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展覧会「みんなのミュシャ』に行ってきて

 7月末の日、大学を出て1年以上が経った。それまでに何回か展覧会には行っていた。だが4年間ずっと続けてきた、感想を文字に起こすという行動をしていないことに疑問を抱いていた。当時は苦行であったそれは、4年間で染み付いて展覧会に行く事とセットになっていた。そこで初めてのこの場を使い、大好きなミュシャの作品と展覧会についての感想をまとめていく。

 今回の『みんなのミュシャ ミュシャからマンガへー線の魔術』は去年の7月から渋谷のBunkamura ザ・ミュージアムで巡回展として始まり、9月の6日まで静岡県立美術館で開催している。展示品の中心はミュシャ様式を確立させたポスター作品が多く、また自画像や習作等写実性の高い作品も幾つか観ることができた。さらにミュシャの作品だけでなく、彼を尊敬した現代のアーティストや漫画家の作品も観ることができた。以前静岡市美術館でも彼の展覧会があったが、その時はポスターやデザインが中心ではなく、写実性や彼の一生について詳しく説明した内容だった。彼のポスターに多く使われる有機的な曲線や幾何学模様に用いられた“線”にこだわった今回の展示では、多くのポスターやその習作によりミュシャ様式の線を詳しく鑑賞できた。

 多くの作品の中から特に好きな作品がある。それが1894年に制作された《ジスモンダ》である。縦に2mある長身の作品は、サラ・ベルナールが演じたジスモンダの広告として描かれたポスターである。ミュシャがこれほどの大作を任されたのは初であり、ポスターの発表が彼の名を広めたきっかけとなる。単純にサラ・ベルナールの美しさや構図だけで、有名になった訳ではない。背景の曲線や幾何学模様、多用した植物などそれまでの美術様式にはないデザインを使った。後に多くの画家やデザイナーが真似をした作風は、サラ・ベルナールのイメージを表現する為に使われた草花と装飾から始まった。

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 ミュシャの描いたポスターや挿絵は綺麗なものをありのままかそれ以上に美しく描いており、良くも悪くも分かり易く素直に描いた作風だと感じる。私は高校時代に印象派のモネやルノワールに興味を抱いていた。それを担任の先生には色は汚くハッキリとしない雰囲気の印象派が何故好きなの?と疑問に思われ、逆に自分はただ美しく描いた肖像画やダ・ヴィンチの作品に興味を持てなかった。しかし大衆に分かり易く美しい作品は、人に癒しや楽しさ元気を与える存在としてあるのだと気付いた。自ら絵を描くアートセラピーとは少し違うが、明るく単純に綺麗なモノを見る機会を作ることも美術療法に近いものだと思う。心身共に疲れている時は、作者の意図や歴史的事実を考える難しい絵画より、ミュシャやロココのジャン・オノレ・フラゴナールの様な明るく楽しい絵画の方が見終わった後気楽な状態で帰ることが出来る。ストレスの多い現代にミュシャの展覧会が開催されたのにはそういう意図もあるのかと考える。 



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