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南極じゃなくてもいい



 「宇宙よりも遠い場所」を全話視聴しました。いつ見ても面白いアニメです。真っすぐで、綺麗で、ここではないどこかへ行きたいと願う人間の背中を後押ししてくれるような、そんなお話。最終話を見終わる頃には、どこかへ行きたくてたまらない気持ちになります。





この物語は、どこにでも居るような普通の女子高生たちが南極大陸を目指す内容です。日本から約14,000km離れた場所にある氷に覆われた大陸。そんな遠い場所へ自分の殻を破って、自分たちの力で到達する。勇気と覚悟、一歩踏み出す力さえあれば、誰だってどこへだって行ける、ということを描いた青春群像劇です。





南極って、アニメだから行けたんでしょう?と思うかもしれませんが、この物語の本質はそこではないと感じます。大人になると色んなことに慎重になります。自分の力量がある程度分かるからこそ動く前に怯んでしまったり、自分を過信できたあの頃とは違う、と現実を見てしまったり。そんなことを「若くないから」で言い訳にして、心のどこかで出来るはずないと思い込んでしまいます。





「宇宙よりも遠い場所」に出てくる高校生たちも、最初は"南極へ行く"という現実的ではない計画の話に勢いで乗ったは良いけれど、どこかまだ信じきれず疑心暗鬼で、覚悟も決めきれません。本当に行けるんだろうか、自分はやり遂げられるだろうか、そんな不安を抱えながら物語は進んで行きます。





なにか新しいことをするときに感じる不安は、大人でも子供でもそう変わらないんだと思います。「大人になると、」という枕詞で色々理由をつけて誤魔化してしまいがちですが、実際自分が思い込んでいるだけで子供の頃と大人になった今、根本的なものはさほど変わらないような気がします。





自分を信じきれるか否か、それが全てのように思えました。まあ、それが難しいことを知っているから一歩が出せないのかもしれません。作中の高校生たちも同じです。「宇宙よりも遠い場所」で描かれているのは彼女たちの物語でもあり、わたしたちの物語でもあるのです。







高校生たちの等身大の叫びは、どうしてあんなに胸に迫るものがあるんでしょう。純粋で、真っすぐで、ハリボテに外側を覆われていない剥き出しの感情、正面から浴びると泣けてしまいます。南極へ行く彼女たちは超人ではありません。抱えている悩みも、なにも特別なものではありませんでした。学校に馴染めなかったことや、友達と喧嘩してしまったこと。そんなよくある、でも思春期の人間にとってはものすごく大きな悩みに戸惑いながら生きていた彼女たちは、「ここではないどこかへ行きたい」という共通の願望を糧に自分の殻を破って進んでいきます。





今いる場所が全てではないのです。世界は自分が思っている以上に広くて、思っている以上に可能性で溢れています。学生時代は特に、今いる場所が全てだと思いがちですが、一歩外へ出たら新たな世界が広がっています。彼女たちは「学校」というコミュニティの外で出会いました。同じ高校でもない同じクラスでもない、共通するのは「ここではないどこかへ行きたい」という願いだけです。高校生を題材にしていますが、学校内ではなく離れた場所で物語が展開される部分にメッセージ性を感じますね。その場所に馴染めないなら違う場所を見つければいいのです。






この「宇宙よりも遠い場所」は、やはり特別な話ではないと思います。特別ではない人でも一歩踏み出す勇気があれば、どこへだって自分の思う場所へ行ける、そういうことを描いたお話だと思うからです。「ここではないどこかへ行きたい」という感情は多くの人が持っているのではないでしょうか。地元を出たい、実家を出たい、変わらない日々に囚われたまま死んでいくのは嫌だとか、或いは今いる場所が大切だからこそ違う場所へ行きたいと思える、とか。理由はさまざまですが、人が旅へ出るのはそういう「ここではないどこかへ行きたい」という願望からくるものなんだと思います。





彼女たちが南極へ行きたい理由は様々だったし、大層なものでもありませんでした。青春したいとか、受験前に大きなことをしたいとか、ふわっとした理由だから夢を見ちゃいけないなんてことはないと教えてくれます。たとえ壮大な夢を笑われても笑わせとけば良い、そうして夢を叶えたときに今度は自分がソイツらを笑ってやる。と、前へ突き進む彼女たちの姿勢は格好良く、勇気をもらえることでしょう。





だからやっぱりこの物語はわたしたちの物語でもあるのです。行き先は別に南極じゃなくてもいいんだと思います。もっと言えばどこだって、なんだっていいんだと思います。物語の中の彼女たちは南極へ行けたけど、現実はそうじゃなくても良い。たまに知らない街へ旅行へ行ったり、新しいことを始めて三日坊主で終わったり。別にやり遂げられなくたっていいと思います。勇気を出して、まず一歩を踏み出す。人生の中でそうやって少しずつ小さな一歩を踏み出して行けば、いつかそれぞれが想う「南極」にだってたどり着けるんだと思います。





一人で行くのもいいですし、二人でも三人でも四人でも。ときには勢いで誰かの計画に乗って流れに身を任せると思いがけない冒険があなたを待っているかもしれません。





「宇宙よりも遠い場所」、普通の高校生たちの物語。わたしたちの物語。機会があったら是非見てみて下さい。彼女たちと見た南極の美しい景色の数々は心に刻まれ、ここじゃないどこかへ旅立つとき、きっとあなたの背中を後押ししてくれると思います。






おしまい








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