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訪問した「建築」をまとめつつ2023年を振り返る

ひさびさ投稿。推薦委員になってしまった「みんなの建築大賞」のために3件の推し建築を選ぶというタスクもあるので、2023年にウロウロした建築について書きます。

学校建築が面白かった

『新建築』2024年1月号に紹介されているようですが、「京都市立芸術大学・京都市立美術工芸高等学校」と「金沢美術工芸大学」、いずれもとても素敵でした。両建築とも教員とか地域とか機材とか、多岐にわたる関係者や機能が絡んで交通整理が非常にややこしいであろう施設を、(拝見する限りでは)破綻なく整理していることに驚きましたし、それぞれ創造性を引き出す工夫に唸らされました。

京都市立芸術大学・京都市立美術工芸高等学校(2023年竣工)

京都市立芸術大学・京都市立美術工芸高等学校 9/15(見学会)で撮影。あえて無愛想? というのか、さっぱりした風景が実は芸術大学にふさわしいのかなと。
京都市立芸術大学 開校後 はにわ?と休憩スペース。学生が遊び場をつくれそうな余白もある。つまり青木淳さんの「原っぱと遊園地」でいう"原っぱ"をつくり出している感じ。

金沢美術工芸大学

金沢美術工芸大学。明快な計画に加えサインや照明、家具なども魅力的で、大枠から細部まで全体で大学の活動を盛り上げていく感じがいいなと。

神山まるごと高専(2023年竣工)

「神山まるごと高専」も、見学して刺激を受けた場所です。

神山まるごと高専 1月訪問(『AXIS』2023年4月号のため取材。まだ工事中でした)学校の枠組みや運営の新しさ、地域産材利用といった地場産業との連関も含めてとても興味をひかれました。

NSDプロジェクト(長野県スクールデザインプロジェクト)も盛り上がっているし、学校建築はこれからさらに面白くなりそうだなと感じた2023年でした。

ゴー・ヴィエト・トゥが最高だった

ベトナムのフエで、ゴー・ヴィエト・トゥ設計の建物に衝撃を受けました。ゴー・ヴィエト・トゥはアジア出身者としてはじめてローマ賞を受賞した建築家で、ざっくりいうとベトナムの丹下健三的な立ち位置の方だと思われます。フエ生まれで、その出身地に名建築が残っているとのこと。ホーチミンの統一会堂が有名だけど、それを見ても感動はしなかったかも・・・(広島ピースセンターいっても丹下さんに興味を持てない的な?)。ご案内いただいたベトナムの先生に感謝。

フエ教育大学(Trường Đại học Sư phạm Huế、1961-1963築) 

フエ教育大学の日差しを遮り風を通す二重のファサード。ベトナムの気候にカスタマイズされたモダニズム。美しくかつ機能的
日差しを抑制するため、緑で囲まれている。
かっこよすぎる階段!

フーカム大聖堂(Nhà thờ chính tòa Phủ Cam、1963-1995築)

キリストが手を広げたような形の建物。
ベトナムのモダニズム建築に多いらしい人研ぎと汎用鋼材を駆使した仕上げや装飾もきれいでした。

ベトナムでは、モダニズムの魅力発見的な活動がSNS上で盛り上がっているとか、当地の建築事情をしれたのもありがたかったです。

ポストモダニズムの再生はリメイクが正解?

「上の世代には懐かしく、下の世代には好奇心をくすぐる」のがリメイクブームのからくりだ的なことを、令和ロマンのくるまさんが『令和ロマンの娯楽がたり』で言っていました。で、「なるほど、もしやポストモダン建築が再評価されるとしたら、この方向か……」と思ったのが一昨日のことです。

ホテル イル・パラッツォ(2023年リニューアル)

11月にリニューアルオープンした「ホテル イル・パラッツォ」がまさにそんな感じで、当時のデザイン手法や歴史と現代の技術の両者を理解する内田デザイン研究所に設計を依頼し、既存にはなかったレストランを新設し「あたかもこうであったかのように」往年の雰囲気で構築するという方法は、「リノベーション」というよりも「リメイク」と考えるとしっくりきます。

イル・パラッツォの地下に新設されたレストラン。かつてディスコだった場所でした
客室は現代の技術で

映画などのリメイクは今の技術で往年にはなかった表現が可能なところが肝だ、みたいな議論があるわけですが、イル・パラにも現代の技術が盛り込まれているので、往年ならではの手作り感や毛深さみたいなものは薄いのだけども、キラキラした華やかさや快適さはあがっています。建築討論でポストモダンのリノベーションについて書いたときに考えたことの先の話が、少しみえてきたような気も・・・。引き続き掘り下げていきたいです。

梅元町の村=梅村(バイソン)が引き続き面白い

2022年秋にたずねて衝撃を受けた、神戸市兵庫区梅元町にある「梅村(バイソン)」。2023年、新たに整備した3つの拠点ができたときに再訪しました。梅村をつくっている西村組の仕事というのは廃屋同然の空き家を面的に買い取って自主施工、施工にはそこに集うさまざまな人が参加するし、材料はリサイクル品が中心という、現在の建築や不動産の仕組みをまるごとハッキングするかのような新しさがあります。

