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【カーリング】 先攻1投目のショット選択 〜 Shot by Shotデータ分析 #02

この記事ではカーリングのShot by Shotのデータを用いて、カーリングの戦術についての分析をします。 前回はShot by Shotのデータベース化について解説しました。 第2回はエンドや得点差ごとの先攻1投目のショット選択の分析を行います。

カーリングの点数の数え方と基本的な考え方

まずはカーリングの基礎をおさらいしておきましょう。

カーリングではエンド終了時のハウス内のストーンの配置によってそのエンドの得点が決まります。 まず、ハウスの中心に最も近いストーンを持つチームのみが得点することができます。 点数は相手のチームのストーンで中心に最も近いストーンより内側にあるストーンの数が得点になります。 ハウスの外側にあるストーンは得点になりませんが、ハウスに少しでもかかっていれば点数に数えられます。 ハウスの中に1つもストーンがない場合は両者0点のブランクエンドとなります。

得点の数え方。左は黄2点、右は赤1点

そのエンドで得点したチームは、次のエンドで先攻になります。 ブランクエンドになった場合は、先攻と後攻は変わらずに次のエンドを行います。

カーリングにおいて先攻と後攻には大きな差があります。 エンドの最後の1投を投げる後攻は、その後にストーンをはじき出されることがないので、基本的に最低1点は取ることができます。 そのため、後攻は2点以上を狙うのが基本的なセオリーとなります。 2点を取ることが難しい場合には、両者0点にしてブランクエンドにする選択を取ることがあります。 得点は入りませんが、先攻と後攻が変わらず後攻を維持できるので、ブランクエンドも基本的には後攻に有利な選択です。

一方、先攻は後攻の複数点を防ぎ、1点に抑えるのが大きな目標になります。 得点状況や配置によっては、先攻が得点するスチールを狙うこともありますが、スチールは基本的に難しく、後攻に複数点を与えるリスクを負うことになります。

先攻のエンド序盤の戦い方

基本的に得点することが難しい先攻は、後攻に1点を取らせることを目的とします。 この場合、先攻はセンターライン上でハウスの手前にガードストーンを置くのが定跡です。 カーリングにはフリーガードゾーンルールというルールがあり、最初にガードストーンを作ることができます。 これは両チーム合わせてエンドの最初の5投目(先攻の3投目)まではフリーガードゾーンにあるストーンをプレーエリア外に出すことができないというルールです。

センターガードとフリーガードゾーン

センターガードでハウスの中心を隠すことで、後攻が最後に1点を取るルートを塞ぐことができます。 また、置いたセンターガードの後ろに相手に出されにくいストーンを隠すことができます。 これによって後攻が点を取るスペースを狭めることができます。

スチールを狙う場合も同様に、ハウスの中心に向かうルートを塞ぐことと後攻が点を取るスペースを狭めることが重要です。

Shot by Shotによる先攻1投目の分析

簡単に先攻の戦い方を紹介しましたが、これらが実際の試合でどのように使われているのかShot by Shotのデータから見てみます。 ここで示すのは、各エンドと点差別での先攻の1投目が置かれる場所です。

後攻から見た点差とエンド別の先攻1投目の分布。
各パネルの左上の数字は上段がショットが無効になった割合、下段が該当する試合数です

色の濃いところにストーンがよく置かれることを表しています。 5ロックルール適用からノーティックルール適用前のWMCC (2019, 2021)、WWCC (2019, 2021)、Olympic (2022)の5大会、全460試合を使用しています。

以下ではいくつかのパターンに分けて詳しく見ていきます。

後攻がリードしている場面

後攻がリードしている場面では、先攻はこれ以上リードを広げられたくないため、後攻の得点を1点に抑えることが必要です。 また、エンドや点差によってはスチールを狙わなければ行けない局面もあります。

後攻がリードした場面での先攻1投目の分布

ストーンの置かれる場所を見ると、どのエンドでも先攻の1投目はセンターガードを置いています。 ハウスに入ると相手に出されてしまうので、必ずハウスの手前に止めなければいけません。

1点差の場面を見ると、8エンド以降でハウスから遠いセンターガードを置く割合が増えています。 これには次の1投でもうひとつセンターガードを置き、より固くハウスの中心を守る意図があります。 後攻が1点リードの終盤で、多くのチームが積極的にスチールを狙っていることがわかります。 試合数が少ないですが、後攻が2点以上リードしている場面でも同様の傾向がりそうです。

先攻が2点以上リードしている場面

先攻が2点以上リードしている場面でも、後攻は複数点を取れば追いつくことのできる点差です。 先攻としては後攻を1点に抑えてリードを守るか、追いつかれても次のエンドで後攻を持つことができるので、同点までは良しと考えることもあるかもしれません。 先攻ですが、エンドによってはブランクエンドも許容できる局面もあります。 いずれにしても大量点を与えて逆転されるのは避けたい場面です。

先攻がリードした場面での先攻1投目の分布

どのエンドでもハウスの中にストーンを置く割合が高くなっています。 次回以降詳しく見ていきますが、後攻はハウスに入った1投目を出しにこないので、1投目からハウスに入れる戦術を取っています。 2点リードの場面ではより積極的にセンターガードを置く場面も見られますが、3点以上のリードでは1投目からほとんどハウスの中に入れています。

先攻が3点以上リードした最終10エンドでは、無効になったショットの割合が他の局面よりも高くなっています。 後攻を2点以下に押さえればいいので、1投目はストーンを残さないスルーも選択肢に入っていることがわかります。

同点、または先攻が1点リードの場面

同点、または先攻が1点リードの場面では、後攻は複数点を取ればリードを奪える、先攻は1点を取らせて次のエンドで逆転を狙いたいということで、両者の思惑がぶつかり合います。 また、試合の後半になるとどのエンドで後攻を持つかも重要な点になり、エンドごとでも取る作戦が変わってきます。 偶数エンドに後攻を持つと、交互に点数を取り合った場合に最終10エンドで後攻のアドバンテージが得られます。

同点、または先攻が1点リードの場面での先攻1投目の分布

オレンジで囲った局面ではすべてセンターガードで、ハウスから遠いガードの割合も高いです。 同点で最終エンドの場合は必ずスチールが必要で、9エンドも後攻を1点に抑えたい局面です。 ブランクエンドで最終エンドの後攻を取られるのも避けたいところです。 スチールで先にリードを奪いたいと考えることもあるかもしれません。

緑で囲った奇数エンドではハウスに近いセンターガードが中心で、ハウスに入れるショットの割合は低いです。 奇数エンドのため、ここで後攻を1点に抑え、偶数エンドでの後攻を狙っていることがわかります。

青で囲った偶数エンドではセンターガードが中心ですが、ハウスに入れるショットもある程度存在します。 後攻が複数点を狙ってくるので、相手は構ってこないことを前提にハウスに入れる選択も考えられます。 偶数エンドなので、先攻でもブランクエンドで良いという考えもありそうです。


ここまで点数状況別に詳しく見てきましたが、画像全体をボーッと眺めていると、どの点差でも4、5エンドより6、7エンドの方がストーンの分布が全体的に下方向にずれているように感じます。 気のせいかもしれませんが、ハーフタイムを挟んだアイスコンディションの変化が見えているのでしょうか。

今回はShot by Shotのデータで先攻の1投目の分析をしました。 次回はこれを受けて後攻がどういう戦術を取るのか見ていきます。

感想、質問、分析してほしいリクエスト、皆さんで分析してみた結果など、何でもお待ちしております。

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