指輪は右手の薬指

翌朝の浮腫みすら自分ではわからないから、右手の薬指にはめられた指輪が嫌味なくらい教えてくれる。昨晩口にしたものを恨んだり、分厚くなった指にこれでもかというほど押し付けられた跡が愛おしくもなる。いつもよりきつくなったスニーカーが馴染むころに、気付けば薬指をスルスルと指輪が通る。あんなにも焼き付いていた跡が寂しくも当然のように消えた。

生きる実感といえばそんな事でしか感じられなくなった。たった一本の指が浮かんだり沈んだりするざまを眺め生きてる事を思い出す奴が、翌朝の浮腫み以外に生きてて気づくことなんてない。もっといえば指輪がついてなければ浮腫みにすら気づかないのだから。無理やりつけられた指輪が、生きてるか死んでるかもわからない月日の消化試合の審判になるだなんて思いもしなかった。

「今日はお休みですか?」

運悪く平日にネイルサロンに行ってしまった。その場しのぎの会話で店員がそう投げかけてきた。こっちは毎日お休みだ、と理不尽にも怒りそうになったが「そんなとこです。」と、気持ち悪い返事をしてしまった。

そういえば生きてて気づいた事が一つだけある。無職は平日に下手に店に出向いてはいけないという事。しかも美容院やサロンといった一対一の接客は最悪だ。くだらない。

明日は薬指にどのくらい跡がつくのか楽しみだ。





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