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泣きっ面に夜

もう今日はダメかもしれない

泣いてしまうかもしれない

と思った


数分前、明日の仕事の為に夫は先に寝室に行き私は夫のお弁当の準備を終えて部屋に向かった


化粧水や乳液を寝転ぶ夫の顔に塗りたくり、
愛しい顔を撫でながら

明日の仕事も気をつけてね無理しないでね
と呟く


夫はお手入れされる時間がとても好きで、
理由は私からの愛情をたくさん感じて幸せだからと言っていた


今回も幸せそうにしながら、
愛しい眼差しで自分を見つめていてくれることに気づき少し危機感を覚える


このまま何か言われたら
自分はきっと泣いてしまう


そう思った矢先に、愛してるよ、世界で一番可愛い奥さんだねと言われてしまう
涙を堪えているのを誤魔化しそそくさと寝る準備をする




そして現在、暗闇の中

隣で眠る夫の寝息を聞きながら号泣している


愛しく思う気持ちが目から溢れているのを見ると、その瞬間、自分という存在が相手の心の中にいることを深く理解して泣いてしまうのだ

そして同時にいつか自分が一人になった時、
私はこの瞬間を何度も思い出し死ぬほど戻りたいと声を上げて泣くのだろうと想像してしまうのだ

なぜか愛しい眼差しを向けられることにめっぽう弱く、すぐそこに死を感じてしまう

わけのわからん女だなと自分でも思う


お互いに見つめ合いながら抱き合うように死ねたら良いが、そんなこと叶うわけがない


人は生まれてから死ぬ時まで1人だ
当たり前だけど

そして、1人だから、1人でしかいれないからこそ尊いのだと思う


毎日肌を合わせて寄り添い、キスをしているとまるで細胞が混ざって心臓が2人で一つかのような気持ちになる


そばにいない時は不安でたまらなくなり、1人でいると寂しい
相手の心臓がちゃんと脈を打つ音を聞くと安心するのは、自分も生きていると実感するからなのだろう


想像したくないが、死は平等だ
必ずいつかは1人になる


そして、なんだかんだ1人ででも生きていける強さを持っている


毎日美味しいご飯を食べて、
日常の些細なことから幸せを感じて、
好きな映画を見て、
湯船に浸かってふかふかの布団で寝るだろう


そうして目を閉じるたびに、きっと今ある当たり前の瞬間を思い出して泣くのだ

心臓が2人でひとつだった頃をもう覚えてしまっているから
1人の夜に、片割れを探すかのように胸は苦しくなりもう手に入らない温もりを思い出すかのように熱い涙を流すのだ


未来の自分を知っている
未来の自分が戻りたい今を生きている


そう感じさせられると、途端に目の前の眩しいほどの愛しさに胸が苦しくなるのだ


そんな毎日をこれからも、
いつか失うと分かっていても
当たり前に過ごしてしまうのだろう


今の自分はなんて幸せなんだ
なんて羨ましいんだ


今は知らない未来の自分の分まで一瞬一瞬大事に生きたい

それがいつか苦しみを伴う思い出になるとしても、それこそが生きる理由になると信じたい


そしてまたいつか、
自分もこの世からいなくなれたのならまた出会えるのだろうか


遠距離恋愛はもう良いって言ったじゃんか!
と、怒れるだろうか


必ず迎えに来て欲しい

いつもみたいに当たり前の顔をして、
何度も注意した片足立ちで待っていて欲しい


そんなことをずっと考えずにはいられないのだ


やっぱり今日はもうダメみたい

明日起きたらケロッとしているのにも関わらず、無駄に泣き腫らした顔をしているだろう


夫はそれに気付かず、浮腫んでるねなどとデリカシー無く言い退けてしまうだろう


そしてきっと、あんたのせいで泣いたんじゃいとキレる私を抱きしめて当たり前にいつもの日々を過ごすのだ


早く明日になって欲しい
それと同時に、この夜が永遠に続いてくれとも思う


ありえないほど矛盾した気持ちの奥には、ありえないほど大きい愛が潜んでいる


どうか明日も生きて、
おはよう
いってらっしゃい
おかえり
おやすみ
が言えますように


ただそれだけを祈り、
すやすやと眠る夫の背中にくっついて眠るのだ


毎晩必ず言う、

愛してるよ
おやすみ
また明日遊ぼうね

は、毎日を後悔なく生きる為のけじめと、
祈りを込めていることを夫は知らないだろう


でも知らなくていいよ

知るときっとあなたは泣いてしまうでしょう

同じくらい

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