2022年に訪ねたときのバイソン

でもそういうスクウォッターカルチャー的な表現が色濃く伺える一方で2022年竣工の「バイソンギャラリー」は2m26の設計だし、2023年に新しくできた3件は「建築家との協働による空き家活用促進事業」を使って整備したもので、制度や機能性、美的調和も踏まえた上で場所を構築するという計画的な面もあるわけです。この振り幅みたいなものにあらためて驚いたのが2023年。果たして今後、梅村や西村組はどうなっていくのだろう・・・。

「高台の共同茶室」。軸組や開口部の整理修復がなされている。床仕上げに手作り感もあり。 建築家:MuFF 今津修平(神戸市のサイトより)
「住居+シェア工房」の窓辺。軒の出や窓枠がちゃんとしていて「設計意図」が感じられる。 建築家:西村組 西村周治、yuta kunishige studio 國重裕太、上野天陽(神戸市のサイトより)

で、ベスト3件を選ぶ際にどうするか

他にもいろいろ面白かったですが、年をまたぎそうなのでこのへんで。

で、みんなの建築大賞というのをどう選ぶのがよいのか……。「建築界の権威付けにはなっても、一般の人に全く伝わっていない」既存の建築賞のあり方を見直すアワードであると主旨にある。だから”一般の人”が「ここ行きたいな〜」と思ってもらえるような、たとえば「このマンガがすごい」でライターの人が面白かったマンガを3つ選んでおすすめする、くらいの感じでやればいいはず。と、わかってはいるけど一方で、なにかを選ぶ人はその人なりの基準や裏付けを持たなければならぬ、という考え方も必要な気がするので、自分なりの選定基準をつくってフラットに評価し、上位3つを「推しコメント」と共に提出予定です。

とはいえ2023年はこうして建築を取材して何かにまとめる機会はそんなに多くなく、母校の研究員になったり助成金に通ったりして、激変とまではいかないですがゆるやかに生活が変わっている感じがします。2024年は自主事業的なことというか、建築をむしろつくる方向でがんばらないといけないので、より記事書いたりする機会は減るかもしれないです。ホントはてきとうに情報を集約して伝えたり建築や街をウロウロして無責任にうだうだ書くほうが性にはあってるんですがそうもいかず……自分に負荷をかけてなんとかする予定。

以下は見学した建築※リスト。★は2023年竣工または雑誌発表です。2023年は77件の「建築」を見学し、うち29件が2023年竣工または発表でした。2024年も素晴らしい建築に出会えますように!

