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AIに取材記事を書かせることのリスクについて。

 ライター(特にWeb系)の一部で、ChatGPT4やClaude3といった生成AIを取材記事執筆に活かす動きが活発になっている。「新しいツールをいち早く触り、使いこなそう」という彼らは非常に情熱的で、貪欲だ。SNS上で共有される彼らの知見に驚かされ、書き手として刺激を受けることも多い。

 彼らの活躍により、文字起こし〜執筆のプロセスをほぼ自動化するノウハウーー文字起こし生成AIを使ってインタビュー音源を起こし、今度は文字起こし原稿を生成AIで記事化。最後に人の手を入れるーーも生まれた。実際、すでにこうしたプロセスを取り入れ、記事制作を効率よく行なっているライターや編集者もいるようだ。

 筆者は生成AIそのものは素晴らしい技術だと考えていて、「今後、執筆の現場にはなくてはならない存在になるのでは」と考えている。その一方で、危惧感もある。というのも、あくまで個人の勝手な印象にはなるが、今のライター界隈でのAIに対する評価が技術賛美に走りすぎ、リスク管理がおざなりになっているのでは、という気がするのだ。

 結論としては、筆者は生成AIはあくまで補助的に使うものであって、メインの執筆作業を任せるべきではない、と考えている。情報ソースが確かな取材記事であってもだ。というより、取材記事(インタビュー記事)だからこそ生成AIに頼るべきではない

 以下、その結論に至った理由、もとい個人的な懸念点を述べる。

Q1 ハルシネーションのリスクにどう対処するか?

 まず、大前提として、文章生成AIは平気で嘘をつく(ハルシネーション)。情報ソースがあれば大丈夫だ、と考える方もいるかもしれない。しかし、文字起こし原稿をベースに記事を書かせた場合でも、インタビュイーの発言を平気ででっち上げるのがAIちゃんである。

 なお、筆者は、文字起こし原稿のケバ取り・整文をChat GPTに依頼しただけなのに、内容をでっちあげられたことがある。アイツらはある意味、人間よりも信用できない。

 ハルシネーションのリスクに対処する方法は、今のところ1つしかない。人間の目によるチェックである。結局、最後は人力なのだ。ライター界において「人の仕事はなくならない」と言われる所以である。

 ただ、取材記事の場合、一次的な情報ソースはインタビュー音源であり、文字起こし原稿である。もしそこに嘘が入り込んだ場合、人間のライターが嘘を見抜くのは困難であろう。

 原稿に人の手を入れる前提であっても、「どの段階で、どの程度生成AIを使うか」は十分に考慮されるべき問題である。

Q2 秘密保持義務との関係をどう処理するか?

 文字起こし原稿やインタビュー音源は、「業務上知った非公開の情報」に該当する。そのため、クライアントワークでインタビュー記事制作に生成AIを使った場合、契約書における秘密保持義務との関係が問題となりうる。詳しくは以下の記事をご覧いただきたい(宣伝)

 もっとも、この問題については、上の記事内で出井弁護士が指摘されているように、クライアントやインタビュイーとの協議によって解決が可能だと思われる。今後、契約書の条項でカバーされることも想定されるところだ。

 つきましては、メディア編集部の皆様におかれましては、早急なルール整備をお願いしたい。同時に、ライター側も、クライアントやインタビュイーに無許可で生成AIを使用することは避けたほうが無難だろう。

Q3  著作権の問題をどう処理するか?

 実はこの問題が1番厄介であり、筆者がAI使用を躊躇う最大の原因である。

 現行著作権法の通説的な理解によれば、人の手による創作的な寄与が認められない限り、AI生成物を「著作物」として認めることは難しい。そして、著作物性が認められない以上、著作権も発生しないことになる。

 そこで、筆者は素人ながら、次のような疑問を持つことになった。

・校正レベルの手直しでは創作的寄与が認められないことを考えると、原稿の仕上げ段階で人が介入しても、記事に著作権が発生しないケースが出てくるのではないか?(特に、記事の執筆を自動化し、最後の手直し作業のみを人間が担う場合)

・人の発言を逐語的に記録した文字起こし原稿は著作物にあたりうるが、この場合の著作者はインタビュイーとインタビュアーということになりそうだ。この前提でいくと、生成AIを使って文字起こし原稿(インタビュイーの発言)をそのまま利用して原稿化した場合、インタビュイー本人の著作権が記事本文に及ぶケースがあるのではないか?

 インタビュー記事(取材記事)の著作権者は誰か。いや、そもそも著作物といえるのかどうか。これは書き手、そしてメディアの編集部にとっては非常に大きな問題である。無断転載に対してクレームをつけられるかどうか、という点にも関わるし、そもそも現在の契約書が「納品物がライター本人の著作物であること」を前提として作られているからである。

 そもそも取材記事やインタビューに基づいて書かれた作品は関係者が複数いることもあり、「誰が著作権者になるのか」をめぐって難しい問題がある。実際に裁判で争われたケースだと『SMAP大研究事件』や『「静かな焔」事件』が有名だ。

 ライター本人がインタビュイーの発言を「素材」として扱い、自分自身の個性を発揮して文章を書いている分には、(上記裁判例で判断が示されたおかげもあって)著作権法上の問題は起きるリスクはそこまで大きくはなかった。しかし、人間が執筆作業をAIにほぼ丸投げした場合はどうなるのか?

 筆者は著作権の専門家ではないため、上記問いへの明確な答えを持たない。持たない以上はどうしても慎重にならざるを得ない。

おわりに

 繰り返しになるが、筆者は生成AIは素晴らしい可能性を秘めた技術であり、現場の書き手に多大な恩恵をもたらす存在であると信じている。

 しかし、生成AIをめぐっては著作権やフェイクなどをめぐる難しい問題があるのも事実であり、今後ライターや編集者が想定していなかったトラブルが起きる可能性は否定しがたい。そうである以上は、リスクに目を瞑り、利便性にのみ着目して生成AIの活用を推し進めることは、書き手自身の首を絞めることにつながるであろう。

 今、我々ライター・編集者に求められるのは、AI利用者にふさわしいリテラシーであり、「情報を正確に捉え、より良い形で社会に還元する」という情報発信者としての倫理である。

 今後、業界の中で生成AIに関する議論が活発化することを望みつつ、筆をおきたいと思う。

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