosystem based Approaches)の考え方を社会的課題への対処に全般的に取り入れながら自然の恵みを持続可能な形で積極的に活用するとともに、さらに③生物多様性を主流化し、社会・経済・暮らしのあり方を自然共生に向けて変えていく社会変革が必要となる。


次期生物多様性国家戦略研究会報告書の公表について | 報道発表資料 | 環境省 (env.go.jp)

NbSはグリーンインフラ

同報告書内では、NbSの具体例は紹介されていないのですが、「NbSは、グリーンインフラEco-DRRを包括する」という記載があります。グリーンインフラとEco-DRRとは、次のようなものです。

グリーンインフラとは、社会資本整備や土地利用等のハード・ソフト両面において、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土・都市・地域づくりを進める取組である。

グリーンインフラ推進戦略(2019国土交通省)

生態系を活用した防災・減災(Ecosystem-based disaster risk reduction;Eco-DRR)とは、生態系と生態系サービスを維持することで、危険な自然現象に対する緩衝帯・緩衝材として用いるとともに、食糧や水の供給などの機能により、人間や地域社会の自然災害への対応を支える考え方である。

生態系を活用した防災・減災に関する考え方(2016環境省自然環境局)

これらは、自然や生態系が持つ多様な機能を社会資本整備や防災といった社会課題の解決に活用するものですから、NbSと同義と言えますね。

複合的な社会課題の解決

では、なぜ今になってNbSが取り上げられるようになったのでしょうか。
その理由は、社会課題の複雑さにあります。

最近は、短時間集中豪雨の発生回数が増加傾向にあったり、台風の勢力が大きくなったりと、日本国内でも気候変動の影響を身近に感じる機会が増えていますね。その結果、毎年、各地で土砂災害が発生し、我々の生命・財産が損害を受けています。
一方で、気候変動による気温の上昇や雨量の変化は、生物の生息環境にも影響を与えています。生物多様性の損失は、将来の遺伝資源利用の可能性を失わせるなど、人間の生活基盤にまで影響する問題です。

こうした気候変動生物多様性の課題への対処は、個別に取組んできました。しかし、これらの課題を個別に取扱っても、解決には至らない場合があります。例えば、林野庁は温室効果ガス吸収原対策として、人工林の皆伐・再造林を推進している一方で、単一樹種による再造林は生物多様性に配慮しているとは言えません。

そこで、これまで個別に議論されてきた、気候変動対策や生物多様性保全の枠組みを一体的に取扱う必要性があることが認知されるようになりました。その結果として生まれた概念が、自然を基盤にした解決策(NbS)になります。

国内施策としてのNbS

2021年12月に国交省が作成した「国土交通省環境行動計画」では、既存の水田や緑地を雨水の貯留等に活用することや、河川や砂浜を基軸に生態系ネットワークを形成すること、人口減少社会での国土管理に用いる手法などがあげられています。

「流域治水関連法」に基づき、水田を含む川沿いの低地など、流域の沿川の保水・遊水機能を有する土地を「貯留機能保全区域」として指定したり、雨水を蓄え、地中に浸透させる能力が高い都市部の緑地を「特別緑地保全地区」として指定できるようにするなどの制度的な措置を活用し、雨水貯留浸透機能の確保・向上を図る。
生物多様性の保全や健全な水循環の確保に資するよう、河川を基軸とした生態系ネットワークの形成、かわまちづくり等の魅力ある水辺空間の創出を図るとともに、地方公共団体、市民、河川管理者、農業関係者等の多様な主体による流域連携等を通じて、水と緑を活かした広域的な生態系ネットワークの取組の推進を図る。併せて、予測を重視した順応的砂浜管理を実施して砂浜の保全・回復の取組を推進する。
人口減少下における国土管理の在り方を示す「国土の管理構想」(令和3年6月)に基づき、グリーンインフラの活用生態系ネットワークの形成も含めた持続可能な国土管理の必要性やその考え方の普及、モデル事業等による市町村や地域における管理構想の取組の推進等により、適切な国土管理の実現を図る。

環境:環境行動計画 - 国土交通省 (mlit.go.jp)

具体的事例

では、具体的にどのようなものがNbSの取組みなのかというと、具体的に紹介されている資料はあまりないようです。しかし、グリーンインフラやEco-DRRと言い換えることができるなら、なんとなく想像はできますね。

私が考えるNbSの具体例は、海岸防災林防風林霞堤などです。そのほか、森林や水田が持つ多面的機能(水源かん養など)も該当するでしょうから、これらを健全な状態に保つこともNbSの取組みになるでしょう。

ここでは、海岸防災林と平地林を紹介します。

① 海岸防災林

海岸防災林とは、飛砂、潮風、波浪、高潮、津波等による被害を防止・軽減することを目的に造成する森林です。四方が海に囲まれている日本では、身近で重要性の高い森林です。
海岸防災林は、堆砂垣で造成する人工砂丘や静砂垣内で育成する海岸林等で構成されています。

海岸防災林は、森林を造成することで、海岸沿いという厳しい環境での暮らしを改善するという課題を解決しています。


技術基準:林野庁 (maff.go.jp)

② 平地林

平地林とは、丘陵や台地など比較的低標高地かつ関係者地に存在する森林です。
地力の乏しい畑で、作物の再生産を維持するには、多くの有機質肥料を耕地に投入する必要があります。そこで、江戸時代に開墾した農地では、有機質肥料として落葉を採取するため、クヌギやコナラの平地林を設けました。

平地林という自然資本を活用することで、化学肥料に頼らずに、持続可能な食料生産という社会課題を解決していると言えます。


関東平野の平地林の歴史と利用(1996年 犬井正)

また、低地集落にみられる「屋敷林」は、防災という側面も持っています。

現代のように住居の構造がしっかりとしていなかった時代は、冬季の空っ風を防ぐために、屋敷の周囲にケヤキやカシの木を植えていました。屋敷林は、防風が主目的であるものの、洪水の被害を受けやすい低地の集落においては、「洪水被害の低減」も副次的な目的でした。堤防が決壊し、様々なものが流れてきて住居に直接ぶつかることを防ぐ機能もあったという記述もあります。

まとめ

NbSに関する具体的な情報は少ないのが現状です。
その一方で、その内容としては、グリーンインフラ等を包括するものであり、既に様々な事例があります。

● NbSとは、自然の機能を活用して社会的課題に対処する取組である。
●その内容は、グリーンインフラやEco-DRRを包括する。
● 具体的事例は、水源かん養としての森林や水田、海岸防災林、平地林、都市緑地などがあり、既存のグリーンインフラが主である。

今後、NbSの取組みが具体的に進んでいくことを期待したいですね。

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