1/3 等持院の住宅 設計:analogue+Kiiri★
1/23 神山まるごと高専 西上角校舎・学生寮(HOME) /大埜地校舎(OFFICE)設計:shushi architects/吉田周一郎・石川静+須磨一清★
1/25 甲陽園の家 設計:masayuki takahashi design studio
1/28 青山の家 設計:ひとともり
3/3 六録楼 設計:一級建築士事務所エキスポ★
3/9 インターバルハウス 設計:古谷デザイン建築設計事務所
3/11 かもがわクリエイティブベース 設計・運営:さんかくデザインスタジオ 西山涼二★
3/24 仮の家 設計:ドットアーキテクツ
3/25 大谷法律事務所 設計:田所克庸建築設計事務所・田所克庸★
3/29 北白川のフラット 設計:小笹泉+奥村直子 / IN STUDIO
3/29 領域の家 設計:小笹泉+奥村直子 / IN STUDIO
3/29 西陣の立体町家 設計:小林広英+鳥居厚志
3/29 Row House in Nishinotoin 設計:Schenk Hattori
3/29 2/5 設計:柳室純+魚谷みわ子 ファサード設計:Schenk Hattori+studio arch
4/4 ARUNŌ -Yokohama Shinohara- 設計:ウミネコアーキ
4/14 守口市立図書館 設計:SALHAUS
4/22 RAKURO 京都 by THE SHARE HOTELS 共用部リニューアル インテリアデザイン:田中裕之/HIROYUKI TANAKA ARCHITECTS★
4/25 パンガバハウス 設計:矢部達也建築設計事務所
5/6 梅元町の村=梅村(バイソン) 施主施工:西村組 設計:2m26 Mélanie Sébastien、yuta kunishige studio 國重裕太、MuFF 今津修平★
5/16 鈍考 設計:堀部安嗣建築設計事務所★
5/22 大原の住宅の改修工事(仮) 設計:みささぎ一級建築士事務所 松本崇★
5/27 co-en つくばセンタービル アイアイモール跡地改修 設計:/360°
6/4 FITNESS 設計:SSK(木村俊介)★
6/14 Kontum Indochine Café 設計:ヴォ・チョン・ギア・アーキテクツ
6/16 フーカム大聖堂 設計:ゴー・ヴィエト・トゥ
6/16 カムマン教会 設計:BHA Studio
6/16 救世主教会 設計:グエン・マイ・ロック
6/16 フエ教育大学 設計:ゴー・ヴィエト・トゥ
6/24 真如町の家 設計:一級建築士事務所エキスポ★
7/5 ITOMACHI HOTEL 0 設計:隈研吾建築都市設計事務所、インテリア&ランドスケープデザイン:Dugout Architects★
7/9 MIBURO BACKDOOR 設計:KOSAKU★
7/9 千本の家 設計:矢田朝士/ATELIER-ASH
7/11 城崎温泉 小林屋 改修設計:サポーズデザインオフィス
7/11 UTSUROI TSUCHIYA ANNEX 改修設計:垣田博之建築設計事務所
7/11 旅館つばき乃 改修設計:魚谷繁礼建築設計事務所★
7/11 錦水旅館 改修設計:株式会社ワサビ、客室白群アートディレクション:tupera tupera
7/11 三木屋 改修設計:ケースリアル
7/11 城崎温泉 泉翠 改修設計:堀部安嗣建築設計事務所
7/11 お宿とお土産 こぢんまり 設計:設計事務所ima 小林 恭+マナ
7/11 さんぽう西村屋本店 設計:松井亮建築設計事務所
7/20 抹茶ロースタリー 設計:寺川徹建築研究所★
7/22 関西学院大学 設計:ヴォーリズ建築事務所
7/30 三國屋 設計:松井亮建築設計事務所★
8/6 S-HOUSE Museum 設計:妹島和世建築設計事務所
8/6 岡山市民会館 設計:佐藤武夫
8/6 岡山市総合文化体育館 設計:岡田新一設計事務所
8/11 The kind 設計:コトスタイル★
8/18 学ぶ、学び舎 設計:VUILD★
9/11 神戸女学院 設計:ヴォーリズ建築事務所
9/15 京都市立芸術大学及び京都市立美術工芸高等学校 設計:乾・RING・フジワラボ・o+h・吉村設計共同体★
9/16 大林環境技術研究所 本社屋 設計:藤森照信+一級建築士事務所 YURI DESIGN★
9/16 旧ヴォーリズ住宅 設計:ヴォーリズ建築事務所
9/16 YANMAR SUNSET MARINA CLUB HOUSE 設計:芦澤竜一建築設計事務所★
9/16 守山市立図書館 設計:隈研吾建築都市設計事務所
9/16 守山市庁舎 設計:隈研吾建築都市設計事務所★
9/16 多賀町中央公民館 多賀結いの森 設計:o+h
9/17 安満遺跡公園歴史拠点施設 設計:一級建築士事務所expo+京智健建築設計事務所+森田一弥建築設計事務所
9/21 JAKUETS福井本社 設計:橋本尚樹建築設計事務所
9/27 天神ビジネスセンター 基本設計 日本設計、実施設計:前田建設工業、建築デザイン:重松象平(OMA)
9/27 天神中央公園 ハレノガーデン 設計:平瀬有人+平瀬祐子/yHa architects
9/27 ホテル イル パラッツォ 改修設計:内田デザイン研究所★
10/4 下鴨ロンド 設計施工:あめりか屋
10/28 大亀谷の家 設計:器設計製作所★
10/23 五条坂なかにわ路地 改修設計:森重幸子、大庭徹、髙田光雄
10/31 喫茶コレ・ヘレ 設計:IROHA設計室
11/2 BRANCH大津京 全体デザイン監修・内装設計:ジーク株式会社、設計:悠設計、ランドスケープデザイン・設計:E-DESIGN
11/14 金沢美術工芸大学 設計:SALHAUS、カワグチテイ建築計画、仲建築設計スタジオ★
11/14 石川県立図書館 仙田満+環境デザイン研究所
11/14 谷口吉郎・吉生記念 金沢建築館 設計:谷口吉生/谷口建築設計研究所
11/18 膜の教会 カトリックたかとり教会 設計:坂茂建築設計
11/19 シャイニング・クラウズ 設計:平田晃久建築設計事務所★
12/3 house T / shop O 設計:木村松本建築設計事務所★
12/9 西部講堂 設計:大倉三郎
12/19 茨木市文化・子育て複合施設 おにクル 設計施工:竹中工務店・伊東豊雄建築設計事務所JV★
12/26 十津川村災害対策本部施設 設計:RFA★
12/26 高森のいえ 企画立案監修・集落景観デザイン・全体配置計画:蓑原敬、企画立案協力・設計協力:園田眞理子、三浦研、室﨑千重、設計:アルセッド建築研究所、エキープ・エスパス(高齢者向け住宅棟・外構)、安部良アトリエ(一般向け住宅棟・ふれあい交流センター棟・センター広場・雁木棟)
12/26 十津川村復興公営住宅 設計:アルセッド建築研究所

※見学した建築とは:
自分が「建築」を見学したと認識するのは、誰がどういう立場でどうやってつくったり運営したりしているのかが判明し、そこを私が意識的に訪問しているときです。誰がどう・・・という部分については関係者全員を載せきれないので、公的刊行物等に代表者として記載されている(と私が判断した)人名なり会社名なりを添えています。

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