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南楠


朝、海と浜、眼の二つに水分がたっぷりとあって空気が見える、肌は顔中にあってそれに空気の湿ったものが張り付いてくる、遠くにあって少し移動していた夜に見た光は船だったと思う。夜一杯に貝殻で穴を掘っていた、浜の砂は簡単に掬うことが出来た。腰が埋まる程に掘ったあたりから砂には水分が混ざって重くなっていた、頭が隠れる程に掘った頃に、浜の壁面には草の根がびっしりと繁っていた。その根を貝殻を持っていない方の手で引っ張ってみる、根に付いた土が湿っていた、海が絶えず動いているのが聞こえ続けている。月の形は変わらないまま角度だけを位置移動している、引っ張った根は強く広がっていて易々と千切れるものではなかった、そして地上には植物はあっただろうか、そう思えば植物の緑はこの浜にはない、プラスチックの色のついたものがよく転がっているばかりだ、貝殻を手に取る前にはもちろんこの手を使って掘っていたのだ、手は握り込めば堅くなるがその形では浜の砂に丸いぼこがあとになってつくだけで一向に掘り進めない、それは分かっていた、手は平にして掘るものだ、肩から伸びた骨は肘を曲がって段々と細くなり先で五つに分岐する。それの骨の周りに肉がついて皮で包まれている、手は柔らかいものだ、何も鍛え上げられていない。それでも砂はしっとりと柔く崩れるように穴に成っていく。まずは座り込んでいたのだ、確か、この夜の海も空も濃紺で波の皺しかわからぬものを眺望していた、座り込んでみると冷えていた、

階段と星座、白、と見えたのだが目がどうもだめらしい、花束を集めて売っていると言えばいかにも古風だ、道端に咲いているものかそうではないのか、電気がついた同じ時間だ、腹を空かせている、いつも腹を空かせているのは大きい動物だったらしい、

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