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【カーリング】 Shot by Shotをデータベース化する 〜 Shot by Shotデータ分析 #01

この記事ではカーリングのShot by Shotのデータを用いて、カーリングの戦術についての分析をします。 第1回目の今回はShot by Shotに含まれているショットの情報やストーンの位置を抽出しデータベース化します。 最後に、過去の試合の得点推移から計算される、エンドと点差別での勝率を示します。

カーリング

カーリングは氷上でストーンを滑らせるウィンタースポーツです。 2チームが交互に8つのストーンを投げ、ハウスと呼ばれる円にとどめて得点することを目的とします。 計16投を投げ終えた時点でハウスの中心に最も近いストーンを持つチームが得点し、1エンドが終了します。 これを繰り返し、10エンド(もしくは8エンド)終了時に点数が多いチームが勝利となります。

8投の中で得点を増やしたり、失点を抑えるためにどうストーンを配置するかの戦略性が求められることから、カーリングは「氷上のチェス」と呼ばれています。 その高い戦略性はカーリングの大きな魅力のひとつであり、ここに客観的なデータによる分析を加えることは重要なアプローチだと思います。 過去の統計からの裏付けや可視化は、初めてカーリングを見る人から競技者まで様々な層で役に立つはずです。

Shot by Shotとは

オリンピックや世界選手権などの主要大会の試合では、1投ごとにストーンの配置と選択したショットの種類、ショットが成功したかどうかを評価する得点が記録されています。

Shot by Shotの例(worldcurling.orgより)

大会期間中は、リアルタイムで更新され、世界カーリング連盟CURLITのサイト上で確認することができます。 映像がなくても、野球の1球速報のように試合状況を知ることができるようになっています。

ストーンの配置は静止画で記録されているだけなので、ストーンがどのように動いたかは投げる前後の配置から想像するしかありません。 特にテイクアウトショットなどで多くのストーンが動いたときには、普段からテレビ中継などでカーリングに触れていても何が起きたのか理解するのが難しい場面があります。

このようにShot by Shotで試合を読み解くにはやや訓練が必要ですが、おすすめの動画があるのでここで紹介しておきます。 SC軽井沢クラブの山口剛史選手がYouTubeで始めた、Shot by Shotを見ながらの応援配信です。

当時、フォルティウスが出場した世界選手権で、中継スタッフのコロナウイルス感染によりテレビ放送がなくなり、映像に飢えたカーリングファンはこの配信により救われました。 特にロコ・ソラーレの藤澤五月選手、吉田知那美選手、鈴木夕湖選手と谷田康真選手がゲストに来たこの回は(カーリングとは別の)見どころも詰まっているのでまだ見ていない方はぜひ見てください。

話がそれましたが、Shot by Shotはデータ分析の観点からカーリングを扱う上でこれまで不足していた盤面の情報を得る貴重なデータであり、これを活用しない手はありません。 ストーンの配置は担当者が人力で記録しているため、位置に多少の誤差が付きますが、大雑把な分析をするには十分なデータと言えます。

Shot by Shotをデータベース化する

Shot by Shotのデータは、1年間はCURLITのサイト上で閲覧することができ、それより古いものも大会ごとにResults Bookというpdfにまとめられていてダウンロードして確認できます。

Results BookのShot by Shot(curlit.comより)

pdfのままでは分析には使えないので、何らかの方法でデータベース化する必要があります。 今回はこちらの記事にある方法でショットの情報やストーンの位置を抽出し、SQLのデータベースにします。

処理内容を簡単に紹介すると、まず、大会ごとでにまとまっているResults Bookを試合ごとに切り分けます。 次に、pdfファイルをxml形式に変換し、テキストデータと画像を抽出します。 試合やショットの情報はxmlファイルから必要な情報を読み出し、ストーンの位置は画像上で赤と黄色の円を検出し、その中心の座標を記録します。 保存するSQLの構造は以下のようになっています。

データベースの構造(dbdiagram.ioで作成)

処理の詳細は元の記事で確認できますが、改良した部分もあるので準備ができたら詳しい解説を書こうと思います。

勝率テーブル

作成したデータベースで、まずは簡単な分析をしてみます。 最初に分析するのは、CurlingZoneAIじりつくんも公開している勝率テーブルです。 勝率テーブルはそれぞれのエンドと点差で先攻と後攻の勝率が過去の試合でどのくらいだったのかを示すものです。

カーリングはそのエンドで得点する上では最後にストーンを投げる後攻が圧倒的に有利であり、得点を取ると次のエンドでは先攻と後攻が入れ替わるというルールがあります。 その性質上、同点だから互角で、点数をリードしているから勝ちやすいとは必ずしも言えません。 残りエンド数がいくつで、何点差で、先攻か後攻かが、競技する選手にとっても観戦するファンにとっても非常に重要な情報です。

今回示すのは、2019−2022シーズンの世界選手権、オリンピックの男子と女子の結果から作成した勝率テーブルです。 5ロックルール適用からノーティックルール適用前のWMCC (2019, 2021)、WWCC (2019, 2021)、Olympic (2022)の5大会、全460試合を使用します。

各エンド開始時の後攻から見た点差別の後攻の勝率(上段)と該当試合数(下段)

例えば、7エンド開始時で後攻が1点リード(点差は+1)している場面は65回登場し、そのときの勝率は77%というように読みます。先攻の勝率もこの表から計算できて、5エンド開始時で先攻が2点リード(点差は−2)している場面は92回登場し、先攻の勝率は1−0.32=68%です。

結果は概ねAIじりつくんのデータと一致します。 こちらは2019−2022シーズンの女子トップチームの約2,200試合のデータから求めたものです。 勝率が異なるところもありますが、今回示したものの試合数が少ないので統計的に有意な差とは言えないでしょう。

このテーブルから後攻を持つことの重要性がよくわかります。 同点であったとしても、後攻の勝率は序盤からどのエンドでも60%程度と高く、1点リードして後攻を迎えれば、さらに点差を広げるチャンスで勝率は70−80%あります。 同点や1点差という状況からは互角や接戦という印象を受けるかもしれませんが、先攻と後攻とではかなり勝率が異なります。 1点ビハインドでの後攻を見ると、中盤までは40%程度の勝率で、負けていても逆転のチャンスは十分残されています。

しかし、残りエンドの少ない終盤では状況が変わってきます。 同点で最終10エンドを後攻で迎えると、1点取るだけでいいので勝率は80%以上あり、点数をリードして後攻を持てばほとんど勝ちの局面です。 1点ビハインドの後攻でも勝率は55%(AIじりつくんでは42%)で、2点取って勝つ場面も多く見られます。 1つ前の9エンドではまた少し難しくなり、 特に1点ビハインドで後攻だと勝率は25%と、8エンドや10エンドと比べて低くなっています。


ここまでは得点と勝率のデータに注目してきましたが、次回からは今回Shot by Shotから抽出したストーンの配置を使います。 勝率テーブルで見た局面の評価が戦術にどのように影響するのか見ていきます。

感想、質問、分析してほしいリクエスト、皆さんで分析してみた結果など、何でもお待ちしております。

#02 先攻1投目のショット選択

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